誰かパーティー組んでくれ④


 サラスが馬鹿正直に加護の中身を教えたことで、受付嬢は完全に俺を変態だと思っている。

 

「へ、変態が女性を襲っている!」

「ち、違う! こいつは俺と一緒にきた天使です!」

「何言ってるんですか? 天使が下界にいるわけないじゃないですか!」

「へ?」


 どういうことだ?

 転生者の存在は認知されているんじゃないのか?


「サラス!」

「普通の人間には私が天使だとわかりませんよ」

「先に言えよお!」

「おいおい何の騒ぎだ?」


 受付前で騒いでいると、ギルド内にいた冒険者たちが集まってきてしまった。

 まずい。

 これ以上注目されるのはよくない。

 受付嬢以外にも俺の加護が知られたら……。


「この人変態なんです! 女神様のご加護で、複数の女性と結婚できる加護を手に入れた最低男なんです!」

「あー終わった終わった」

「なに?」

「複数って……最低ね」


 男女問わず、俺に冷たい視線を向ける。

 最悪だ。

 いきなり終わった。

 せっかく過酷な森から脱出できたのに、森よりもっと過酷な状況になったぞ。


「変態はでていけー!」

「女の敵!」

「……はぁ……」


 この世界はどこまで、俺に試練を与えるんだ?


  ◇◇◇


 冒険者ギルドで登録を済ませて、晴れて冒険者の一員となった。

 俺はレンジャーになり、サラスは治癒系の魔法が得意な白魔導士になった。

 二人ともレベルは一だ。

 森でサイクロプスと戦ったりもしたが、あの時は冒険者登録をしていなかったから、経験値を得られなかった。

 レンジャーはメイン火力ではく、補助的な立ち回りがメインになる。

 白魔導士言わずもがな、回復担当だ。

 初期レベルの二人だけじゃ、モンスターと戦うのはきつい。

 まともな装備もなければ経験もない。

 せめて経験のあるパーティーメンバーを募集したいが……。


「ねぇ見て、あれでしょ性獣の魔王」

「やだわぁ。見るからに変態って感じね」

「しっ! 聞こえたら妊娠させられちゃうわよ」

「……有名人になりましたね」

「誰のせいだと思ってるんだ!」


 ドンと怒りでテーブルを叩く。

 ビクッとしたサラスに、俺は苛立ちを発露する。


「お前があの時余計なことを言わなければ……」

「仕方ないじゃないですか。天使は嘘がつけないんです」

「それが嘘だろ」

「ギクッ!」


 図星かよ。

 おかげで冒険者生活初日から、いきなりクライマックスだ。

 俺は女神に重婚を願う変態転生者として、僅か数時間で名前が広まってしまった。

 そんな奴とパーティーを組んでくれる心優しい冒険者なんて、いるはずもない。


「はぁ……終わった」

「辛気臭い顔しないでくださいよ。いいじゃないですか。別の街を探せば」

「あのなぁ……俺たちには時間がないんだぞ? 今からまた街を探して、その間にも時間は過ぎていくんだ。あと三週間しかないんだよぉ……」


 俺は大きくため息をこぼす。

 残り三週間で、最低でも一人は相手を見つけて結婚し、性行為を達成しなければならない。

 それが叶わなければ俺は生涯独身で、一年後には寂しく死ぬ。

 せっかく生まれ変わったのに、一年で死ぬとかありえないだろ。


「じゃあどうするんですか? 手当たり次第にアタックしますか?」

「それこそ変態だろ」

「いいじゃないですか。もう変態なんですし」

「お前のせいでな!」

「痛い痛い! 頬っぺた引っ張らないでください!」


 この口が悪さをするのか? 

 だったら針と糸で縫い付けてやろうか!


「はははっ、今日も二人は仲良しだね!」

「どこがだ!」

「どこがですか!」

「ほら、息もピッタリじゃん!」


 こいつと仲良しなんて死んでも思われたくない。

 あらぬ誤解だ。


「って、カナタか」

「うん、昨日ぶり! 二人とも!」


 今さら、声をかけてくれたのが彼女だと気づく。

 彼女の普通に声をかけてくれた。

 噂が広まっている中、誰もが俺たちと距離を取ろうとする。

 

「今きたのか?」

「うん。さっき起きた」

 

 だったら、俺とサラスの冒険者登録時にはいなかったのか。

 この様子だと、まだ俺の噂は聞いていない?

 彼女ならパーティーに入ってくれるかも!


「にしてもすっごい噂だな! 性獣の魔王だって?」

「がはっ!」


 俺は口から血を吐き出して倒れ込む。


「お、おいどうしたんだよ!」

「ご……ご存じだったんですね」

「そりゃまぁ、街の外でも噂になってたしな」


 もう外まで広まっているのか。

 いよいよ終わりだ。

 この街に俺の居場所はない。

 やっぱりリスクを承知で、別の街に移動したほうが……。


「ん? カナタはもう知ってるんだよな?」

「転生者とか加護のことか? 知ってるぞ。途中で聞いたからな」

「知って……声をかけてくれたのか?」

「そうだけど、ダメだったか?」 


 彼女はキョトンとした表情で聞き返してきた。

 ダメじゃない。

 ダメじゃないけど……疑問が浮かぶ。


「カナタは……俺のこと、変態だとか、最低って思わないのか?」

「思わないよ」

「――!」


 彼女は即答した。

 俯きかけていた俺の視線が上に向き、彼女と目が合う。

 

「だってそれ、周りが勝手に言ってるだけだろ? 加護がそういうものだからって、決めつけじゃんか。この場にいる誰も、タクロウのことを知らない」

「カナタ……」

「あたしは、ここにいる奴らよりも少し、タクロウのことを知ってる。寝てるあたしたちを守るために、一人だけ眠らず見張っててくれたこととか。怖いのに飛び出して、あたしと一緒に戦う勇気があることとか。少なくともあたしには、みんなが噂するような奴には見えないよ」

「――!」


 カナタは笑顔でそう言ってくれた。

 ふいに涙がこぼれそうになる。

 嬉しさと、安堵で。

 誰もが俺を変態だと罵る中で、彼女だけはそれを否定してくれた。

 その言葉に、表情に嘘がないことが伝わる。


「お、おい! 泣いてるのかよ」

「な、泣いてない。ちょっと目にゴミが入っただけだ」


 わかりやすい誤魔化しを口にして、流れそうになった涙を袖で拭う。

 涙を拭いた瞳で、俺はカナタに伝える。


「カナタ! 俺たちも冒険者になったんだ。もしよかったら……俺たちとパーティーを組んでくれないか?」

「もちろんいいぞ!」


 またしてもあっさり肯定してくれた。

 俺は聞き返す。


「いいのか?」

「おう! 剣の修業がしたくて冒険者になったから、ずっと一人でいいと思ってたんだけどさ……タクロウたちと一緒に冒険して、戦うのは楽しかった! あたしのほうから誘おうって思ってたんだよ!」

「そうだったのか……」

「そう。だから答えは決まってた」


 カナタは手を差し出す。

 

「これからよろしくな!」

「――ああ! こちらこそ」


 その手を握る。

 俺は改めて、彼女との出会いに感謝した。

 前世も含めて二十数年、心から出会えたことに感謝したのは、これが初めてだ。

 願わくば彼女が……。


「やりましたね童貞王! これで嫁候――ぶふっ!」

「その口を閉じろ。二度と開けるな」


 このクソ天使さえいなければ、完璧なのになぁ……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

【あとがき】

ご愛読ありがとうございます!

本作は基本①~④で一つのお話となっております。


面白い、続きが気になるという方は、ぜひぜひフォロー&評価を頂けると嬉しいです。

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