第2話 あたしに乗り換えてよ

 俺の部屋に那月なつきさんを入れた。そういえば、一番親交があった小学生の時でも部屋に上げたことはなかったな…。


「ここが涼君の部屋か~」


那月さんは部屋を見渡しながら言った後、本棚に向かう。俺は漫画以外読まないので、本棚は漫画専用だ。


……? 彼女は漫画の表紙を観てから元の場所に戻すのを繰り返している。何がしたいんだ?


「あ、やっと見つけた」

那月さんはある漫画を手に取った。


何を見つけたのかサッパリわからん…。


「涼君が好きなタイプって、こういう子?」


見せてきた漫画の表紙に女キャラが描かれている。そこを観ていたのか。


「違いますけど…」

その女キャラを気に入る要素は“胸の大きさ”だけだな。


「そうなんだ。涼君を知るヒントになると思ったんだけど…」

残念そうな顔をしながら、彼女は漫画を元の場所に戻した。


那月さんなりに、疎遠の溝を埋めようとしてるんだな。


「じゃあ、涼君が気になる子について色々教えて。そこ座って良い?」

彼女はベッドのふちを指差す。


「良いですよ」


俺が先に座れば、那月さんも座りやすいだろ。


「ありがと」

彼女はすぐ隣に座る。


何を訊いてくるんだろう? と考えた矢先、那月さんは俺をベッドに押し倒して覆いかぶさる。


「急に何するんです!?」


「あたしに乗り換えてよ」


「えっ?」

いきなり何を言い出すんだ?


「さっき、気になる子とは一言も話したことないって言ったよね? その状態から仲良くなるのって、すごく大変でしょ?」


「そう…ですね」

那月さんに言われなくてもわかっているよ…。


「あたしは涼君の幼馴染だし家もすぐそこだから、気軽に会えるよね」


「はい…」


那月さんは俺の手を握り、自分の胸に押し付けてきた。なんて柔らかさだ…。


「男の子が話したことない女の子に興味を持つのって、性格かだと思うんだけど、その子のおっぱいはあたしより大きいの?」


「…わかりません」

制服の上からじゃ、正確な大きさはわかるはずがない。


「触れない大きいおっぱいより、小さくても触れるおっぱいのほうが魅力的じゃない?」


那月さんのおっぱいは絶対小さくないぞ…。って、おっぱいの件はひとまず置いとこう。ちょっと気を抜くと、おっぱいのことばかり考えちゃうからだ。


彼女の言う通り、気軽に会えるかどうかは重要な点だ。直接会う以上に親睦を深める方法はないからな。笹森さんの家が俺の家からすごく遠い可能性だってある。


笹森さんの事は諦めて、那月さんに乗り換えてしまおうか…?



 「那月! 何してるの!?」

姉ちゃんが部屋の扉を開けて入って来た。


那月さんは俺に覆いかぶさるのを止め、ベッドのふちに座り直す。


涼華りょうか。ずいぶんタイミング良く出て来たね?」


それは俺も思ったことだ。部屋を覗き見してたのか?


「この間の話が気になってたのよ。今度のは涼介ってわけ?」


ターゲットって何だ? 気になるが訊ける状況じゃない。


「そうだけど?」


「涼介を変な道に引き込まないで!」


「変な道って大袈裟だなぁ…。年頃ならみんな通る道だよ」


なにがなんだかサッパリだ。完全に置いてけぼりだぞ…。


「涼君、今日は帰るね。後であたしが持った漫画を見ておいて♪」


謎の言葉を言い残し、那月さんは部屋から出て行った。



 「姉ちゃん。さっき言ってた“ターゲット”って何だよ?」

2人きりになったから、ようやく訊くことができる。


「正直あんまり言いたくないんだよね。教育に悪いから…」


「教育って、俺高2だぞ? 子供扱いするなって!」


「…それもそうね。私も座って良い?」

姉ちゃんはベッドのふちを観る。


「良いよ」


姉ちゃんは俺の隣に座り、真相を話す…。

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