第17話
久米は輝の手を握ると胸や尻に触れさせて頬に唇を触れると、朝食を終えたらベッドでしようと要求してきた。
「久米さん」
「何?」
「俺さ、身体も大事だと思うけどまずはお互いの思いやりも大事だと思う」
「それ、お説教ですか?」
「違うよ。お互いを大事にしたいのなら、頻繁にセックスだって求めなくても、楽しいことを増やしていきたい。まずは時間をどう作って合わせようかとか、一緒に行きたいとことがあるのならあらかじめ調べてほしいし。恋人のようにそうして付き合っていかないか?」
「家庭と私と、両立できるんですか?」
「やろうと思えばできる。どうしても無理なときは伝えあう。無理矢理叶えようってことはしないこと。それを守れれば続いてはいけるよ」
「現実は家庭の時間が多いですよね。それがネックになるんです」
「以前にも言ったけど、今は娘の事が放っておけないんだ。俺はあの子を守りたい。親として生きている以上、無責任な人間になんかいたくないよ」
「そう……登坂さんはそういう人だと認識していないと付き合えないってことか」
「君の忍耐もあるから、心がついていけなくなったら、その時はまた話をしよう。最後になった時に悲しい気持ちで別れたくないんだ」
「自分勝手。でも……わからなくもないです」
「今は余計な事を考えるのはやめよう。ほら、もう冷めているから食べるだけ食べてくれ」
再び元の席に戻り無言で食べている彼女を見ていると、自分で発した言葉がわずかに苦しいと感じた。だが、こうして二人でいることは既に自分たちを取り巻く人を傷つけていることに気づいている彼。いつ暴露されてもいいように覚悟は決めていた。
身支度と整えてから彼女と次に会う約束をし、家を出た輝は数キロ離れた駅の近くに構えるカフェに入り、昼になるまでの間そこで過ごしていった。莉花から来たメールには実家に行っていることを伝えられ、予定より少し早かったが店を出て自宅に帰っていった。
寝室へ入り荷物を片付けると昨夜あまり眠れなかったのか身体が重く感じていたので、ベッドで仮眠を取るにした。
十五時。玄関の開閉する音が聞こえてきてリビングへ行くと、莉花と結衣が帰宅していたので結衣を代わりに抱えてあげようとしたが、莉花は自分でベッドに連れていくからやらなくていいと言ってきた。
何かあったのかと訊いたが特に何もないと返答し、寝室へ着替えをしに行き、再びリビングへ来ると彼女は無言のままテレビをつけて音量を小さくしてしばらく見ていた。
書斎でパソコンで作業をし終えると、十八時になっていたので台所へ行くと、莉花が夕食の支度をしているのを見て手伝うかと言ったが、彼女一人でやると言って来たのでとりあえず任せることにした。二十時が過ぎたところで結衣を寝かせつけ、台所のガスコンロでお湯を沸かしている時に、莉花が聞きたいことがあると言ってきたので、火を消しどうしたのか訊いてみた。
「今日ずっと考えていたことがあった」
「どうした?」
「輝、昨日会社に電話したの。そうしたら有馬さんが出てあなたが午後から休暇届を出して休んだって聞いたの」
「……ごめん。ちょっと休みたかったから一人で出かけていたんだ」
「大阪に行くって行っていたでしょう?本当はどこに行っていたの?」
「都内だ。映画見たり書店に行ったりあちこち出かけて時間を潰したんだ」
「その後どこに泊まったの?」
「品川のビジネスホテル。仕事じゃなったから領収書はもらわなかった」
すると、莉花が寝室へ行きクローゼットの中にかけてあるスーツのポケットの中からあるものを取り出して、輝のところに戻ってきた。
「これ、誰のピアス?」
「それ……どうして……」
「私、ピアスしないの知っているのでしょう?どうしてあなたがこれを持っているの?」
それは以前に久米にプレゼントしたピンクゴールドのピアスだった。なぜ彼のところに入っていたのかも不審に感じていた。
「ねえ、本当は誰といたの?女の人でしょう?」
「……そうだよ」
「誰?」
「この間話していた久米さんという本店で働いている人だ」
「いつから付き合っているの?」
「札幌のイベントがあった時に打ち上げの後ホテルで一晩過ごした」
「まだ会ったばかりの間柄なのに?どうしてそんなことができるの?」
「気が合ったんだ。それで関係を持った」
「彼女が上京したことは偶然じゃないでしょう?初めから分かっていて二人で策を練っていた?」
「それは違う。当時は全く知らなくて本店に行ってから紹介されて気づいた」
「……都合が良すぎるよ。気色悪い」
「本当だって。上京の事は聞かされていたけど、まさか本当にこっちに引っ越してくるのは予想外だった」
「その後、何回会っていた?」
「五回は……」
「何度したの?」
「え?」
「会うたびにヤッていたんでしょう?ねえ、これまで何回彼女を抱いて満足していたの?!」
すると、莉花は冷蔵庫から食材を取り出して輝に当ててケチャップやマヨネーズ、調味料を開栓して彼の身体に投げつけてはどんどん衣服が汚れていき、奇声をあげながら輝につかみかかり、
「ふざけないで!家族よりも若い女が大事なのか?」
「結衣を裏切ってその女のところにしがみつくように抱いていたのか?」などど、罵声をかけながら彼の身体を叩き出していた。
彼も彼女に反発するように押さえつけて止めようとしたが、一向に止める気配がないので怒鳴り返した。そうしていると奥の部屋から結衣がその音に反応して泣きわめいていた。
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