第200話 不穏な動き

 イデアが休暇で魔蟲の洞窟に行ってる間、魔王軍ではオビリオンがイデアの分の仕事をこなしていた。


 オビリオンは1人寂しく執務室で書類に目を通していた。仕事疲れで彼は独り言が多くなっていた。


「はぁー、早く帰って子供達に会いたい。魔王様は使い物にならないわ、イデアも同じく、ゴウライはエルフとの合同軍事演習したいわで私が見る書類が増えるし、リリアーナはリリムレッドに仕事押し付けて遊び呆けているし、そのせいでリリムレッドから苦情はくるわ、女性陣はリリアーナの美貌に鼻の下を伸ばす男性陣を敵視し始めているわで、早くイデア戻ってこいよぉー!!!!!」


「俺はこのままいくと子供達におじさんだーれって言われちまう。そんなこと言われたら俺はもう生きていけない!!! イデアの奴、仕事は終わらせておいたので有休使いますねって、そりゃあ、あいつは、ここん所、妻が亡くなって気持ちを紛らわせる為に仕事ばっかりしてきたから、俺は長期休暇してみたらどうだと言ってみたことがあったけど。まさか、このタイミングで使われるなんて思いもしなかった」


 オビリオンはエルフ軍との合道軍事演習予定地を確認していた。


「この平原なら大丈夫だな。後で魔王様の判子を貰わないとな」


 オビリオンは魔王様に書類の判子を押してもらう為に魔王様の自室に向かった。


「オビリオン! これ以上書類持ってくるなよ!!!」


「仕事なのでダメです。さぁ、こちらにも判を押してくださいね」


 オビリオンは山積みの書類が置かれている机の上に新たな書類を積んだ。


「やめてくれぇよぉ!!! これ以上椅子に座り続けてたら俺の尻は2つに割れちまうじゃないか」


「尻は元々2つに割れていますよ。横に割れたら4つになりますね」


「怖いこと言うなよ。あーあ。リリに会いたいなぁー。仕事ばっかりで楽しくないなぁー」


「それなら、口を動かすよりも手を動かしてください」


「イデアは長期休暇なんだろう。それならさ、俺も長期休暇ってことで、この仕事はオビリオンに任せ」


 オビリオンは魔王を威嚇した。


「グルゥルルル。これ以上、残業ダメ絶対」


「おい、ちょっと、牙を見せてくるなよ。なぁ、落ち着けって」


 魔王はすぐさま椅子から立ち上がりオビリオンから距離をとった。


「魔王様には、実の子供達におじさんだーれって言われた親の気持ちわかりますか」


 オビリオンはゆっくりと魔王様との距離を詰めていた。


「いや、あの時は色々大変だっただろ、エルフとの国交を結びそのおかげで忙しかったもんな」


「で、俺は子供達におじさんと呼ばれ、父親だと言うのに僕達のお父さんはいないよ。と言われた俺の気持ちわかりますか。妻から何度も家に帰ってきて欲しいと催促され、戻りたいのに仕事が多すぎて帰れず。妻には離婚まで申し込まれそうになったあの事件! お忘れではないですよね」


「あれは、お前の奥さんやばかったよな。あの迫力、あの時のフェルトは俺よりも強かったと思うぜ」


「妻は神をも殺すフェンリルの血族ですからね。強くて同然ですよ」


「さぁ、茶番は終わりにして仕事してください」


「お前が脅かしてきたんだろ」


「そうでもしないと仕事がしてくれないと思いましたので」


「分かったよぉ。それで、持ってきた書類は何なの」


「ゴウライがエルフとの合同軍事演習がしたいみたいでして、その申請書ですね」


「カラティー平原、あそこはだだっ広いから魔法戦にはもってこいだな」


「はい。エルフの第1魔法大隊は選りすぐりの精鋭達が集まった大隊。彼等との交流する事により我が軍の魔法戦における戦略の幅が広がる可能性がありますからね」


 すると、コンコンコンとドアの叩く音が部屋に響いた。


「はい」


「魔王様、リリアーナです。書類に判を押してもらいたくて」


 魔王はリリアーナに気付くと慌ててドアを開けた。


「リリ! さぁ!入ってくれ!」


「失礼します。魔王様、この書類に判を押して欲しいです」


 リリアーナは一枚の紙を魔王に渡した。


「いいよ! リリの為なら何個でも判子押しちゃう!」


「魔王様、きちんと書類を確認してください」


「リリが持って来たものだよ。確認なんてしなくても大丈夫だよ」


「ダメですってば! 俺にその書類見せてください」


「やだー」


 魔王はオビリオンを華麗に交わすと紙に判子を押してリリアーナに返した。


「さぁ、リリ今のうちに早く逃げて。おっかない黒狼こくろうは俺に任せて」


「魔王様、ありがとうございます」


 リリアーナは魔王の頬にキスをして部屋から退出した。


「ふぇへへへへへへ。リリにキスしてもらっちゃった」


「もう! 何の申請書がわからなかったじゃないですか!!!」


「いいじゃん、いいじゃん、リリが少しずつ仕事を学んでくれている証なんだし」


「あのですね。魔王様はリリアーナを甘やかし過ぎなんですよ。そのせいでこっちは苦労しているのですよ!」


「ふっふーん。リリが俺にキス〜。今度は口付けがしたいな〜」


「はぁー、ダメだこりゃ」


 オビリオンは浮かれている魔王に呆れ果てていたのであった。

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