誰かパーティー組んでくれ②

 一体目のサイクロプスは瞳が光っていた。

 けれどこいつは、背中が光っている。

 目や心臓、首ではなく背中の時点で、何かあるんだ!


「カナタ! 背中だ! 背中に何かある!」

「背中?」


 俺の声を聞いたカナタが赤いサイクロプスの股を潜り、背中側へ回る。

 俺には見えないが、彼女の視界には何かを捉えたらしい。


「赤い結晶があるぞ!」

「結晶? ってことはそれが弱点なのか?」

「とりあえず壊してっと!」


 破壊しようと飛び掛かったカナタに、サイクロプスの裏拳が放たれる。

 カナタはギリギリで回避し、再び距離を取って正面で向き合う。

 一瞬だけど今の攻防で、チラッと結晶が見えた。

 俺の加護はあそこが弱点だと言っている。

 たぶんあそこだけダメージが通るとか、結晶を破壊したら再生できないとかじゃないか?

 ゲームだと大体そんな感じだ!


「結晶を破壊できないか!」

「やりたいんだけど、こいつかなり警戒してるんだよ!」


 今の一瞬で後ろに回られたことで、サイクロプスの警戒心が増してしまったらしい。

 加えてカナタはかなり消耗している。

 息も絶え絶えで、先ほどのように股を潜って背後へ、なんてことはできそうにない。

 

「せめて……はぁ、一瞬でも隙ができれば……」

「一瞬……」


 この時俺の脳裏には、カナタの言葉が浮かんでいた。


 大事なのは怖くても立ち向かう勇気があるかどうかだろ?


 俺は拳を握る。

 怖い。

 あんな化け物の攻撃を、一発でも食らったら俺は死ぬ。

 それでも、今行かなきゃいけない。

 そう思ったら、勝手に身体が前に出ていた。

 まるで背中を誰かに押されたように……。


「……」

「頑張ってください、肉壁さん」

「てめぇかよ!」


 まるで、じゃなくて物理的に背中をサラスが押していただけだった。

 俺の勇気あるモノローグを返してくれ。

 

「あーもういい! こっち見やがれデカ目!」

 

 俺は走り出し、適当に石を拾ってサイクロプスに投げつける。


「タクロウ!? 何やって……危ないぞ!」

「俺があいつを引きつける!」

「――!」


 サイクロプスの視線が俺のほうに向く。


「その隙に背中を攻撃してくれ!」

「タクロウ!」


 石をぶつけられたサイクロプスが怒ったように叫び、俺のほうへ突進してくる。

 もちろん俺に戦う手段はない。

 とれる手段はたった一つ。

 全力の逃走だ。


「おおおおおおおおおおおおおお! 早くしてくれええええええええええええ!」


 俺は肺が爆発しそうなくらい全力で駆け回った。

 死にたくない。

 みっともないとは思うけど、今はこれが最善だと思ったから。


「――ははっ」


 一瞬、カナタの笑顔が見えた。

 彼女は最後の力を振り絞るとうに、全力で地面を蹴り、俺に意識が向いているサイクロプスの背後に跳ぶ。

 接近に気づいたサイクロプスが防御しようと腕を伸ばす。

 が、それよりも一瞬だけ速く、カナタの切っ先が結晶を貫いた。


「どうだ!?」


 サイクロプスが苦しみだす。

 考えるに、あれはサイクロプスにとって心臓のような役割を果たしていたのだろう。

 結晶が破壊されたサイクロプスの肉体は、みるみる崩壊していく。

 

「倒した……? や、やった! 倒したぞ!」

「へへっ、やったな!」


 カナタが笑顔で勝利のブイサインをしている。

 俺も嬉しくて、ついついはしゃいだようにガッツポーズをした。

 

「やるじゃないですか! 役に立ちましたね肉壁さん」

「お前は何もしてないけどな」

「私は天使なので癒し専門です」

「だったらここ治してくれ。ちょっと擦りむいたから」

「治癒魔法を覚えていないので今は無理です。私の存在に癒されてください」

「役立たずじゃねーか! 何が癒し担当だ! お前がまき散らしてるのは異臭だけだ!」

「なんですかぁー! 女性に向かって臭いとか死んでも言っちゃダメなんですよ! だから一生童貞なんです!」

 

 このクソ天使!

 やっぱり今からでも森の中に捨てて帰ろうか!


「ぷっ……はっははあははは!」

「カナタ?」

「どうしたんですか?」

「ううん、なんでもない! ほら早く! モンスターが増えないうちに森を出ようよ!」


 なんだか上機嫌になったカナタに手をひかれ、俺とサラスは森を出た。

 木々を抜けるとそこは草原だった。

 穏やかな風が吹き抜ける。

 なんて……。


「なんて気持ちいいんだ」


 八日間のサバイバル生活がついに終わった。

 解放感と達成感で満ち溢れて、安心して今すぐ倒れ込みたい気分だ。

 だけどまだ安心はできない。

 カナタの話だと、森の近くに街があるらしいが……。


「街の方向はわかるのか?」

「さぁ?」

「……だよな」


 街にたどり着くのは、もう少し時間がかかりそうだ。


  ◇◇◇


「やっと着いた」

「長かったですね……」


 俺とサラスで愕然とする。

 森を出てから二日かけ、ようやく俺たちは念願の街へとたどり着いた。

 最初はカナタの記憶を頼りに歩いていたけどまったく到着せず、地図を見ながら予想して、道なりに進んで現在に至る。


「最初から地図を見て進めばよかったな」

「そうですね……いい教訓だったと思います」

「あはははっ、悪い悪い! あたしが覚えてたらもっと早く戻れたんだけどな!」

「……」


 まったくその通りで否定もしようがない。

 彼女の方向音痴なだけじゃなく、記憶力も壊滅的だった。

 もし今後があるなら、彼女に道案内は任せられないな。


「それじゃ、あたしは冒険者ギルドに行くけど、二人はどうするんだ?」

「俺たちは先に宿を探すよ」

「お風呂が最優先です!」

「臭いもんな」

「臭い言わないでください! すぐにいい匂いになって悶絶させますよ!」


 それは匂いがきつすぎて悶絶するの間違いじゃないか?


「じゃあ、一旦ここでお別れだな!」

「ああ、いろいろありがとう」

「助かりました!」

「こっちこそ。タクロウのおかげで最後は勝てたからな」

「俺は別に、大したことは……!」


 カナタが俺の顔に向けて指を立てる。


「やっぱりタクロウは、勇気ある奴だと思うよ! あたしが保証する!」

「――! そうだといいな」

「そうだって! 自信もてよな! そんじゃまた!」

「ああ」

「また会いましょうー」


 元気いっぱいに去っていくカナタを俺たちは見送る。

 彼女と出会えたことは間違いなく幸運だった。

 もし彼女が森で迷子になっていなければ、俺たちは最悪まだ木の根で震えていただろう。

 今後も仲良くできたらいいな。


「さて、俺たちも行くか」

「そうですね」


 異世界の街、初体験。

 とかハイテンションになれる体力は残っていなかった。

 街並みは古風というか、ゲームに出てくる一般的な街って感じだ。

 妙になじみがある。

 適当に宿屋を探し、二人で一部屋ずつ借りる。

 代金は赤いサイクロプスを倒した時に手に入れたゴールドがある。

 俺はほとんど何もしていないし、貰うのは申し訳なかったけど、カナタが半分は俺のものだって言って強引に渡してきた。

 ゴールドだけじゃなく、レアドロップ品まで譲ってくれた。

 自分は使わないからと。


「いい奴だったなぁ」


 ベッドに寝転がり、目を瞑る。

 これまでの疲れと、安眠できなかったこともあり、一瞬で寝入ってしまった。

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