第191話 獣はメイド達に感謝する 中編

 メルトの次には部屋に入ってきたのは魔人のメイドのサファイでした。


 彼女の瞳はこの世界で希少な瞳、深青眼しんじょうがんと言う生きる物全ての感情を色で見ることができ、その瞳のせいで家族に売られ、彼女は色々な貴族を転々として私の所に来ました。


「失礼します。ご主人様、サファイは何を話せばよろしいのですか?」


「凪さんと話した事を全て話してください」


「えーと、凪様は私の瞳を見ても怖がらずに、他のメイド達と同じように接してくれました」


「サファイはその時何を話しましたか?」


「凪様は砂糖の代わりに渡すハチミツの美味しい食べ方を教えてくださりました」


「ハチミツ? 砂糖の代わりにハチミツをってことになったのですか?」


「はい。そしたら、砂糖を用意してくれた人の分大きな瓶に入ったハチミツをくれるみたいで、チェルーシルさんが飛び跳ねながら大喜びしていました。あんなに喜ぶチェルーシルさん見たことがなかったです」


「砂糖とハチミツを交換ですか」


「私は凪様は私達と話をしている時、凪様の感情は淡い黄色をしていて、心の底から楽しんでおられました」


「そうでしたか、サファイにも金貨一枚あげちゃいましょう。あと、雑巾掛け中のメルトにも金貨一枚渡してあげてください」


「金貨をもらえるなんて、私は話をしただけなのに。本当に貰ってもよろしいのですか」


「えぇ、凪さんを楽しませてくれたお礼です」


「ありがとうございます。メルトにも渡しておきます」


 サファイは私の部屋から出て行く時に一礼してから部屋から出ました。次は、小人族のメイドのターレが入ってきました。


 ターレは臆病者ですが、彼女は人の気配を感知することに長けていて、獣人であるエーデルとメルトよりも優れているのです。なので、彼女の基本的な仕事は屋敷の侵入者を発見すらことであり、彼女のおかげで、私の寝室に知らない女が入ってくる事が無くなったので、彼女を採用して本当に良かったと思いましたよ。


 本当にあれは恐怖しました。不死身であり魔王様と同等の力を持つ私ですら、怖すぎて固まってしまいましたからね。


「失礼しますぅ。イデア様ぁ、凪様はぁイデア様の事これっぽっちも好きじゃないって言ってましたよぉ」


「ターレ、今すぐにメルトと一緒に雑巾掛けしてきなさい」


「私はぁ肉体労働は嫌いですぅ」


「今すぐに雑巾掛けしてきなさい!!!」


 私はターレを部屋から追い出し雑巾掛けに行かせました。


 くぅう。これっぽっちも好きじゃない。ターレには、私が帰ってくる間に窓拭き、雑巾掛け全てやってもらいましょう。


「次! メテラールト! 入ってください!」


 メテラールトは鮫の魚人です。彼女のギザギザした歯はすぐに生え変わるみたいですよ。鮫というのはザラザラした肌を持っているため、彼女の制服は彼女の肌に合わせた特注品。普通の制服だと彼女の肌によって7日保たずにボロボロになってしまうのですよね。彼女に何着破かれたことか。


「あの、イデア様、ターレがまた何か気に触るような事を言ったのですか?」


「凪さんは私の事をこれっぽっちも好きじゃないと言われたのですよぉぉおおおおおお!!!!」


 私は悲しみのあまり机を叩き、叫びました。


「あの話ですか。確か、ターレが凪様の好きな男性を聞き出そうとした時でした。それで、私達はイデア様は結婚相手に適していますと勧めていたのですが、その時に凪様はイデア様の事を異性としてこれっぽっちも好きじゃないと言ったのです」


「くはぁっ!」


 私の心に鋭い言葉が突き刺さり不死身の私でも耐え切れないほどの苦しみを感じました。


「クティス。私はもう、生きていけません。後のことは頼みますね」


 私は窓を開けてそこから飛び降りようとしました。


「ガルガルグルガ!(そんな事しても死なないからやめなよ!)」


「クティス、凪さんにこれっぽっちも好きじゃないと言われたら死にたくならないのですか」


「イデア様! まだ、この話には続きがありまして、今は友達として仲良くなりたいと仰っていました」


「友達。私は凪さんと恋人になりそして、夫婦となり一生を共にしたいのです」


「凪様から聞きました。イデア様と戦い殺されかけたと、そんな事があったのにすぐに結婚して欲しいと言われてたら、私でも拒絶します。そもそも、友達なんてなりたくないです」


「グハァッ!!!!」


「ですが、凪様はイデア様と敵対していたのに、イデア様との関係を友達として築きたいと仰っているのですよ。ですから、イデア様はまだ凪様との恋仲になれる可能性があるのです。友達から恋人になり、夫婦となる方達もこの世には沢山いらっしゃいます。ですから! 窓から飛び降りようとしないでください!」


「それも、そうですね。敵対し熱い戦いを繰り広げ、上半身裸だった私の腕の中で安心して眠ってしまうのですから、まだ、絶望するのは早いですよね。それに、凪さんはえ! が! お! で、私に挨拶もしてくれて、私の事を好きって事ですよね!!!」


「なんで、そうなるの」


 メテラールトはイデアの言葉についていけずにいた。


「ガルグルガ?(僕前向きすぎない?)」


「慰めてもらえたので貴方にも金貨一枚あげましょう」


「ありがとうございます」


 メテラールトは困惑しながら部屋を後にした。


 最後はチェルーシルですね。彼女は凪さんは私の事をイケメンと言っていたと言っていましたよね? なのに、これっぽっちも好きじゃない。凪さんは私の心を弄ぶのが上手なのですね!!!


 私は凪さんと友達になれたなら、次は恋人になる為に突き進むのみ! イケメンパワーで凪さんのハートをゲットして見せます!!! たとえ、これっぽっちも好きじゃないと言われても私は折れませんよ!!!


 あ! ハチミツの件を聞かなきゃいけませんね。もし、ハチミツと砂糖だけを交換しようとしているなら、対等な交換とはいえません。もし、凪さんに価値を知らせずに交換させようとしていたとしたら、その時は彼女を殺さないといけなくなってしまいますね。

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