弱点ってそういう意味?③

 各々の加護を確認し終わったところで、俺たちはクエストエリアに到着する。

 目的は薬草と、毒けし草の採取だ。

 丁寧に見分け方のリストも貰っているから、それを見ながら探索する。


「あった!」


 黄緑色の薬草と、紫色の花を咲かせる毒けし草。

 これを一定数採取して持ち帰る。

 簡単なクエストで、報酬も微妙だからあまり好まれない。

 ただ利点として、採取した薬草を回復アイテムに加工してもらい、一部を貰うことができる。

 回復手段がサラスのヒールしかない今、貴重な資源になるだろう。

 俺が薬草を採取している間は、カナタが周囲を警戒する。

 この辺りはすでに、モンスターの生息地だ。

 がさがさ音を立てていると、それに反応してモンスターが顔を出す。


「タクロウ! モンスターがでたぞ!」

「なんだあれ? バッタ?」

「グラスホッパーっていう虫のモンスターですね。森とか草原によくいますよ」


 サラスが解説してくれた。

 初めてサポート役っぽいことをしたなこいつ。


 カナタが剣を構える。


「援護よろしく、タクロウ」

「お、おう!」


 カナタが飛び出し、グラスホッパーに斬りかかる。

 グラスホッパーは高い跳躍力を活かし上下に移動し、強靭な顎でかみ砕く。

 レベル平均は20から30前後。

 一体ならカナタ一人で十分だけど、現れたのは四体だ。

 彼女が囲まれて不利にならないよう、俺が援護する。


 俺の左腕には赤いサイクロプスを討伐した際にドロップした魔導具、マジックボウが装備されている。

 小型のクロスボウで、矢は魔力で生成する。

 レベルが低い俺が装備しても大した威力はでないし、魔導具に宿ったスキルも使えない。

 でも俺には、弱点を見抜く目がある。


「くらえ!」


 弱い攻撃も、弱点に当てれば多少のダメージにはなる。

 弱点である目に直撃し、グラスホッパーが苦しむ。


「よし!」

「ナイスだ! タクロウ!」


 俺の攻撃じゃ、弱点に当てても倒せない。

 今の俺の役目は、彼女に攻撃が集中しないようにモンスターの注意を逸らすことだ。

 トドメは全て、カナタに託す。


「そーらよっと!」

「ふぅ……」


 四体を討伐し、死体は消滅してゴールドが落ちる。

 無事に戦闘は終了しホッとする中、カナタが俺の下にゆっくり戻ってきた。


「お疲れ様! タクロウの援護、よかったぞ!」

「そうか? 役に立てたならよかったよ」

「役に立ってたぞ! 一人で戦うより何倍も速かったしな!」


 カナタが素直に褒めてくれる。

 嬉しさと一緒に恥ずかしさも感じて、俺は視線を顔から逸らした。


「ん? カナタ、肘のところ怪我してるぞ」

「あれ? ああ、擦りむいたんだな」

「怪我なら任せてください!」


 待ってましたと言わんばかりに登場したサラスが、俺を押しのけてカナタの横に立つ。

 両手を怪我にかざし、ヒールの魔法を唱えた。

 傷は瞬く間に治癒する。

 

「治った! ありがとな、サラス」

「どういたしまして! どんどん私を頼って怪我してくださいね!」

「調子に乗るな。怪我はしないほうがいいんだよ」

「それじゃ私が何の役にも立ってないんですよぉ!」

「よくわかってるじゃないか。じゃあゴールド集めをよろしく」

「くぅ……」


 散らばったゴールドは専用の袋をかざすことで、ゴールドだけ吸い寄せて回収してくれる。

 一々広く必要がないからとても便利だ。


「それじゃ戻るか」

「おう!」


  ◇◇◇


 クエストを終えた俺たちは、ギルドで報告を済ませて報酬を受け取った。

 大した金額じゃないけれど、初めて受けたクエストの報酬は、ちょっぴり特別に感じた。

 報告を終えた頃には夕方になり、西の空に日が沈んでいく。


 ぐーと、隣でお腹を鳴らしたのはカナタだった。


「飯にするか」

「そうだな! もう腹ペコだ!」


 冒険者ギルドの便利なところは、酒場が併設されているところだ。

 外に出て店を探す必要がないし、冒険者なら席を優先してとることもできる。

 朝や昼間は周囲の目も冷ややかだが、みんなお酒が入って酔っている今なら、比較的居心地がいい。

 俺たちは端っこの席を陣取り、料理とお酒を並べる。


「「「カンパーイ!」」」


 三人同時に、お酒をぐいっと飲み干す。

 この世界での成人は十六歳で、お酒も解禁される。

 レベルという概念が存在している関係上、俺がいた世界よりも人間の身体が丈夫だ。

 元の世界じゃアルコールは得意じゃなかったが、なぜかこっちの世界では平気になっていた。


「今日だけのレベルが七も上がってるな」

「相手とのレベル差が大きかったので、貰える経験値が多かったんですよ」


 お酒を飲みながら説明しているサラスも、俺と同じレベルに上がっていた。

 戦闘ではほぼ何もしていないが、パーティーを組んでいると、仲間が倒したモンスターの経験値も配布される。

 極論、俺たちが戦わなくても、カナタがモンスターを倒せば経験値は入る。

 さすがに申し訳なさすぎるから、そんなことはしないが。


「レベルも上がったし、お金も手に入って順調ですねー」

「そうだなー」


 ぐびっと、俺とサラスはお酒を飲む。

 そして……。


「――ってちがーう!」


 俺は空になったお酒のカップをテーブルに叩きつけた。

 ビックリする二人。

 特に驚いていたのはカナタだった。


「お、おい、どうしたんだよ」

「ダメだ……これじゃダメなんだ……」


 レベルアップ?

 お金が手に入る?

 違うだろ俺たちの目的は!


 童貞卒業!

 結婚!


 最低でも残り二十日間以内に童貞卒業できなきゃ人生終了なんだよ!

 のんびり異世界生活をしている場合じゃない!

 どうする?

 どうすればいいんだ?

 相手の女の子を見つけるにしても、この街で俺の印象は最悪だ!

 クソ天使のせいで、男女問わず変態扱いされる。

 こんな状況で結婚相手を見つけるなんて無理ゲーすぎる。

 それでも見つけて童貞を捧げないと、今度は命を捧げることになっちまうんだよ!


「ホントにどうしたんだよ? 腹が痛いのか? だったら無理して酒なんか飲まないほうがいいぞ」

「いや……そういうわけじゃ……」


 カナタは優しいな。

 俺みたいな得体のしれない男とパーティーを組んでくれるし、気遣いもできる。

 

「カナタみたいな子と結婚できたらなぁ」

「ん? 結婚?」

「――は!」


 しまった俺の馬鹿野郎!

 酒が回ってつい口から本心が漏れてしまった。

 今の発言は確実に引かれる。

 ただでさえ周囲からは変態だの性獣の魔王とか呼ばれているんだ。

 カナタにまで嫌われたら生きていけないぞ。


「あ、いやその……今のは冗談で」

「いいじゃないですか。ピッタリだと思いますよ? というか他に嫁候補いないじゃないですか」

「お前は黙ってろ!」

「痛い痛い!」


 余計な口を挟むポンコツ天使の頬を引っ張り説教をする。

 確かにその通りだが、だからこそ慎重に関係を築くべきだろう。

 もちろんカナタにその気があればの話だが……。


「なんかよくわかんないけどさ? 悩みがあるなら相談に乗るよ? あたし頭よくないし、あんまり役に立てないかもしれないけど、同じパーティーの仲間だからな!」

「カナタ……」


 本当にいい奴だよ。

 最初に出会えた異世界の住人が彼女で本当によかった。

 

 相談……してもいいのだろうか。

 優しい笑顔に期待してしまう。

 彼女なら……俺たちが抱える問題に、引くことなく向き合ってくれそうな……。


 あーもう!

 ウダウダ考えても仕方がない!

 どうせ彼女以上に俺たちと仲良くしてくれる女性はいないんだ。

 関係をゆっくり築く時間も、よく考えたらないしな!

 ここは一か八か、賭けにでよう。


「カナタ、実は俺たち一か月以内に誰かと結婚できないと死ぬんだよ」

「え? 死ぬのか!?」

「ああ、そういう運命なんだ」

「結婚じゃなくて童――ぶへっ!」


 余計なことを言うんじゃないポンコツ天使!

 童貞卒業なんて正直に言ったら、たとえ彼女でもドン引きするだろ。

 ここは冷静に行こう。

 どの道、結婚相手じゃないと性行為はできないんだし。

 まずは結婚することが先決だ。

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