【#8】古瀬風『Tokyo 7th sisters -episode.Le☆S☆Ca-』(KADOKAWA)

■等身大の「青春」

 一般に10代後半の時期は「青春」と形容され、のちの人生に影響を与えるような重大な選択を数多く求められる。「無限の可能性が広がっている」——そう言われると聞こえは良いが、選択肢が多いほど悩みも尽きない。「私は何に向いているのだろう」「私がやりたいことは何だろう」……といったように。


 その意味では、本作『Tokyo 7th sisters -episode.Le☆S☆Ca-』は人生の行く末を左右するような重要な選択肢を前に、悩み、考え、行動するティーンエージャーの瑞々しくも力強い青春模様が描かれている。のちにLe☆S☆Caとしてアイドルデビューを飾る上杉・ウエバス・キョーコ、荒木レナ、そして、西園ホノカの出会いと決断の物語だ。


 物語の前半は西園ホノカを中心に進んでいく。これまで、明確な目標や「やりたいこと」を持つことなく歩んできたホノカ。自分を変えようと意気込んで上京したはいいものの、大きな変化はなかった。そのさなか、突如として訪れたアイドルデビューのチャンス。かように思い悩むホノカにとっては、まさに渡りに船といってもよさそうだが、またしても彼女は悩む。「本当にこれが自分のやりたいことなのか」と。


 そんなホノカを後押ししたのは、のちにユニットを組むことになるキョーコやレナとの関係性であり、「私のやりたいこと」をひたむきに追求する"赤みがかったボブカットの女の子"の姿勢であり、母親や叔母もかつては将来に思いを馳せ、悩み、あらゆる可能性に挑戦したという事実だ。実際にアイドルのステージを見学し、彼女らから放たれる"輝き"を目の当たりにしたのも大きいだろう。Tokyo-7thでの生活やナナスタでの交流が、ホノカ自身の「やりたいこと」を見つけ出し、彼女自身もまた前進するようになる。


■無限の可能性へ「跳ぶ」

 一方、後半の主人公であるレナも、表情には出さないものの鬱屈した日々を過ごしていた。これまで没頭してきた「走り高跳び」で思うような結果を出せていなかったのだ。レナのアイデンティティーを象徴する競技だったが、記録が頭打ちになったことから、無意識のうちに走り高跳びから遠ざかる。


 そんなレナを動かしたのが他でもない、ホノカだ。前述したように「自分のやりたいこと」を見つけられずにいたホノカだったが、こと悩みに対しては真摯に向き合っていた。その姿勢をみたレナも「自己ベストを更新するまでナナスタには顔を出さない」と、けじめをつけるのだった。キョーコやホノカに見守られる中、レナは跳ぶ。これまで数多くのハードルを飛び越えてきたレナだが、今回の一本は特に彼女にとって大きな跳躍となったことは間違いない。


 そんなホノカやレナに対し、キョーコは「アイドルとしてソロデビューをする」と明確な目標に向かってストイックにレッスンに取り組むなど、人生の悩みなんてどこ吹く風だ。Le☆S☆Caのなかで最も年下であるはずのキョーコが、3人のなかで少し大人びた印象を持つのは、おそらく「悩むヒマなんてない」と言わんばかりに目標に向けてレッスンに取り組むストイックさゆえだろう。そんなキョーコも、のちに自らの可能性に挑戦し、挫折する日が来るわけだが、それはまた別の話だ。


 無限の選択肢が広がっているがゆえに、将来に思いを募らせ、悩む。本作に登場するのは、そんな等身大のティーンエージャーたちだ。ホノカもレナも「自分がしたいこと」と真摯に向き合い、おのおのが答えを出した。それはある特定のものでもいいし、別に一つに絞り切れなくたっていい。現に、レナは高跳びを続けながらアイドル活動を行うことを決意した。ことほど左様に、重要なのは形式ではなく実質。興味があること、やりたいことをひたむきに突き詰める姿勢が大切なのであって、それが「アイドル活動」に限定されるいわれはないのだ。


「青春ということは、ようするに、生きることのシノニイムで、年齢もなければ、又、終わりというものもなさそうである」と断じた坂口安吾のように、「青春とは人生のある期間を言うのではなく、心の様相を言う」と喝破したサミュエル・ウルマンのように、「青春」を特定の時期に絞ることなく、人生全体として捉える解釈もあるし、むしろナナシスの現在地はこちらに近いように感じる。その中で、本作は括弧付きでない純粋な青春を真っ向から描いている作品だ。


「爽やかで、甘くて、少し酸っぱい」——可能性に満ち溢れた"ティーンの青春"を力いっぱい生き抜こうと躍動する彼女らからは、他の何者にも代え難い、燦然とした輝きを放っている。

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ナナシス観測記 室内主義者 @nki26

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