第4話
つい先ほどまでそんな夢を見ていたのだ。
だが、誰かの声に呼ばれて目を開けてみれば目の前にあったのは異形の姿だった。
血を塗りたくったような色の肌に三白眼の目、口元からはみ出すのはあきらかに歯ではなく牙と称すべきものだ。横幅、体の厚みともにあり、背丈も一丈近くある。その相手が歩きまわることが前提となっているせいか妙に部屋の天井が高かった。
「目覚めたか」
異形、どこからどう見ても鬼と呼ぶべき化物はつまらなそうな声でたずねる。だが、ここは、というメルショルのつぶやきを聞きつけたとたん顔つきが変わった。
「地獄に決まっておろう」
とからかわれたかのように笑う。
それが意外に思えた。日の本で信じられる神は偽りの神、邪悪な悪魔(デモニオ)。ましてや鬼などさらに邪悪な存在のはずなのではないか、と司祭(パードレ)の教えが脳裏を過ぎったのだ。
「酒呑童子の一党が現世(うつしよ)に遁走してからは道行の見張りも厳しくなってな、今じゃあ鬼が十王の下知以外で人の世をうろつくことはできぬ」
相手の言葉を理解するのに一拍の間が必要だった。
酒呑童子は地獄からの逃亡者だった、と目の前の鬼はそのせいで人の世に鬼が姿を現さなくなったと明かしたのだ。そうであれば、鬼がいる場所は現在、地獄に限られるということになる。
ただ、それを噛み砕いたのはあくまで頭の片隅の冷静な部分で、つむりの大部分はいまだに霧のなかにある。なにがどうなっている――疑問の声が尽きることなく頭蓋を埋め尽くす。頭は熱いというのに四肢やさらにその先の指先は冷たい。
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