第16話

「どうか、しました?」

「こういう間取り、昔自分が一人暮らししていた時の雰囲気に似ているなって」

「大学出てからは最初の就職先ってどこでした?」

「広告代理店。あの頃は時間外労働で睡眠時間も削られてさ、途中で体調も崩してそれから違う就職先見つけようってなって」


「ストレスですか?」

「そう。一時期心療内科にも行っていたくらい落ち込んだこともあってさ。その後に今のところが中途採用の募集していたから受けてみたら一発で入れたんだ」

「そうだったんですね。今は病院には行かれています?」

「全くなくなったよ。初めは継続しようか悩んだけど、地方行っていると色々働き方を学べた分回復していって、体力もついていったんだ」


「そうだったんですね。……これ、カモミールとローズヒップのブレンドティーです」

「ありがとう。いただきます……うん、美味しい」

「よかった。これ、冬季限定のブレンドティーで身体の巡りを良くする効果もあるんで、ゆっくり飲んでください」

ものだね」

「ああ。この前限定ものには弱いって話をしましたね」

「ついつい手が出てしまう……まあわからなくもないかな」


「あの……ケースの中って本当に一式持ってきたんですか?」

「うん。お泊りセットみたいな感じだな」

「何それ女子っぽい。その年齢で……」

「あ、言ったな?」

「すいません、つい滑って……」

「ふふ。こういう風にゆっくり話せるのもなんかホッとするな」

「自宅だと結衣ちゃんいますし、休まるところもありませんよね?」

「ぐっすり眠ってくれる日もあるよ。そういう時は莉花ともゆっくりできているし。まあ最近になってからそう思えるようになってきたかな」


「ちょっとお願いがあるんですが」

「何?」

「そのうち、莉花さんにも会う事ってできますか?」

「結衣の機嫌次第になるよ。いつになるかは未定だけど、一応話しておこうか?」

「はい。こうして本店の人間とも顔を合わせることもあるから、店舗の件を踏まえて伝えておいてください」

「わかった。なんとかうまくいっておくよ。でもさ、俺らは特に付き合っているわけではないし、何て言うんだろういわゆる……」


「不倫。完全に不倫です」


「その言葉って世間体だと軽蔑されるものだけど、俺はどちらかというと……純愛に近い感じにも思えているんだ」

「純愛ですか?なんか都合よく言っていません……?」

「都合よく言いたくてそう言っていることではないんだけど、俺は久米さんに恋愛感情のように慕っているところがある」

「私達の関係って、一般的な恋愛と同じってことですか?」

「二人でいる時はそういう風に思っていたい。その方が気持ちが優しくなれる」

「私も……そうしていたいな。その方が変に関係を持つよりかは、そう心の奥でそう感じていたい」

「わかってくれる人でよかった。付き合ってくれていつもありがとう」


久米はテーブルにマグカップを置くと彼の太ももに手をかけてきた。


「また、くれますか?」


彼は少し俯いて首を横に振った。


「どうして?」

「添い寝」

「え?」

「このベッドで一緒に静かに寝たいんだ。それでもいいかい?」

「やっぱり疲れている?」

「少しね。したいのもあるけど、じっくり温まりたいんだ」


彼は彼女の手を自分の頬に寄せて手の甲にキスをした。お互いが抱き合うと深く息を吸いその温もりを肌で感じようとしていた。一旦身体を離すと着替えるから脱衣所を貸してくれと言い、彼は立ち上がりそこへ入っていった。その間に彼女も部屋着に着替えて洗面所で歯を磨いていると、彼もやってきて一緒に磨いていった。

その後、照明を消すと二人はベッドに入り、彼の胸元に寄りかかり顔を眺めているうちに、キスがしたいと言ってきたので唇をそっと重ね合わせていった。彼が仰向けになるとその上に彼女が覆うように身体を乗せてきて、頭を両腕で抱えて唇が無造作に触れ合うと笑いながらキスをしていった。


「ああ、したいな。こうしていると下が熱くなってくる」

「我慢して。次に会ったときは、たっぷり時間をかけてセックスがしたい」

「そう、そうね。時間が費やした分してみたい。誰にも知られたくない、私達だけの気持ちいい事……」


眠気が強く出てきたのか次第に瞼が音たくなり、彼の肩に寄り添い優しく寝息を立てて眠り、その顔を眺めながら彼もまた静かに目を瞑って眠りについていった。

翌朝七時。二人の温もりが残る布団の中を久米は気持ちよさそうに寝返りを打ち、目を覚まして起き上がると、台所に輝が何かを作っている様子が視界に入ってきた。彼の背中にもたれて抱きつくとおはようと声をかけると、香ばしい卵液の香りが漂ってきた。


「これパンですか?」

「フレンチトースト。食パンがなかったからコンビニで買ってきて作った。顔洗っておいで」


その後テーブルに並べられたプレートにはトーストとベーコン、サラダとヨーグルトにコーヒーが添えられ、彼の手際の良さに満悦し、ひと口ふた口と食べていくことに、顔がほころんでいた。


「そんなに嬉しい?」

「はい。なんか、彼氏ご飯いただいている感じがする」

「そう?それはよかった。久しぶりに朝飯作った」

「普段はずっと奥さんが?」

「ああ。休みの日は作る時もあるけど、あとは任せきりなんだ」

「私のために作ってくれる人がいるの、お得感がある」

「料理はする?」

「はい。前もって作り置きして何日か持たせて、あとは適当に惣菜を買ってくる感じです。あの……」

「うん?」

「今日なんて言って帰るんですか?バレません?」

「出張だと言ってある。恐らく大丈夫だとは思う。時間見ながら行動していくからなんとかなるかな」


彼女は立ち上がり彼の隣に座って身体を寄せるともう少し居てほしいと甘えてきた。

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