誰かパーティー組んでくれ①

 カナタと一緒に森の中を散策する。

 この一週間、ほとんど隠れてやり過ごしていた俺たちと違って、カナタは出口を探して歩き回っていたらしい。

 そんな彼女の記憶を頼りに進んでいるのだが……。


「うーん……ここも来たことがあるような……ないような?」

「どっちなんですか!」

「うーん……わかんない! たぶん初めてじゃないか?」

「曖昧ですね……」


 早く森を出たいサラスはガクッと肩を落とす。

 どうやらカナタは方向音痴らしい。

 地図は持っていたので見せてもらったが、自分がどこにいるのかもわかっていなかった。

 森なんていたるところにあるから、どこの森なのか断定できない。

 とにかく変に曲がったりせず、一方向に真っすぐ進んで森の外を目指す。

 今はそれしかない。

 幸いなことに、モンスターが現れてもカナタがいれば解決だ。


「カナタは剣の修業のために旅をしてるんだよな?」

「ん? そうだぞ」

「なんで剣なんだ? 両親が剣士だったとか?」

「ううん、あたしの両親は普通の農家だよ」

「じゃあなんで?」

「格好いいからかな!」


 あまりにもシンプルな理由に、少し驚く。

 カナタは続けて語る。


「小さい頃にさ? 一度だけ冒険者の剣士がモンスターと戦ってるところに遭遇したんだ。でっかいモンスター相手に、こんな小さな剣で戦って勝っちゃんだぞ? 凄いって思ったなぁ」


 カナタは子供みたいに無邪気な笑顔でそう語った。

 それは憧れだ。

 彼女は幼い頃に見た剣士に憧れて、自分も剣士になる道を選んだらしい。

 なんかいいな、そういうの。

 異世界って感じがして。


「タクロウはないのか? そういうの」

「俺は……ないかな」


 将来の夢とか、子供の頃にはあったかもしれない。

 今ではさっぱり思い出せなくなっていた。

 その程度の夢だったのだろう。

 現実は簡単じゃない。

 やりたいことがなんでもできて、好きに生きられるほど単純でもない。

 残念ながら俺は凡人で、何の才能もなかったから。


「じゃあさ? あたしと一緒に剣士目指そうよ! 楽しいぞ!」

「剣士か。確かに格好いいとは思うけど、俺には無理じゃないかな」

「なんでだ?」

「だって剣士って近接職だろ? あんな近くでモンスターと戦う勇気は、俺にはないよ。小さい頃なんて、道に通った蛇が怖くて、いなくなってからも道を渡れなかったんだ」


 蛇が怖くて泣いていた。

 もうっとくに茂みの中に隠れて、見えなくなっているのに。

 お祖母ちゃんが気づいて助けてくれなければ、一時間でも半日でも、俺は道路の真ん中で泣きながら立っていただろう。

 ビビりな俺には、剣士なんて向いていない。


「でもそれって、昔の話だろ? 今は違うかもしれないじゃんか」

「そうかな……」

「気持ち次第だと思うぞ! あたしだって怖い時は怖いしな! 大事なのは怖くても立ち向かう勇気があるかどうかだろ? タクロウにはあると思うけどな」

「なんでそう思うんだ?」

「だってタクロウ、一つ目のモンスターに石投げつけてただろ?」

「――!」


 ふと思い出した。

 サイクロプスに襲われた時、俺はやけになって石を投げた。

 無意味どころか逆上させるだけの行為だったけど。

 確かに俺は、立ち向かおうとしていた。


「というか見てたんだ」

「遠目に見えたんだよ。タクロウは勇気を出して戦おうとしたんだろ? ビビりなんかじゃないって」

「……そうかもな」


 あの頃の俺よりも、少しは成長しているのだろうか。

 だとしたら嬉しい。

 

「あ! 見てくださいよ! あれって出口じゃないですか?」


 サラスが大きな声を出し、前方へ指をさす。

 森の木々が数を減らし、開けた場所が奥に見えている。

 俺とカナタは視線を合わせる。

 ついに出られる。

 そう確信して、俺たちは走り出した。

 直後、俺たちの前に巨人が落下してくる。


「っ……またモンスターか」


 現れたのはサイクロプスだ。

 ただし前回戦った奴とは明らかに違う。

 大きさは倍近くあるし、右手に持っているのはこん棒ではなくグレートアックスだ。

 そして最大の違いは、肌の色が……。


「赤い?」

「二人とも下がって! こいつ……なんかヤバそうだ」


 カナタが剣を抜き、俺たちを守るように前へと出る。

 いつになく真剣な表情をするカナタを見て、俺はごくりと息を飲んだ。

 赤いサイクロプスが先に動く。

 グレートアックスを振りかざし、俺たちに向けて攻撃をしかける。

 大きな一歩、大きく振りかぶった手。

 かなり距離が離れていたつもりだったけど、その攻撃は俺たちまで軽々と届く。


「っ……」

「カナタ!」


 カナタが俺たちを庇い、避けずにグレートアックスを剣で受け止めた。

 一撃の重さは、彼女の足元がくぼんだことで理解する。


「もっと……下がって!」

「あ、ああ! 離れるぞサラス!」

「そ、そうね!」


 邪魔をしてはいけない。

 今の俺たちじゃ足手まといにしかならないから。

 できるだけ距離をとり、彼女の戦いを見守る。

 赤いサイクロプスはグレートアックスを持ち上げ、再度振り下ろす。

 今度はカナタも回避し、凄まじい速度で懐に入った。

 目に見えない一閃。

 赤いサイクロプスの腕が落ちる。


「やった!」


 隣でサラスが声に出す。

 あの時と同じように腕を奪った。

 このままカナタの勝利で終わると思ったが、斬られた腕が一瞬で再生してしまう。


「――!」


 カナタも驚いて距離を取る。

 赤いサイクロプスは追撃するが、カナタの速度にはついてこれずに攻撃は当たらない。

 続けて両腕を落とすが、またすぐに再生してしまう。

 胴体、足、首を斬っても瞬時に再生する。

 速度で勝るカナタが優勢だったが、次第に呼吸が乱れ始める。


「はぁ……はぁ……」

「カナタ……」


 彼女の速度が落ちてきている。

 目に見えない速度が、徐々に俺の目でも捉えられる速度まで落ちていた。

 ひょっとすると彼女は体力が心もとないのかもしれない。

 あれだけの速度で移動できるんだ。

 普通に考えれば体力の消耗だって激しい。


「ね、ねぇ大丈夫なんですか?」

「……」


 不安そうな表情でサラスが尋ねてきた。

 大丈夫、とは言えない。

 カナタの攻撃は効いていないし、体力の消耗で移動速度も落ちてきている。

 このままじゃいずれ、赤いサイクロプスの攻撃がカナタを捉えるだろう。


 そうだ!

 こんな時こそ、俺の加護が役に立つはずだ!


 俺は瞳を閉じて加護を発動し、再び開く。

 第一加護『弱点開示ウィークスポッター』、効果は相手の弱点を見抜く。

 何かないか?

 あいつの弱点は!


「――!」

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