第6話 みんなで食べる食事は美味しい
蓮が冷蔵庫を開けて中身を確認した後、夕ご飯のメニューの見通しがついたのか冷蔵庫のドアをパタンと閉じて、冷蔵庫の横にかかってあったエプロンを身に着けた。
「夕ご飯、パスタでいい?あと、サラダとコーンスープぐらいしかできないけど、いい?」
蓮は申し訳なさそうにしているが、普段自炊と言っても適当に肉と野菜を焼き肉のたれで炒めたものを食べている僕にはご馳走だ。
「蓮ちゃん、なにか手伝おうか?」
「じゃ、沙紀ちゃん、ゆで卵作って、半熟にしたいから8分ぐらい」
「も~、いつもそうやって私に包丁使わせないようにする」
「だって、沙紀ちゃんの包丁使い危なそうで見てられないだもん」
沙紀と蓮、ふたりがじゃれあいながら夕ご飯づくりを見て、羨ましく感じたが二人の仲に入って行けそうにない僕は、黙々とテーブルを拭いた。
「さあ、できたよ食べよ」
テーブルには、ホウレンソウ入りのカルボナーラとブロッコリーとツナのサラダ、コーンスープが並べられている。
「いただきます。このサラダ美味しい」
「カルボナーラも最高」
僕と沙紀は口々に料理を褒めると、蓮が照れたような笑顔を見せた。
いつも一人でテレビをみながら黙々も食べているので、こうやってみんなで楽しく話しながら食べるとより一層美味しく感じる。
「片づけまで、手伝ってもらって悪いね」
僕が洗った皿を受け取り布巾で拭きながら、蓮は申し訳ない表情で謝った。
「こちらこそ美味しい料理食べさせてもらって、悪いよ。全部美味しかったよ。蓮、ありがとうね」
「みんなで食べるご飯って美味しいよね」
蓮は微笑みながら、食器乾燥機のボタンを押した。
「みんなって、蓮は母親と暮らしてるんじゃないの?一緒にご飯たべないの?」
「一緒に暮らしているって言っても、お母さん仕事で遅かったり、外で食べてきたりするから、夕食は一人のことが多いから」
蓮の笑顔が消え、少し寂し気な表情を見せた。沙紀も厳しい視線でこちらをにらんでいるし、蓮の家庭の話題には触れない方がよさそうだ。
「昼間は暖かいけど、やっぱり日が暮れると寒いね」
沙紀はカバンの中からカーディガンを取り出して、袖を通しながらつぶやいた。
沙紀がそろそろ帰るというので蓮と駅まで見送ることなり、マンションの外に出ると風が冷たくなっていた。
蓮のマンションから駅までは歩いて数分、話しながら歩いているとすぐに着いた。
駅の改札に向かおうとした沙紀が、何かを忘れたみたいで小走りで戻ってきた。
「あっ、ちょっと田島君、いい?」
「うん」
沙紀が僕の手を引いて、蓮と距離をとった。蓮には聞かれたくない話のようだ。
「蓮と二人気になっても、いやらしいことしちゃダメだよ」
「しないよ。男同士なんだし」
たしかに蓮はかわいい。もし、男じゃなければ付き合いたいぐらいだ。
「あと、蓮の家庭のことはあまり聞かないで、わかった?」
「うん」
それは言われなくても、薄々気が付いていた。蓮と再会して以来、家庭のことや過去のことについて聞くと、すぐにごまかしたり話題を変えたりされる。
それだけ僕に告げると、沙紀は再び改札の方へと小走りで向かっていった。
「沙紀ちゃん、なんだって?」
帰り道、蓮が心配そうに尋ねてきた。
「二人きりになっても、蓮に手を出したらダメよって。付き合っていたとはいえ、心配性だよね。僕が蓮に手を出すわけないのに」
「沙紀ちゃん、そんなこと言ったの」
「幼馴染で仲良いのを心配しているみたいだけど、男同士なんだから心配しなくもいいのにね」
僕がそこまで言うと、蓮は下を向いて黙り込んでしまった。
「あっ、ごめん。俺なんか変なこと言った?」
「う、うん、なんでも。さあ、帰ってゲームしよう。ボク、格ゲーがいいな」
蓮はかぶりを振りながら、取り戻した笑顔で答えた。
そのあと、蓮の部屋へと戻りゲームを再開した。二人きりになると沙紀に気を使わなくてもよい分、二人で盛り上がった。
「ちょっと、休憩しよ」
凡ミスで負けた蓮がコントローラーを置いた。時刻は午前3時を過ぎ、さすがに遊び疲れてきたみたいだ。
「さすがに、ちょっと眠くなってきたし、小腹もすいたな」
「じゃ、なんか持ってこようか」
キッチンへと向かった蓮は、ビスケットとコーヒーをもって戻ってきた。
ちょっと冷えてきたところに暖かいコーヒーと、小腹がすいたところにビスケットの甘みがちょうどよい。
「あのね、直人には、ボクが佐賀から出て行った後の話してなかったよね」
コーヒーを一口飲んだ後、意を決した蓮が慎重な口調で語り始めた。
蓮の過去、それは、タブーな話題と沙紀からも念を押されたばかりだった。
「それって、僕が聞いていいの?なんとなく、過去に触れようとすると今まで避けてたけど」
「重たい話だからボクもあまり話したくなかったけど、こうやって直人と楽しい時間過ごしているのに、隠したままなのもフェアじゃないと思ってさ」
蓮はコーヒーカップを置いて、過去を話し始めた。
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