一難去ってまたですか①

 タクロウたちと分かれ見回りを開始したジーナとパーク。

 速足で焦るジーナに合わせるように、パークはその後ろを歩いていた。


「焦り過ぎはよくありませんよ? ジーナさん」

「焦ってなどいない」

「そうですか……あなたも大変ですね。優秀な姉と常に比べられて、さぞ息苦しかったでしょう」

「……」


 パークの言葉を無視するように、ジーナは駆け足気味になる。

 嫌な話題を振られ、無意識に逃げようとしていた。


「あなたは頑張っていると思いますよ。でも評価されない。一般騎士よりは多少優秀でも、より優秀な姉の存在で霞んでしまう」

「……その話題はやめろ」

「心苦しいですね。もっと評価されたい。こんな世界では……あなたは一生不憫なままだ」

「うるさいぞ!」


 怒りのままに振り返る。

 が、そこに彼の姿はなかった。

 声は再び後ろから聞こえる。


「可哀想ですね。ジーナ」

「なんだ? どうなって――!」


 トン、と首元を叩かれた衝撃で倒れ込む。

 薄れゆく意識の中で見たのは、ニヤリと笑う口元だった。


  ◇◇◇


 ポタリ。

 水滴が頬に落ち、その冷たさでジーナは目覚める。


「ぅ……ここは……!」


 じゃらんと金属音が鳴る。

 音の正体は手錠と足枷に繋がれた鎖だった。

 目覚めたジーナは自身の手足が拘束され、武器や鎧もはがれていることに気づく。

 乱暴に外そうとするが、彼女の力ではびくともしない。


「なんだこれは? どうなって……」 

「お目覚めかな?」

「――! 貴様は……どういうつもりだ? パーク」


 暗闇の中から現れ、ニヤリと笑みを浮かべたのはパークだった。

 ジーナは彼を睨むが、気にせず近づく。


「気分はどうかな?」

「貴様……何を考えている? これはどういう意味だ?」

「まだわからないのか? とことん無能な妹で助かったよ」

「何を……」

「マヌケな奴だよ。必死になって犯人を捜して、となりにいるっていうのに」

「――! ま、まさか……貴様が……犯人だと言うのか?」


 ジーナは驚愕する。

 不敵な笑みを浮かべるパークを睨む。

 その首には、女神の祝福の証である首輪がある。


「貴様が首謀者か。咎落ちに命令して街の人を……」

「残念、仲間なんていないぞ? やったのは俺一人だ」

「なっ……ありえない! 貴様の首には首輪がある! 人攫い、殺人を犯して祝福を受け続けるなんてできないはずだ!」

「だーかーら、お前はマヌケなんだよ」


 パークは首元に手を回し、装備していた首輪を外した。

 ジーナは驚愕する。

 女神の祝福たる首輪は、自分の意志でつけ外しできるものではない。

 それができるということはすなわち……。


「偽物?」

「お前って本当に愚かだな。騎士だって嘘も簡単に信じる。騎士カードを見れば一発で嘘だってわかるのに、それをしない。ま、俺のは冒険者カードだけどな」

「すべて……偽装して……そんなことが……」

「できちゃうんだなー。首輪もそっくりなのを作れば、普通の人間に見破る手段はないんだよ。あとは簡単だ。首輪があればみんな安心する。騙すも殺すも容易い。こいつをくれたアダムストには感謝しないとなぁ」

「――! 貴様、アダムストのメンバーか」

「だったらどうした? 許さないってか? 残念だけど無理だぞ」


 パークは乱暴にジーナの胸元に手を伸ばし、服を破り捨てた。

 露になった胸元、その豊満な胸を掴む。


「っ――や、やめろ!」

「俺の目的はお前じゃない。お前を餌にして、アイギスをおびき出すことだ」

「あ、姉上を……だと?」

「唯一の肉親がアダムストに捕まったと知ったらどう思うだろうなぁ? しかも、見た目は首輪もあって無事なのに、実際は侵され、穢された後だと知ったら?」

「やめろ……やめてくれ……」


 いやらしい手つきで胸を揉む。

 パークはアダムストより、アイギスを殺すように命令されていた。

 アイギスは強い。

 普通の手段では勝ち目はない。

 故に弱点を見つける。

 妹であるジーナを捕え、交渉材料にしておびき出し、罠に嵌める。


「いやらしい身体しやがって。この身体だけなら、姉にも勝ってるんじゃないのか?」

「うるさい! その手を放せ!」

「わかってねーなぁ。お前はもう逃げられないんだよ。ここでたーっぷり大人になって、後はアイギスを釣るための餌だ。二人とも並べて犯したら最高の気分だろうなぁ!」

「ふざけるな! そんなことは……!」


 抵抗しても手足が動かない。

 絶体絶命の窮地、浮き彫りにされる弱さから、瞳が潤む。


「いや……誰か……」

「騎士が命乞いか? 情けないな。やっぱりお前は出来損ないの――!」


 直後、部屋の扉が開く。

 というより、爆発して叩き壊された。


「な、なんだ?」

「――! 貴様は……」

「げほっ、ごほっ……カナタ、もうちょっと優しく開けてくれないか? 埃が喉に……」

「あ、ごめん。悪者がいると思ったらつい……」

「格好悪いですね」

「うるさいな! いいんだよ! とにかく!」


 立ち上った埃と煙が晴れ、姿を見せる三人。

 その中心に立つ男が、囚われたジーナに指をさす。


「助けに来たぞ! ジーナ!」


  ◇◇◇


 一時間ほど前のこと。


「――は? 偽物?」

「はい。たぶんあの首輪作りものだと思います」

「首輪って付け替えできたのか!」


 カナタが驚いて、自分の首輪を外そうとする。

 もちろん外せない。

 これはアクセサリーじゃなくて、そういうものだから。


「ってことは、あいつ咎落ちなのか?」

「は! そういうことですね!」


 晒すの今の反応……まさか気づいてなかったのか?

 偽物だったことに気づいていたのに?


「咎落ちなら、ジーナが危ないぞ!」

「ああ、急いで探そう! まだ遠くには行ってないはずだ!」


  ◇◇◇


 そして現在に至る。

 俺たちは走り回り、ジーナを捜索した。

 かなり疲れたぞ。

 まさかあの短期間で、街の外周付近まで移動しているとは思わなかったからな。

 でも……。


「見つけたぜ! 似非イケメン!」

「……驚いたな。よくここがわかった。というより、どうして気づいたのかな?」

「ふんっ、俺の目はごまかせないぜ」

「見つけたのは私ですよ!」

「くっ……まぁそうだ。今回ばかりはお手柄だ! サラス!」


 彼女が首輪が偽物だと気づかなければ、今頃ジーナは酷い目に合わされていただろう。

 その証拠に、乱暴にされそうになったあとが……!


 な、なんだあの胸は!

 まさか揉まれたのか?

 直で?

 というか初めて生おっぱい見ちゃったよ!


「は! これは浮気に入るんだろうか……」

「み、見るなケダモノ!」

「そうだよ! おっぱいが見たいならあたしが後で見せてやるから!」

「マジか! よし頑張ろう!」


 我ながら単純な思考だな。

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