第24話 伊藤悟の決意

 時は遡って異世界から帰って来た日になる。


 伊藤悟は帰って来た後、家に帰り親に決して家から出ないように言うと戸締りをして外に出る。

 近所のゴブリンを一掃していく。


 健人が戻って来た時にゴブリンがいなかったのは、近所のゴブリンを悟が倒して回ったからだ。


 ダンジョンを見つけると入って、レベル上げをして行く。

 勇者のポテンシャルを十分に使いこなしているので、少し格上の相手が出てこようがお構い無しで狩って行く。


「まだだ!もっとだ!」

 ダンジョンを壊して外に出るとまだゴブリンを倒しながら近所一帯をくまなく探す。


 夜までゴブリンを倒してから家に帰る。


「悟!大丈夫だったの?お母さん心配で」

「心配ないよ。俺はもう間違えないから」

 と言い自分の部屋に入る。


 椅子に座り目を閉じる。

『友達だと思ってたのか?』

 と言う自分が言った言葉を悔しそうに歯を食いしばる。


 健人は弱くなかった。

 いや、弱かったからってあんなに怒ることはなかった。

 感情に身を任せ出てしまった言葉が頭から離れない。


 思い浮かべるのは、友達として楽しく暮らしていた異世界に行くあの日までの日常。


 全て異世界と言う非現実的なあの環境が自分を狂わせたのだと思いたい。


 出来ることならあの頃に…


「悟、ご飯よ?」

 真っ暗の部屋の中、椅子に座っている俺を母さんがご飯が出来たといいにやって来てくれた。


「あ、ありがとう。今行くよ」

 俺は部屋から出ると、下のリビングでご飯を食べる。


 俺の家は母子家庭だ。

 父さんはいるそうだが顔も見たことなく過ごしている。

 ちゃんと養育費は払ってくれてるらしいからそれでいいと思っていた。


「ねぇ悟、何かあったなら教えてちょうだい」

「あぁ、俺たちは異世界召喚させられたんだ」

 と話して行く。


 送還の際にあちらの世界のモンスターやダンジョンと言うものがこちらに来てしまったことも。

 だが、健人に言った言葉だけは母さんに言えなかった。


 俺はテレビをつけると母さんに現実を見せる。

「これが今日起こったことだよ」

「そ、そんな、じゃあ本当に?」

「そう、そしてこれは俺たちから見たら最弱のモンスターなんだ」

 ゴブリンが映っているのを見せてそう説明する。

「だから俺はこの周りのゴブリンは倒した」

「そ、そうなのね。じゃあもう」

「俺は勇者だからこれからも倒して回る」

「そんな!自衛隊なんかに任せておけばいいじゃない!」

 と母さんは言う。


「それじゃダメなんだよ、これからは…これからも俺は強くならないといけない」

 そのためにはダンジョンだ!


「俺はこれからも戦い続ける!だから、母さんは心配しないでくれ」

「心配するわよ!け、健人君なんかと一緒に」

 健人と言われ言葉に詰まるが、

「母さん…俺は間違ってしまったんだ。だから1人で強くなる」

「え…健人君は帰ってきたのよね?まさか」

「帰ってきてる」

 だがもう…

「そ、そう、良かった」

「だけど健人はもう俺とは」

 それだけ言うのが精一杯だった。

 自分は何て情けないんだ。


「そう、何かあったのね」

「あぁ、だから1人で戦うからさ」

 と言って部屋に戻る。


 次の日からもダンジョンを探して、出来るなら攻略して行く。


 帰ってくると生傷の絶えない俺を見て母さんは自分も一緒にダンジョンに行くと言ってきたが、ゴブリンすら倒せないと言って拒絶する。

 

 ようやくダンジョンの20階層のボスを倒してダンジョンを破壊せずに宝をもらうとそこには聖剣クラウスが入っていた。


「これでまた俺は強くなれる!」


 家に帰ると母さんが回復魔法で生傷の絶えない身体を治してくれる。


「どうしたんだよ?」

「お母さんも少しでも力になりたくて近くのお母さん達に混ざってモンスターを倒して来たの!」

 母さんは自ら動いて回復魔法師になっていた。


「あ、ありがとう」

 涙が止まらない。

「うん!だから怪我したらすぐに帰って来るのよ?」

 自分が知らないうちにゴブリンを倒してステータスを取っていた。


 こんなに自分の母親は強かったのかと思い、また間違えたことに涙が溢れ自分の愚かさが胸を打つ。


「俺はまた、また間違えた」


「間違うことは誰にでもあるわ、それはしょうがないことだもの。それを今後にどう活かすかで悟の未来は変わるわ!」

 母さんの優しい言葉が…


「うん、俺は間違えてた、けど…でもやる事は変わらない!人を助けられる人になりたい」


「そうね、頑張りなさい」

「はい!」

 母さんに言われ、自分の間違いを認めて強くなる事を誓う。


 それからも1人でダンジョンに潜ってはレベルを上げるために格上のモンスターも倒して行く、ダンジョンでは潰す事はせずにスキルか宝箱を取り、そこにまた潜ってダンジョンを潰すことを繰り返していた。


 ダンジョン法が適用されてからも冒険者証を取り、ダンジョンに潜っては限界まで戦い続ける。


 俺は1人ダンジョンに潜り続ける。

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