第3話 兄との別れ

二年と数日が経ちカイトに魔法の兆候が見え始めた。剣に力を込めた時魔力の流れを感じるらしい。

父さんと母さんもそれが見えると言っていたが僕にはなんのことかわからなかった。


それからは早かったほんの一ヶ月ほどで兄さんの魔法は形となってきていた。まだこれからだと言うのにカイトの魔法は以上だった。

驚きでみんな空いた口が塞がらないほどカイト自身も驚いていたくらいだ。。何と兄さんは剣を振り回すと空間ごと対象物を

切ることができるいう。はっきり言って最強だ。今は一、二発能力を使ったら限界が来て寝込んでしまうかもっと魔力の量が

増え能力が精錬されれば間違いなく兄さんの魔法は敵無しと呼べるだろう。


父さんはため息を吐き肩を落とした後こう口にした。


「父さん....カイトと戦えないじゃん」


「別に戦う必要ないと思うけど」


母さんがそう言う。


「いやいや魔法は使えば使うほど精錬されてくし実践形式の方が魔法の理解が深まったりとか

結構意味あるの」


訴えかけるように言う父さん。


確かに父さんの言っていることは一理ある。使い方の知らない魔法なんて

無いのと同じだ。


でも父さんさすがに落ち込みすぎではないかと思ったが

きっとカイトの練習相手になるのが楽しみだったんだろう。

でも能力の相性は最悪で戦いにすらならない。

だって空間ごと切れるんだ父さんの身体強化も貫通して真っ二つに出来てしまうのだから。


すると肩を落としたままの父さんにカイトが近づき口を開いた。


「じゃあ父さん今まで以上に剣の使い方教えてくれよ。

俺強くなりたいからさ」


歯を出しにっこり笑うカイト。


父さんは顔を上げて目を輝かやかせ始めた。


まっ父さんはテンション高い時の方が面白いかしなぁ。よし!


「父さん僕にも教えて」


父さんの太もも辺りを叩きながら僕もそう言った。


「シン...カイト....くっ....あぁ!良いぜ父さんが全部教えてやるぞぉ!」


目をうるうるさせながらそう叫ぶ父さんはとても嬉しそうな声だった。

僕と兄さんは笑顔で「おー!」と拳を上げ声を上げた。


「オルト、嬉しいのはわかるけどちょっとキモいわよ」


母さんがいつもの明るい口調でそう言った。


「あぁキモくても良いさ!」


そう言うと僕とカイトの方に近づき腕を僕達の肩に回し抱き寄せてきた。


「俺を頼ってくれてるんだ....こんな嬉しい事はない。俺の息子は世界一だ!」 


満面の笑みでそう言った。


あぁ本当にこの家族は暖かい。僕は心からそう思う。


「父さん汗臭い」


急に辛辣になるカイト。


「そうか!そうか!」


いつもならグハァとか言って父さんは肩を落とすのに今は笑いでそれを吹き飛ばした。

それほど嬉しいみたいだ。


ほんと親バカだなぁ。僕はそう思い苦笑を漏らした。


「そんだカイト魔法が使えるようになったし来年から学校行かなきゃね....」


母さんが真面目な口調でそう言った。


「ほんとに行かなきゃダメ.....?」


カイトが眉を落とし口角を下げ寂しそうな声でそう言った。


母さんが話すには魔法が使えるようになった翌年から魔法学校に入学しないといけないらしい。

理由はまぁ危険だからだろう。自分の能力を理解してないと思わぬ事故が起きたりするからな。

カイトが寂しそうなのは学校がこの街より離れた王都にあるためこの家にいられないのだ。

学校の中になる寮で過ごすことになるらしい。


「カイト、別にずっと離れ離れになるわけじゃないぜ。毎日は会えないってだけだ」


父さんがフォローを入れる。


「毎日一緒にいたいんだけど.....」


本音が漏れて恥ずかしくなったのかカイトは不意に目を背けた。


「そりゃ父さんだってずっと一緒にいたいさ。でもカイトが魔法学校に行って

強くなって帰ってきたら父さんはもちろん母さんも腰抜かして驚いちゃうかもなぁ。

カイトはそれ見たくないか」


ニヤリ顔でカイトにそう言う父さん。


こういう時父さん上手いこと言うんだよなぁ。僕はそう思った。

だってカイト「父さんなんてボコボコにしてやる」とものすごくやる気になってるんだから




年が明けカイトが魔法学校に向かう前日となり家族内でプチパーティーを開いた。

カイトの大好きな肉料理がたくさん並んだ。この世界の肉は牛に近い味をしていて僕も結構好きだ。

前世で食べた牛肉はどれも腐りかけててあまり美味しくなかった覚えしかない。


プチパーティーは結構な盛り上がりでカイトもずっとニコニコしていた。


夜寝る時思ったことがある。カイトと別れるのが少し寂しいと思ったことだ。

前世でも卒業式など誰かと別れるタイミングというのはあったが寂しいとは思ったことがない。

この世界に来てから初めて感じる感情ばかりで毎日がすごく楽しい。



「.....シン....シン起きて」


「うぅ〜母さん?」


目を擦りながら僕は目を覚ました。どうやら母さんに起こされたみたいだ。


「カイト行っちゃうよ」


その言葉を聞いた瞬間眠気が吹き飛んだ。


「ほんと....!」


「ほらおいで」


僕は母さんについて行き玄関にたどり着いた。


「おはようシン」


笑顔でそう言うカイト。


僕も「おはよう」と返した。


僕はカイトの着ている服に目がいった。魔法学校の制服だろうか。新品なので当然だがシワひとつなく綺麗だ。

紺色がメインの色合いでえりの部分が白色そして前につばのある帽子を被っていた。

制服は大き目のを買ったのかカイトにはまだ大きくぶかぶかだ。


「兄さんかっこいい」


結構厨二くすぐる軍服のようなデザインで不覚にも羨ましく思った。


「ほんとか!」


カイトも嬉しそうに笑った。


外からカタカタという音が聞こえてきた。


「来たみたいね」


母さんはそう言い玄関のドアを開けた。


そこには馬車があった。それも安っぽい感じではなく

貴族が乗りそうなデザインの。簡単に言えば人力車の人の部分が馬になり

乗る席にはドアがつき車のような構造になっている。


「お迎えに上がりました」


そう言い一人の男が出てきた。白髪に白い髭見た目からしてひつじって感じだ。


「母さん、父さん行ってくる」


「おう頑張れよ」と父さん


「寂しかったらすぐ帰っておいでね」と母さん


「寂しくねぇし」


カイトがそうツッコミを入れた。多分見栄を張ってるんだろうけど。


「兄さん....」


正直僕はすごく寂しい。カイトにはずっと遊んでもらってたから。

すごく出来た兄さんだ。


僕がしょぼりとした顔をしているとカイトが近づいてきた。


「シンそんな顔すんな。兄ちゃんお前に会いにすぐ帰ってきてやる」


僕の頭をポンと叩き満面の笑みでそう言った。

そう言ってもらえて僕はすごく嬉しかった。


「うん!待ってるよ兄さん」


「じゃあ行ってきます」


僕らに満面の笑みをみせ大きく手を振るカイト


『行ってらっしゃい』


僕達は声を合わせそう言いカイトに手を振った。


カイトは振り返り馬車の方に歩いた。


「もういいのですか。寂しいならもう少し家族と

話して来ても良いのですよ」


白い髭のおじさんがそう言う。


カイトは帽子を深く被り顔を隠していた。


「うるせぇよ。弟に泣いてる姿なんて見せられねぇだろ」


「分かりました。それでは行きましょう」


兄さんを乗せた馬車は僕達とは反対向きに進んで行った。


僕は遠のいていく馬車に向かって大きく手を振った。完全に見えなくなるまで


兄さんは馬車の中でしばらくの間静かに泣いたらしいが

僕らがそれを知ることはなかった。


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読んでいただきありがとうございます。


今日はこれはこれがラストです。


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