弱点ってそういう意味?①

 冒険者のクエストは、大半がモンスター討伐だ。

 人探しや採取のクエストもあるけど、モンスター討伐クエストが圧倒的に多い。

 その理由はシンプル。

 モンスターを倒せばゴールドが手に入り、クエスト達成時にも追加で報酬がもらえる。

 要するにお得なわけだ。

 

「なんでわざわざクエストに出すんですか? どうせモンスターを倒せばゴールドが手に入るんだし、放っておいてもみんな討伐するでしょ」

「それだと討伐モンスターの種類に偏りが出てしまうんです。簡単に倒せるモンスターや、効率のいい相手ばかりが狩られて、そうでないモンスターは放置されてしまいます。だからギルドでクエストを発注し、報酬を出しているんですよ」


 モンスター討伐時に落ちるゴールドの量は、倒したモンスターのレベル、個体値、大きさ、生息地域など様々な状況から変化する。

 中にはめちゃくちゃ強いのに、ドロップする報酬がゴミのように少ないモンスターもいるとか。

 そういうモンスターほど、放置すると生態系に多大な被害を及ぼす。

 冒険者ギルドの存在は、討伐しても美味しくないモンスターに目を向けさせるために不可欠だった。

 

 という話を、受付嬢は表情を引きつりながらしてくれた。

 可能なら話したくないけど、仕事だから仕方なく受け答えをしている。

 そんな感じが表情から溢れ出ていて、とても辛い。

 いつまで誤解は続くのだろう。

 俺は大きくため息をこぼし、受付嬢に挨拶をして二人の元へ戻った。


「パーティーの登録は済ませてきたぞ」

「おかえり! 助かったよ。あーいう面倒な手続きとか苦手でさ」

「俺だって初体験なんだが……」


 無邪気に笑うカナタを見て、俺は小さくため息をこぼす。

 パーティーの結成は冒険者の証であるカード上で簡単に設定できる。

 ただしパーティー結成後、ギルドに報告する義務があるらしい。

 という話を、冒険者になる際に受付嬢が説明してくれた。

 もちろん、とても嫌そうな顔をして……。

 受付嬢が真面目な人で本当によかった。

 頼むからこれ以上誤解しないでほしいな。


「で、いいクエストはあったか?」

「わっかんない!」

「えぇ……」


 俺がパーティーの報告をしている間、二人にはクエストを選んでもらっていた。

 この世界にきて十日目、冒険者になったのはついさっきの俺より、二人に選んでもらったほうが確実だと思ったから。


「あたし冒険者になってからクエスト? 受けたことないんだよな」

「嘘だろ……どうやって活動してたんだ?」

「普通に旅して、見つけたモンスターを倒してた!」

「なるほど……」


 モンスターを倒せばお金は手に入る。

 彼女の目的は、剣術を極めることらしい。

 冒険者になったのは剣士の職につくためで、冒険者そのものに憧れや意味があったわけじゃない。

 理解はできるが、勿体なさすぎるだろ。


「じゃあサラス、お前が選べ」

「はい? 私に決められるわけないじゃないですか。モンスターの違いなんて知りません」

「……」

 

 こいつサポート役だよな?

 今のところ何の役にも立ってないんだが?


 俺はため息をこぼし、自分でクエストを選ぶことにした。

 いろいろごたついてすでに昼過ぎだ。

 大半の冒険者はクエストに出発している。

 クエストボードに貼られているのは、本日の残り物ばかりだろう。

 高額なクエストや、お得なクエストはすでに残っていないと考えるべきだ。


「ギガントマンティスの討伐……デスサーペント討伐……ダークドレイクの討伐……」


 ダメそうだ。

 仲間から強敵なことがわかるモンスター討伐しか残っていない。

 もっと楽な、初心者向けのクエストはないのか?


「あとは採取系か。薬草、毒消し草……報酬は低いけどもうこれでいいか」


 どうせ俺とサラスはレベル1で戦力外だ。

 採取クエストなら、俺たちでも役に立てるだろう。

 本格的に討伐クエストを受けるよりまず、俺たちのレベル上げが必要だ。

 俺はクエストボードから二枚の紙を剥がす。


「採取クエストをこなしながら、襲ってきたモンスターと戦う感じでいこう」

「わかりました!」

「よくわかんねーけど戦闘なら任せろよな!」


 カナタはともかく、なぜか自信満々なサラスに一抹の不安を感じながら、俺たちはクエストを受注して近隣の森へと入ることになった。

 俺たちが迷っていたあの森とは別だ。

 後で聞いた話だが、俺たちが迷い込んだのは迷いの森と呼ばれていて、この辺りでは強めのモンスターが生息する危険地帯らしい。

 モンスターの平均レベルは30前後で、縄張りを統治するエリアボスはもっと高いそうだ。


「改めてよく生き残れたな……カナタのおかげだ」

「ん? なんだ?」

「そういえば、カナタっていくつなんだ?」

「今年で十六歳だぞ!」


 小柄な体格だから俺より年下だろうとは思っていたけど、まさか六つも下だったとは。

 元の世界でいうと高校に入ったばかりの頃か?

 それにしては発育がいいというか……って、何考えてるんだ俺!

 カナタにまで性獣だと思われるぞ!


「って、そうじゃなくてレベルだよ」

「ああ! えーっと、冒険者カードに書いてあるぞ!」

「それは知ってる」


 カナタは自分の冒険者カードを俺に手渡してきた。

 この感じ、自分では確認していないのか。

 ゲームなら、レベル上げって結構楽しくて気にするポイントなんだけどな。

 手渡されたカードに目を向ける。


「レベル35。これって高いのか?」

「さぁ?」


 自分のレベルに興味なさすぎだろ……。

 仕方ない。

 ダメだと思いつつ、役立たずのクソ天使に聞いてみることにする。


「どうなんだ?」

「私に聞かれてもわかりません」

「だろうな」

「なんですかその態度は!」


 怒っているサラスを無視して、俺は冒険者カードに視線を戻す。

 肉体レベルのマックスは100だと聞いた。

 迷いの森のモンスター平均から考えて、この辺りで活動する冒険者の中では高いほうなのだろう。

 カードにはステータスやスキル、加護も記載されている。

 ジョブは剣士、上げているスキルも剣術系が多い。

 というかそれ以外は上げていない。

 ステータスは予想通り、素早さが飛び抜けて高いな。

 あとは筋力が少し高めだ。

 それ以外は平均的かそれ以下で、体力と知能は他と比べて低い。

 知能に関しては、レベル1の俺以下だぞ。

 なんというか……。


「カナタらしいステータスだな」

「そうか? なんか照れるな」


 笑いながら頭を触るカナタ。

 別に褒めたわけじゃないんだが……。

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