【#20】高鳥都『必殺シリーズ秘史 50年目の告白録』(立東舎)

■いま明かされる、時代劇不朽の名作の舞台裏

 必殺シリーズの魅力は、ひとえに「悪」を描いてきたことに尽きる。法の網をくぐってはびこる悪を、報酬を受け取って裁く。1972年9月にシリーズ第1作「必殺仕掛人」が放送されて以後、「仕置人」「仕事人」などさまざまな作品が制作されたが、このコンセプトは終始一貫している。


 これこそが「水戸黄門」「暴れん坊将軍」「鬼平犯科帳」といった他の時代劇作品との大きな違いであり、必殺シリーズが必殺シリーズたるゆえんである。勘違いされがちだが、必殺シリーズは「勧善懲悪」ではないし、「仕置人」「仕事人」は決して正義のヒーローではない。もし彼らが正義なら、人殺しを肯定することになってしまう。彼らは殺し屋。悪人であることは言うまでもない。

 

 藤枝梅安(緒形拳)、中村主水(藤田まこと)、念仏の鉄(山崎努)、飾り職人の秀(三田村邦彦)、三味線屋の勇次(中条きよし)……。シリーズを彩ってきたキャラクターは枚挙にいとまがないが、いずれも「悪人」として仕事を全うするところカタルシスがあるのだ。


 本書は、そんな必殺シリーズの制作を支えてきたスタッフのインタビュー録である。シリーズ前半はカメラマンとして、後半は監督として活躍した石原興に始まり、林利夫(照明)、中路豊隆(録音)、高坂光幸(演出)、都築一興(演出)、杉山栄理子(記録)、黒田満重(製作主任)、園井弘一(編集)、竹本洋二(音響効果)など、総勢30名が若き日に携わった必殺シリーズの思い出を回顧している。


 みなシリーズを初期から支えたスタッフばかりだ。失礼ながら、70~80歳とお年を召している。にもかかわらず、全員がせきをきったように当時の裏話を語りだす。製作上のトラブル。スタッフ同士の意見の衝突。出演者とのやり取り。「この作品のあのシーンは、実はね……」とおのおのから紡がれるエピソードはどれも必殺ファンをうならせる。


 いずれも40~50年前の出来事にもかかわらず、全員がまるで昨日のことのように鮮明に語る。彼らにとって必殺シリーズに携わった経験は何事にも代えがたい財産なのだろう。裏話をうまい具合に引き出す筆者のインタビュー術はもとより、日本映画や時代劇作品の造詣の深さも光る。


■「念仏の鉄」山崎努のインタビューも

 巻末には山崎努の特別インタビューも収録。御年86歳の山崎もまた作品の裏話をこと細かに語っている。

「同じ役を二度と演じない」がモットーにもかかわらず、「必殺仕置人」「新必殺仕置人」と2度にわたって同役を演じたのは、「念仏の鉄という役どころ、そして必殺シリーズのスタッフとの仕事が楽しかったから」と山崎。


 かように、必殺シリーズには視聴者だけでなく作品に携わる出演者、スタッフさえも引き付ける不思議な魅力を帯びているのだ。現在は年1回の放送にとどまっているが、いまだに根強い支持を集めているのもむべなるかな、である。

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