第2話
「あぁぃっ」
ノウト爆誕である。
(まじで赤ちゃんに戻った…)
震えているのは衝撃的なことが起こっているからなのか、それともお股がむずむずするからなのか。
正解はどちらもだ。
「おぎゃあああああ!」
声と一緒に下からも何かが溢れてくるがそれに負けじと大声を出す。
我ながら声はめちゃくちゃでかい赤ちゃんだと思う。
このおぎゃああ一発で大抵は母が来てくれるのだが…今日は少し違うらしい。
どたどたどた!!
バタンっ!
勢いよく開かれた扉の音はかなり大きく、普通のパンピー赤ちゃんなら泣いていたことだろう。
しかし僕は違う。
なんてったって転生した30歳なのだから!
「ばぶぅばぶぅ…(かかってきたまえ)」
「のーと!おきてるー?ねてるー?」
「ぁぃ!」
「もぉ…こえおおきいよ…!おべんきょうからにげてきたんだから!しー!」
(それはいけませんな姉上)
この人は8歳上の姉であるすみれお姉ちゃんだ。
大きくぱっちりした瞳と滑らかな髪、子どもながら整った顔立ちは将来美人になること間違いなし。
ということはもちのろん僕は超イケメンになる未来が待っているはず。
なのに、どうしてか僕は非モテだった。
告られたことなど一度もないしイケメンと言われたこともなかった。
「ばぁぶばぁぶ?」
「…なんかうざぁい」
いつか流行ってたのを赤ちゃん言葉で言ってみたわけだが姉にはウケなかった。
「あれ?お漏らししてる?ちょっとまっててね!」
「ぁい」
ようやく気づいてくれて母を呼びにでも行ったのかどたどたと駆け足で部屋を出て行った。
そして数分後、
カシャ!
カシャカシャカシャ!
カメラを持った姉が現れた。
(……何してるんだろこの人)
いくら僕が可愛すぎて目が眩んだとしてもオムツの交換ぐらいはしてくれるはず。
なのにシャッターを切る音だけが永遠と続く。
「はいこっち向いてー!」
「ぁぅ」
記録されるものだから、しっかりと動ける範囲でポーズを取る。
ほぼ手を動かすことしかできないがピースもどきをしたりはできるのだ。
「ふふふっかわいい〜!よわみげっと!」
「………………あぅ?」
姉はニコニコと笑顔を僕に向けてくれているのだが…どうしてか純粋無垢な8歳児とは思えなかった。
「ふふふっ、成長したら楽しみだね」
(え?何が?)
子どもの考えていることがまったくわからない。
なんだろう。
写真撮るぐらい僕のことが好きなのだろうか。
僕は姉のことを…家族のことをはっきりと覚えていない。
記憶にあるのは朧げな両親の顔と動かなくなった3人の冷たい体。
あの事件が、僕から全てを奪い去り…強さに固執するようになった発端でもあった。
【ダンジョンパレード】
ダンジョンに存在するモンスターがまるでパレードをするかのように溢れかえる現象だ。
モンスターは人を殺すためだけに生まれた化け物たち。
それが現代を襲うなど恐怖でしかないだろう。
(あと5年…)
僕が生まれてから5年後の誕生日の翌日に…それは起こる。
今世では、絶対に奪わせやしないし、何がなんでも強くならなければいけない。
そのためには、僕だけに存在するアドバンテージを極限まで活用し、死に物狂いで個の強さ、そして集の強さを手に入れる。
(目指すは…四大ボス…)
不可能に限りなく近い討伐ミッション。
それを可能にするのは…僕の記憶だ。
未来を知っているというのはチートである。
さらに強さに貪欲だった僕は当時の探索者上位層の名前をほぼ全て覚えている。
他にもこの時代ではまだ存在しなかった魔力増強剤のレシピや伝説の武器、防具の居場所、便利なアイテムなんかも知っている。
そして今すぐにでも取り掛かるべきこと…
それは歩けるようになることだ。
目指せ2週間。
とりあえずハイハイもできないからよく寝てよくおっぱい飲んでおしっこして寝る。
起きてる時は体をジタバタとさせる。
(最強はすぐそこだあああ!!)
「あぅ!あぅ!」
あ、力んだからかまたお股が……
濡れていくオムツを自ら外せないのがどれほど酷か。この湿り気が気色悪い。
「あーぃ!あぃ!」
(早く母さん連れてきて!)
すみれにどうにか伝えようとするが彼女は写真を見て笑ってばかり。
何がそんなに面白いんだと思った瞬間、彼女は僕に笑顔を向けた。
「のーとはおもらしさんだねぇ?見て?いっぱい溢れてる…大きくなったらこれ…お友達にばらまいちゃおっか?」
心底楽しそうにするすみれはどこか狂気じみた瞳をしていた。
(…………うちの姉、ドSじゃねぇか)
転生して初めて姉の性格を知った王人だった。
なお、その後30分ほどで母が来てオムツを変えてくれました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
現代に出現したダンジョンというものはさまざまな恩恵を人々に与えた。
魔法やスキル、肉体の強化などアニメや漫画の世界でしか起こらない現象をリアルにできるようになったのだ。
それにありえない効力をしたアイテムや魔道具、武器に防具…寿命を延ばすものや若返りの霊薬などもあった。
そんな蜜があれば強欲な人というものは誰だってダンジョンへと潜る。
しかし、恩恵だけではなく、それは無慈悲にも現れる。
『モンスター』
人を殺し尽くせと命令されたダンジョンの生き物。
腕がもげようと脚がなくなろうと命尽きるまで襲ってくる怪物たち。
その悪魔のような姿に人々はすくみ上がり大勢の人々が命を落とした。
だが、恩恵を与えられていれば上層の魔物など塵芥も同然。
ある人は宝を、快楽を、狂気を、感動を、強さを求め、ダンジョン時代が幕を上げた。
そしてこの西暦3000年は黄金時代と呼ばれるほどダンジョンの攻略がされていた。
よくニュースにも取り上げられているが、ダンジョンにはモンスターだけでなく亜人という人たちが存在する。
そして亜人の種類は獣人族、森人族、竜人族、巨人族、小人族、魚人族に分かれており、このうちの二種族と人類は同盟を結んだのだ。
他にも少し特殊な種族がいるが…滅多に姿を現すことはない。
個の強さでは人の何倍も優れた彼らと共闘し、ダンジョンを攻略していく姿は皆の憧れの的だった。
かくいう僕も前世では憎むほどその強さを妬ましく思っており、攻略ニュースを見るたびに暴れたものだ。
「ばぁぶぅ…」
あ、転生してから1ヶ月が経過してます。
普通の赤ちゃんよりも早いペースでよちよち歩きを覚えた僕は、壁や棒を支えにぷるぷると家の中を歩き回っています。
たまにどっと疲れるので芋虫みたいに移動していると親の目を盗んだ姉に踏みつけられます。
その光悦至極の表情はまさに女王様。
僕を完全にモノ扱いしてくる彼女は8歳にしてドSの才能が開花しています。
(将来がとても楽しみであります)
「そ、速報です!な…なんと世田谷超級ダンジョンを奧崎なぎ率いる人族のパーティで攻略した模様です!繰り返します!……」
リビングのソファには姉が座り、その足元に僕が横たわってゴロゴロされるという最悪な絵面ではあるけどニュースはしっかりと聞いている。
僕の意識がなかった赤ちゃん時代のニュース。
新聞やネットで見るのとは違い、リアルタイムでの情報はとても新鮮だ。
そしてこのニュースは未来で伝説となる。
というのも僕が生きた30年間でこれ以降人族だけでの超級攻略は一度もないからだ。
冗談抜きでこの偉業は馬鹿げている。
この奧崎なぎというのは頭のネジが全部外れているはず。
それぐらいおかしくないと超級というのはクリアが不可能なのだ。
ダンジョンには階級というのが存在する。
下から初級 中級 上級 超級 絶級 破滅級となる。
人族の限界は超級までと言われているためよほど良いスキルもしくは魔法、さらに武の天才でなければ超級探索者など絶対になれないのだ。
ちなみに前世でまぁまぁ強かったはずの僕は中級でした。
中級でもすごいんだぞ?
人族で中級って世界でも100万人いないんだぞ?100万ぐらいはいるとか言うなよ?
そして……
僕が討伐する4体のボスは破滅級の主である。
(……考えるだけで魂すり減るし風穴空きそう)
ただ神を信じ、強くなるための最短を走る。
僕にはそれぐらいのことしかできないから。
もしそれで死んだらあの神も地獄へ道連れだ。
「おぎゃぎゃ…」
(おっと…変な声が出てしまった。僕は純粋無垢な0歳児。決して周囲にばれてはいけない)
今の僕が遂行するミッションである。
精神年齢30歳なわけだけど、郷に入ったら郷に従えというじゃないか。
本気で演じ、楽しく成長するんだ。
そうすればいつの間にか年なんてくってる。
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