男嫌いな騎士④

 俺たちは夕刻まで時間を潰し、約束の時間になった。

 冒険者ギルドに到着すると、俺たちよりも先にパークという新しい騎士の男性が待っていた。

 俺たちを見つけた彼は、ニコリと笑ってさわやかに挨拶をする。


「こんばんは。タクロウさんですよね?」

「お、おう。そうだけど……」

「酷い噂も流れていて大変でしょう。僕は噂で人を判断しませんので、安心してください。これからよろしくお願いします」

「――おう! こちらこそ」


 なんだこいつ?

 めちゃくちゃいい奴なんじゃないか!


「単純な男ですね」

「うるさいな。お前も挨拶しろよ」

「すまない。遅くなった」

 

 そんなやり取りをしていると、ジーナが駆け足で俺たちの元へやってきた。

 いつも先に来て待っている彼女が最後なんて珍しい。

 パークが周囲を見渡し、俺たちに言う。


「全員揃いましたね」

「ああ。じゃあ見回りを始めるか」

「その前に僕から提案なのですが、今夜から二手に分かれるのはいかがでしょう? この人数でひと固まりに歩くと目立ちます」

「確かにそうだな……」


 自己申告だが、パークのレベルはジーナと同等らしい。

 戦力的にも分散して問題はないか。

 せっかく戦力が増えても、行動パターンや範囲が一緒じゃ意味ないのは確かだ。

 俺はパークに尋ねる。


「どうやって分かれるんだ?」

「そうですね。無難に、騎士と冒険者のチームに分かれるのはどうでしょうか?」

「私はそれで買わない。タクロウたちが問題ないのであれば」

「俺はいいぞ」

「あたしも! そっちのほうが動きやすそうだし」

「私は安全そうな騎士チームに入ります!」

「アホか。お前はこっちだ」

「うぅ……」


 チーム分けは問題なく決まった。

 ルートもお互い逆方向から周り、最終的に冒険者ギルドで集合するという流れに決まる。

 さっそく出発しよう。

 そんな話をしていると、一人の男性が俺たちの元へ駆け寄ってくることに気づく。

 ものすごい剣幕だ。

 明らかに怒っている。


「ちょっ、ちょっとタクロウ。なんかあの人怒ってるみたですよ! また何かしたんですか?」

「おい、なんで俺なんだ? やらかすのは大体お前だろ?」

「私が何したっていうんですか!」

「俺だって何もしてねーよ!」


 とか言い争いをしている間に、男は俺たちの眼前に立つ。

 明らかに怒っている。

 でも、俺に対してというより、視線はジーナに向いていた。


「おい! どういうことなんだよ!」

「どうかしたのか?」

「どうかじゃないだろ! あんたらがちゃんと見回りしてないから事件が……俺の恋人が攫われたんだぞ!」

「少し落ち着いてください」


 怒りの矛先はジーナに向けられた。

 パークが抑制しているが、怒りは収まらない。

 言葉にもならないような罵声を吐いている。

 聞き取れた言葉から、どうやら昨夜の事件の被害者の知人らしい。


「あんたらのせいで彼女が……くっ……」


 恋人が何者かに攫われてしまい、それを知ったのはついさっきだとか。

 悲しいし酷い事件だけど、だからといってジーナを責めるのは違うだろう。


「どうか落ち着いて。今夜からは人員を増やして見回りを強化します」

「今日じゃ遅いんだよ! くそっ……騎士が見回りしているっていうから期待したのに……アイギス様が来てくれていたら、こんなことにはならなかったんだ」

「――!」

「おいあんた、気持ちはわかるけど言い過ぎだぞ」


 男は錯乱して、彼女の姉の名前を口にした。

 彼女が悪いわけじゃない。

 諭す俺にも矛先が向く。


「なんだよお前……こんなできそこないの騎士に味方するのか!」

「味方っていうか、俺たちも協力してるんだ。彼女がちゃんと見回りをしているのは一番近くで見てる」

「だったらなんで事件が起きるんだ! サボってるからだろ!」

「サボ……はぁ……」


 気の毒に思っていたが、少しずつ腹が立ってきた。


「じゃあなんで、あんたは一緒じゃなかったんだ?」

「は……? 何を……」

「事件はまだ起こっていた。夜の街が危険なのは知っていたはずなのに、恋人を一人で歩かせたんだろ?」

「それは……喧嘩して……」

 

 小さな声で喧嘩と聞こえた。

 なるほど、そういう理由だったか。

 痴話喧嘩でもして、恋人が一人で帰ってしまったのだろう。

 その夜に攫われてご立腹と。


「あんたにも責任があるんじゃないか?」

「うるさいな! 騎士は俺たちを守るのが仕事だろ! 守れない騎士なんてゴミ以下だ!」

「こいつ!」

「もういいんだ! 彼の怒りはわかる。私が不甲斐ないのがわるい」

「ジーナ……」


 彼女は悔しそうに唇をかみしめている。

 その瞳は潤んでいて、今にも泣きだしてしまいそうだった。


「見回りをしよう。今夜こそ……必ず見つけるんだ」

「あ、ああ、わかった」

「ちゃんとやれよ! 恋人が見つからなかったら俺は……」

「……」


 無責任な怒りだけど、恋人のことを心配しているのは伝わる。

 下手に責めるのもかわいそうだ。

 だからと言って、ジーナに八つ当たりしていい訳じゃないと思うけど。


「私たちはこっちだ。先に行く」

「ジーナ」

「彼女のことは僕に任せてください。では後ほど」

「お、おう。わかった」


 ジーナは急ぎ足で見回りに行ってしまった。

 パークが遅れないように彼女の後に続く。

 心配ではあるが、パークのほうが冷静そうだし、何かあっても大丈夫だろう。


「俺たちも行くか」

「そうだな」

「うーん……」

「何してんだよ」


 俺たちも出発しようと思ったら、サラスがじっと立ち去る二人を見ていた。

 すでに遠く離れていて、姿は見えない。


「お前はこっちだぞ」

「そうじゃなくて、やっぱりあれ……違うんですよね」

「何が?」

「うーん、でもあるんですかね? そういうの」

「さっきから何言ってんだ? もう置いていくぞ」

「あ、待ってくださいよ!」

 


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


【あとがき】

ご愛読ありがとうございます!

本作は基本①~④で一つのお話となっております。


面白い、続きが気になるという方は、ぜひぜひフォロー&評価を頂けると嬉しいです。

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