弱点ってそういう意味?②

「なぁ、この加護、『連刃』ってどういう効果なんだ?」

「他人の加護を詮索するのはマナー違反ですよ」

「え、そうなのか? 先に言ってくれよ……悪いなカナタ、今のは忘れてくれ」

「別にいいぞ! 教えても減るわけじゃないし、これから一緒に戦うかもしれないしな! 教えておいたほうがいいんじゃないか?」


 カナタは微塵も失礼だと思ってはいなさそうだ。

 ホッとして、カナタに同意する。


「俺はそう思った。俺の加護も教えるから、代わりに教えてほしい」

「もちろん! あたしの『連刃』は、攻撃を繋げるごとに威力が増していくんだ。今のレベルだと最大五回繋げると威力が上がるぞ!」

「へぇ、便利な効果だな」

「だろ? これのおかげで硬いモンスターでも斬れるんだ!」


 連刃という名前だけあって、対象は剣に限定されるらしい。

 そういう部分もカナタらしい加護だ。

 女神から授けられる加護は、その人の精神性や将来性、秘められた才能をベースに決定されるとい う。

 現地人が加護を受けるタイミングはバラバラで、生まれつきの人もいれば、カナタのように幼少期に突然授かる者もいるとか。

 彼女の剣士への思いが、この加護を与えたのだろう。


「タクロウの加護は何なんだ?」

「俺のは『弱点開示ウィークスポッター』っていう、相手の弱点が見える効果だよ」

「へぇ! 凄いなそれ! あ、だからあの時は背中が弱点だってわかったのか!」

「そういうこと」


 赤いサイクロプスとの戦闘をカナタは思い出しているのだろう。


「あれすごい助かったよ。弱点わかるって便利だな」

「俺一人じゃ、見えても対処できないけどな」


 俺自身が弱すぎて話にならない。

 便利な効果だけど、今のままじゃまったく活かせないからな。

 さっさとレベルを上げたいところだ。


「なぁなぁ! 試しにその加護であたしを見てくれよ!」

「カナタを?」

「おう! あたしの弱点がどこか知っときたいんだよ! 今後はそこを意識して守ればいいってことだしな!」

「ああ、確かにな」


 そういう使い方もできるのか。

 敵の弱点だけじゃなく、味方や自分の弱点を知ることで保護する。

 カナタに言われて初めて気づく。


「そういうことなら」

「よっしこい!」


 俺は加護を発動した。

 加護発動中は瞳が青色に光る。


「おお……綺麗な目だなぁ」


 カナタは俺の瞳をじっと見つめてくる。

 少し恥ずかしいが、悪い気分じゃない。

 さて、カナタの弱点はどこだ?

 レベルが低いから、まだ一二か所しか見え……ん?


 二か所光っていた。

 神々しく、ハッキリと。

 俺の目には……胸部当たりにぴかーと光る二点が映し出される。


 ぶふっ!


 思わず吹き出しそうになって、心の中だけに留めた。

 俺の加護は弱点を見抜く。

 確かに弱点なのだろう。

 でもそこ……どう見てもおっぱ……。


「なぁ、どうだった? あたしの弱点わかったか?」

「ぬ……」


 無邪気に近づいてくる。

 より鮮明に、光っている箇所がわかってしまう。

 胸の頂点に位置する場所が、輝かしく光っている。


「えっと……心臓が光ってる……かな」

「心臓か! まぁ弱点ではあるよな! あたし体力もないし!」

「は、はは……そうだな」


 俺はなんとか誤魔化して目を逸らした。

 さすがに言えないだろ。

 弱点ってそういう?

 人間に使うとこんな感じになるのか?


 俺は視線をサラスに向けてみる。


「なんですか? 私のことをじっと見つめて」

「……」


 こいつはどうだ?

 天使だけど、見た目の構造とかは人間と一緒だろ?

 これでカナタと一緒だったらどうしよう……。

 便利な加護からクソ加護に評価が変わるぞ。


「なんなんですか! あ、もしかして私の美しさに惚れてしまいましたか? ダメですよ~ 私はサポート役なので、タクロウの相手はしてあげられませんから」

「……」

「ちょっ、何ですか? ジリジリ詰め寄ってこないでください」


 俺は無言で詰め寄り、煌々と光る二か所に手を伸ばした。

 映し出された弱点は両脇。

 俺の手は彼女の脇に伸びて、そのまま試しにこちょこちょしてみる。


「ちょっ! あっはははははははははっは! や、やめっ! あひゃはははははっ――」


 五秒間くらい脇をこちょこちょしたら、サラスは過呼吸になって倒れ込んだ。

 顔も真っ赤だ。

 俺は彼女を見下ろし、自分の手にした力を実感する。


「なるほど、便利な力だな」

「何を再確認しているんですかぁ!」


 こういう使い方もできるのか。

 相手の弱点を見抜く。

 確かに、一言で弱点といっても種類はたくさんある。

 急所も弱点だし、苦手も弱点だ。

 まだレベルが低いから、どういう弱点なのかまではわからない。

 今後はなるべく人間にも活用して、どういう弱点なのか見分ける練習をしたほうがいいな。

 決してやましい理由ではないぞ!


「ん? そういえば、お前も加護を持っているのか?」

「はい? あるに決まっているじゃないですか」

 

 サラスは天使だ。

 俺やカナタのような純粋な人間とは違う。

 でもこいつ、普通に冒険者登録してカードを作っていたし、受付嬢も大して反応していなかった。

 彼女も加護を持っているということで間違いはないだろう。


「みせてくれよ」

「嫌ですよ絶対! タクロウみたいな変態魔王には見せません! プライバシーの侵害ですよ!」

「……そうか」


 じゃあ仕方ない。

 とても心苦しいが実力行使だ。


「あひゃひゃあひゃあひゃあああああああ!」

「よし、どれどれ……」

「タクロウって結構鬼畜だよな」

「こいつが失礼なだけだ」


 俺とカナタは奪い取ったサラスの冒険者カードを覗き込む。

 レベルは俺と同じ、ジョブは白魔導士。

 ステータスは体力と魔力が高い。

 魔法センスもそこそこ……知力は、俺たちの中でダントツで低い。

 白魔導士にだけ出現する回復力という項目があるが、これは高いのか低いのか判断できない。

 レベルは俺と同じでも、白魔導士は最初から『ヒール』の魔法スキルは使える。

 

「加護は……」

「『天使の施しホーリーエンジェル』?」


 加護の名前に天使って入っていることに、なぜか無性に腹が立つ。


「この加護の効果は?」

「お、教えるわけ――」


 まだ反抗するようなので、俺は右手をこちょこちょのポーズで構えてみせる。

 サラスはビクッと反応して怯える。


「わ、わかりましたよ! 教えます!」

「そうか」


 本当に便利な加護を手に入れた。

 女神様ありがとう。

 可能ならこのクソ天使をクーリングオフしたいが、それはダメですか?


「加護の効果は、回復系の魔法やスキルの効果の底上げです」

「回復力が上がるのか。ってことは、お前のヒールは他の奴より強力ってことか?」

「そういうことです! 安心して怪我をしてください! あ、でも欠損とか致命傷はアウトなので注意してくださいね!」

「それも治せるようになってから威張ってくれよ」


 加護の効果で底上げされても、所詮は最弱の回復魔法しか使えない。

 今はまだ、彼女の回復力を当てにしないほうがいいな。

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