誰かパーティー組んでくれ③

 翌朝。

 目覚めた俺はサラスを叩き起こし、街の中心にある冒険者ギルドへと足を運んだ。

 

「もう少し寝てましょうよー」

「いいわけないだろ。今の状況わかってるのか? あの森で俺たちは一週間以上も無駄にしたんだ! これ以上時間は無駄にできないんだよ!」


 死亡確定まで二十二日しかない。

 残り三週間と少しで童貞卒業ができなければ、俺たちは一年後に死ぬ。

 なんとしてでも相手を見つけなければいけない。

 そのためにもまずは出会いの場だ。

 俺はこの世界に来たばかりで、知り合いと呼べるのはカナタくらいしかいない。

 より多くの人と、女性と出会い交流を持つためにも、人が集まる場所へ行く。

 

「どうせ生活基盤を作らないといけないんだ。まずは冒険者になって働き口を見つけるぞ。お前にも協力してもらうからな?」

「そんなのわかってますよー。私だって、タクロウが童貞のままだと死ぬんですからね」

「そうだ。死ぬ気で探すぞ」


 なんて不純な理由なんだ……。

 冒険者ってもっと夢や大きな目標を掲げてなるものじゃないのか?

 それが童貞卒業のためって……泣けてくる。

 でも仕方がないんだ。

 そうしないと死ぬからな。


「ここが冒険者ギルド……」


 いかにも、という感じの建物にたどり着く。

 ゲームやアニメでも定番の見た目だ。

 周囲にはガラの悪そうな男たちが出入りしている。

 正直おっかないが、気にするな。


「行くぞ」


 ビクビクしているサラスを引っ張り、俺たちは中に入る。

 中の構造も予想通りだ。

 カウンターがあり、クエストボードがあり、お酒や食事ができる酒場も併設している。

 まさに異世界の冒険者ギルド!

 嫌でもちょっとテンションが上がってくる。

 

「いらっしゃいませ! お食事なら奥の席へ! お仕事なら手前のカウンターへどうぞ!」


 ウエイトレスの案内を聞いて、俺とサラスは受付カウンターに立つ。

 受付嬢は綺麗なオレンジ色の髪の女性だった。

 彼女は俺たちを見てニコリと微笑む。


「こんにちは! 本日はどうのようなご用件ですか?」

「えっと、冒険者になりたいんですけど」

「はい。登録希望ですね。ではこちらに指名を記入して、手数料を100ゴールドを支払ってください」

「わかりました」


 登録にお金がいるのか。

 カナタの厚意でお金がもらえてよかったな。

 でなきゃ初手で詰んでいたぞ。


「ヒビヤタクロウ様と、サラエ様ですね。ではこちらの装置に手をかざしてください」

「これは?」

「ステータスや加護を冒険者カードに書きだす魔導具になります。ステータスは肉眼では見えないので、これを機会に職業を選ぶ方が多いんですよ。筋力が多いなら戦士、魔力が多いなら魔法使いとか」

「なるほど」


 ステータスの初期値は個々の才能が反映されている数値なのか。

 俺はどうなってるんだろう。

 少しワクワクする。

 ステータスが初期から異常に高くて、この場のみんなに注目されるとか?

 そういう主人公的展開があったりしないかな?


「これでいいんですか?」

「はい」


 魔導具の水晶部分に右手をかざす。

 すると水晶が光だし、レーザーのような光線が下に設置されたカードに当たる。

 カードにステータス情報が表示される。

 時間にして三秒ほどで、少し呆気ないものだった。


「ありがとうございます」


 受付嬢がカードを確認する。


「ど、どうですか?」

「そうですね……」


 ん?

 この反応……あんまりよくなかったのか?


「魔力が非常に高いですね!」

「――!」


 おお!

 ってことは魔法使いに向いてるってことか?

 異世界といえば魔法!

 期待に胸が膨らんで……。


「あ、でも魔法センスは低いので、魔法使いには不向きですね」

「……え」


 一瞬にしぼんだ。

 魔力は高いのにセンスはない?

 なんだそれ。

 ただの魔力タンクじゃん。


「あとは素早さと知能が多少高いくらいで、平均ですね」

「そ、そうですか……」


 隣でサラスがクスッと笑ってのがわかった。

 こいつ後で殴ろうか。


「職業はどうされますか?」

「何がいいんですか? このステータスだと」

「そうですね。素早さと知能を活かすなら、レンジャーがおすすめですね」

「レンジャーか……」


 主兵装は剣、ナイフ、弓など様々。

 罠抜けや千里眼、弱体や状態異常系の魔法スキルが習得できる。

 地味ではあるけど、俺みたいなビビりにはちょうどいいかもしれない。

 職業は後から変更も可能らしいし、これにするか。


「レンジャーでお願いします」

「かしこまりました……おや? もしかして転生者の方ですか?」

「え、あ、はい」


 唐突な質問に動揺する。

 なぜわかったのか疑問に思ったけど、冒険者カードに加護が二つ記載されている。

 この世界の住人は加護を一つしか持たない。

 だから気づいたのだろう。


「めずらしいですね。この街では初めての転生者ですよ」

「そうなんですね」


 その割に、なんだか普通の対応というか。

 もっと驚かれることを期待したんだけど、あっさりしているな。

 

「冒険者の存在自体は普通に広まっているんですよ。ただ少なくて珍しいだけで」

「そうなのか」


 レアでがあるけど、ウルトラレアではない的な感じか。

 ま、変に騒がれて注目されるよりいいかも。

 ただでさえ第二加護は、この世界の常識から逸脱した効果なわけだし、もし知られたらなんて思われるか……。


「この『一夫多妻』という加護は初めて見ますね。どんな効果なんですか?」

「複数の女性と結婚できる加護ですよ」

「え――」

 

 受付嬢の質問に、答えたのは俺じゃない。

 隣に立っていたサラスが、何も考えずにサラっと答えてしまった。

 この世界は女神の影響で愛に厳しい。

 結婚相手は一人だけ、離婚すれば十年は再婚できない。

 愛に背けば女神の祝福は消えて、人権を失う。

 それが常識の世界で、複数の女性と結婚できる加護を持っている。

 

「第二加護は確か……転生者の目標に合わせて選択されると」


 そんな加護を、望んで手に入れた男を、この世界の人間はどう見るだろう。

 答えはシンプルだ。


「へ、変態!」


 ほらこんな目。

 受付嬢がゴミを見るような目で俺を見ているぞ!

 こうなるから嫌だったのに……。


「なんてことしてくれてんだよぉ!」

「なんですか! 質問に答えただけじゃないですか!」

「それがダメだって言ってんだよぉ!!」

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