第17話 伊藤悟と内藤大吾


 俺はなぜあんなことを言ったんだ?

 伊藤悟は自分が言った言葉で傷付いてしまった。


 『お前友達だと思ってたのか?』


 俺は健人にあの時そう言った。

 何故だ?

 勇者の俺は皆んなを引っ張って行かないと行けないのに弱い健人に腹が立って…


 違う!俺は見下したんだ!自分の親友を、友達だと思ってたのに、俺は…


「おい、そろそろ起き上がれよ」

「…あぁ」

 起こされて自分の席に座る。


『お前友達だと思ってたのか?』


 心に突き刺さる。

 

「大丈夫?ヒール」

「ん、あぁ、ありがとう」

 と吹き飛ばされた峰川が回復魔法で起き上がる。


「はぁ、西園寺があんなチートだって知ってたらこんなことにはならなかったのに」

 誰かが言っている。


「そうだよ!そしたら別にあんなことしなかっ「お前ら!それ以上言ったらぶっ飛ばすぞ!」は?」

 内藤が何故か怒っていた。


「あんたが1番いじめてたじゃない!」

 と聖女の桜井が言う。


「あぁ、そうだ!だから1番キツかったんだ、俺の職業はオークソルジャーだぞ!いつ殺されるかわからない恐怖と罵られ嘲笑われるか恐怖でならなかった!」


 恐怖の告白だった。

 あいつはそれでもレベル上げをしていたのか?


「は!オークソルジャー?あんたオークだったの?」

 桜井は少し笑いながらそう言う、俺もあんな表情をしていたのか?


「そうだ、お前らに分かるか?女を抱いて孕ませることしか頭になくてそれでもどうにか自分を保ってられるのか?」

「知らないわよ?汚らわしブゲッ!」

「あ、あんた!女に手を」

 内藤は桜井を殴るとスッキリした顔をしている。


「知らないねぇ!ようやく関係なくなったんだ!それに俺だけじゃねぇだろ?あいつをいじめてたやつ」

 クラスメイトが静かになる。


「あいつは1人で魔王を倒すまで強くなった。誰よりも早く、俺も必死にレベル上げしたが届かなかった」

 内藤は1人でレベル上げしてたのか。


「お前ら仲良くやってりゃいい!だが、あいつは悪くねぇ!最初に裏切ったのは俺らだからな!」

 内藤の言う通りだ、俺は…


「でもあいつのやった事は」

「なんだよ?続きいってみろ!」

「…」

「は!ただのレベル上げとスキルを取るだけだろ!どこに違いがある?スキルを使って悪いことなんかないだろ!あいつにスキルを使われてようやくわかった。俺が怖かったのは裏切られることだ!俺はもう裏切らねぇ!裏切りそうなやつとは連まねぇ!お前らは好きにやってろ」

 そう言うと内藤は鞄を持って出て行った。


 裏切られること、俺はそれ以上の事をあいつにしてしまった。


「は!あいつにだけは言われたくない!」

 と桜井が回復させてもらったらしく叫ぶ。


「いや、あいつの気持ちも分かる気がする」

 と誰かが呟く。


「それより私が許せないのは臼井の野郎なんだけど!」

 篠宮が言う臼井はサッサと逃げ出していた。


「あいつがしっかりしてれば良かったんだけどね」

「違う!私達3人はあいつに扱かれてた!アイツは私にセクハラし放題だったの!」

 涙を流して臼井を糾弾する。


「うわぁ、やりそう」

「アイツならやるね」

「とりあえず職員室じゃねぇ?」

「私行ってくる!」

「待てよ!俺らも行くから!」

 と篠宮、長内、峰川が教室から出て行った。


「てか、ダンジョンが出来るって本当かな?」

「西園寺が言ってたんだから本当だろうな」

「私せっかく大学受かったのに」

「そりゃ俺らだって、だけどどうなるかわからないだろ?」

 

「そうよ、ダンジョンはあっちの世界にだってあったってことでしょ?だからダンジョンなんて言葉が西園寺から出るわけだし」


「そうだよな!まだ分からないからスキル持ってる俺らは有利だよな!」

「そうだよ!職業だってあるんだし、レベルだって上がって来てるんだから!」

 みんな自分のことばかりになってきたな…


「まぁ。どこにダンジョンができて国がどう動くかだよな!」

「そうだよ!国がギルドを作ればいいんだよ!」

「あー、あったねギルド!」


 俺は鞄を持って立ち上がる。

「おい伊藤、大丈夫か?」

「…俺は…」

 俺は何してるんだろうな。


「…帰る」

「そうか、気をつけてな」

 教室を出て廊下を歩いて行く。


 内藤が言ってた裏切られることが怖いと、俺はそれ以上の事をしてしまった。

 親友だったのに、幼馴染で昔から仲良かったのに、それなのに…


 どこで狂った?健人を見なくなった?俺は勇者で守らないと行けなかったのに…


 校門を出ると直ぐにゴブリンを見つけた。

「…アイツの言ってた事は本当だな」


 女性を引きずっていこうとしているので直ぐに走り出し鞄で殴りつけると消えて、魔石がドロップした。


「あ、ありがとうございます」

「…いえ」

 そうだよ、一般人にはゴブリンなんてただのモンスターじゃないか!


 恐怖の対象だ。


 アイツはよくやってた、手の皮がボロボロになっても剣を振って、1人で訓練してたのも見てる。


 なのに俺は!


 ゴブリンがまたいた。

「うおぉぉ!」

 俺はもう間違わない!


 健人に言った事、

 俺自身が言われた事、

 もう取り返しがつかない。


 ゴブリンを倒すとゴブリンソードと魔石をドロップした。

 ゴブリンソードを手に取ると走り出す。

 

 俺はもう間違わない!


 間違うわけにはいかない!


 俺はもう…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る