力の勇者 ハーブ
「や、やるな。だが四天王の一角、轟音のボンゴ様はこの程度じゃやられねぇぞ!」
城内の玄関ホールにてボンゴと勇者が対峙している。ボンゴの相手は一人、勇者は単身で魔王城に乗り込んできたのだ。
「あー、もうそう言うの面倒臭いんで。いい加減死んでくれますか?」
色鮮やかな金髪を鶏冠のように立たせ、ガラの悪い口調で話す勇者は、剣を肩で担ぎながらボンゴに言う。
「なんと言われようと、ここは通さねぇ!」
全身に生々しい切り傷が刻まれたボンゴ、それでも気迫は衰えることなく愛用の斧を勇者目掛けて振り下ろす。
しかしボンゴが必死で振り下ろした斧は、勇者に当たることはなく遠くへと放り投げられる。
遠くへと飛ばされた斧にはボンゴの右腕が付いており、ボンゴは切り離された自らの左腕を見つめる。
「え?」
痛みよりも先に、今起きた事に理解が追いつかないボンゴ。
「あんた弱過ぎ。もう飽きた」
勇者の姿が目の前から消え、再び声だけボンゴに届いたときは無数の斬撃がボンゴの体に刻まれていた。
「ぐわぁぁぁl!!!」
ボンゴは断末魔とともに、辺りに血を噴き出しながら倒れる。
「四天王でこの程度って、これヌルゲーですわ」
ボンゴの断末魔は城中に響き渡り、それはフォルテの耳にも届き、それから少しして、ボンゴが倒されたとの一報がフォルテの元に届いた。
「ボンゴさんがそんなにあっさりと」
フォルテは信じられないという気持ちと、それだけ相手の力が強大である事実を実感していた。
「まさに手も出なかったみたいですね。これは、フォルテ様が相手したらそれこそ手も足も無くなっちゃうかもしれませんね?」
玉座の上で震えるフォルテに、隣で立つモニカは欠伸をしながら言う。
「そんな、モニカさん。嫌なこと言わないでくださいよ」
「相手の力量を知ることは大事ですよ。さぁ、気を引き締めていきませんとね」
モニカの言葉にフォルテは更に緊張し唾を飲み込む、そして永遠にその扉が開かなければいいと願いながらもその時は無情にもやってきた。
「邪魔するよ。あんたが魔王かい?」
フォルテの願いも虚しく無情にも扉は簡単に開き、招かれざる勇者を室内へと引き入れる。
鮮やかな金髪を立たせ、重厚な鎧も、大きな盾も持つことなくただ粗悪な剣を肩に担いで現れた。
「勇者か、予想より早かったな」
フォルテは勇者を目の前にし、覚悟を決める。せめて威厳だけは取り繕う。
「あまりにお話しにならない警備だったもんでね、これでもゆっくり歩いてきたつもりなんだ」
勇者は、恐れることなく魔王に近づいて話しかける。剣を構えることもなく、警戒心のない仕草で歩いていた。
「とりあえず、よく来た勇者よ。私はフォルテ13世、魔族を束ねる王である」
「俺はキター国のハーブ。長かった旅もやっと終われる」
ハーブと名乗った勇者は疲れた表情でフォルテに言う。
「ずいぶん余裕の態度だな。もう終わった気でいるのか?」
フォルテは気持ちを落ち着かせようとハーブに話を振る、その会話から何とか戦わずに済む道を模索する。
「もうそういうのいいから、さっさと始めよう。いや、終わらせようか」
ハーブは戦いを始めるべく剣をフォルテに向ける。フォルテは助けを求めるように隣に佇むモニカを見るが、彼女は興味なさげに遠くを見つめている。
そうしているうちにハーブは剣を振り上げて近づいてくる。
「ちょっと待て!?まだ心の準備が、」
「そんなものこれから死ぬ奴に必要ない」
フォルテは慌てて手を差し出してハーブに止まるように促す。しかしハーブは構わずに距離を詰めてくる。その際、フォルテの緊張した体から微量の魔力が洩れ、それが火の粉となって手先から飛び出す。
放出された魔法の火の粉は不意をつかれたハーブに直撃し、ハーブの体は煙をあげる。
「いやぁフォルテ様、相手を油断させつつ不意打ちとはやりますねー」
「いや、決してそんなつもりは。すいませんハーブさん、悪気はなかったんです」
フォルテには悪気のない行動であったが、それに感嘆するモニカ。それは、フォルテ本人に攻撃の意思はないまさに手違いの魔法でありフォルテのもてる最大の攻撃であった。
そんなフォルテの攻撃による煙がおさまると、そこには衣服に少し焦げ跡を残したハーブが立ちすくんでいた。
「あ、無事でしたか。良かった、いまの攻撃は手違いでして、」
フォルテは魔王の威厳を捨てハーブに謝る。攻撃されたハーブは、ダメージを受けた様子もなく、服の汚れを軽く払っている。
「この程度なのか?」
ハーブは考え込むように、そして少し残念そうに呟く。何かに納得したハーブは武器を捨て丸腰になる。
「あっ、私の話を聞いてくれるんですか?それは、よかった」
ハーブの行動に話し合う姿勢を感じたフォルテは喜びの声を上げる。
「ちげぇよ。これはいわゆる、ハンデだ」
まるで遊びを楽しむように笑顔を浮かべて否定するハーブ。
「俺はこう見えても慎重派でね、絶対大丈夫と確信するまで先に進まず、ずっと安全地帯でレベル上げを繰り返してきた。そのおかげで、今ではレベルもカンストしている。そして絶対の自信を胸に意気揚々と魔王城まで来たが、今度はあまりに強くなり過ぎて虚しさだけが残った。さっき倒した四天王とか言うやつもそして魔王、アンタも弱過ぎだ!ハンデとして武器も防具も付けないから、少しは俺を楽しませてくれ」
ハーブは自分の力に絶対の自信があるのか素手で戦いに挑むつもりであった。
「さぁ、ラストバトルだ。なぶり殺してやから楽しめ!」
ハーブは不敵な笑みを浮かべながらフォルテに飛びかかる。その速度はフォルテの目では捕らえきれず、フォルテは恐怖で目を閉じた。
「あんたねぇ、舐めすぎ」
ハーブの拳がフォルテに届く寸前、モニカ二人の間に入り込みハーブを殴りつける。あまりの速さと衝撃にハーブは、受け身もできないまま吹き飛ばされ床を何度も転がる。
「な、なにが!?魔王め、力を隠してやがったな。こ、こんなのクソゲーだろ・・・」
ハーブは信じられないと言った感じで悪態をつき、そして力尽きていった。
フォルテは静かに横たわったハーブを見つめた後、隣にいるモニカに目をやる。
「人生舐めたらいけませんよねぇ?」
勇者以上の恐怖を隣から感じ、フォルテは改めてモニカの呼び名を思い出していた。
「裏ボス」
モニかの力は超越的過ぎてこの世界線を超えていると噂されている。その理不尽な力は魔王を凌ぎ、真のボス、表には出ない裏の支配者とも言われていた。
その後故郷へと逃げ帰ったハーブはモニカの力をフォルテの実力と勘違いし、魔王の恐怖を各国に流布して回る。
そのおかげで魔王に挑む勇者の数は激減し、フォルテはしばらく平穏な日常を過ごすのであった。
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