第8話 あらゆる出会いは神からのメッセージ

 残念ながら、大学生ホストの場合は、ホストをしていた前歴が暴露した時点で、企業の就職内定を取り消される。

 まあ、有名ホストでもない限り、滅多に暴露するということはないが。


 ホストクラブも国会に取り上げた今、このままでは、社会的信用を失うというので、売掛金を緩くするという経営にチェンジしようとしている。

 このままでは、恐怖の青伝票ー女性客が帰るときにホストから渡される青で囲んだ伝票で、五十万円以上の金額が提示されているだけで、日付も内訳も一切明示されていない。

 もちろん、二十歳前後の女性客が支払うことのできる金額ではない。 

 しかし、払えないとホストが自腹を切らねばならない。

 そこで女性客は、支払うために風俗や立ちんぼに身を堕としてしまう。

 もちろんこのことは、女性客本人だけの問題ではなくて、家族まで巻き込むことになる。


 このままでは、女性客は青伝立ちんぼ直行になってしまう。

 またホストクラブに通っている女性客も「あなた、立ちんぼ志願なの?」と言われそうである。

 悪質ホストによっては、偽の婚約誓約書を女性客に渡すことで、女性客をつなぎとめようとしたり、なんと中絶同意書まで用意している残酷ホストもいるくらいである。新しく生まれてくる命にまで、関わってくる。

 なんとも恐ろしい結末となる。


 僕は元アウトロー牧師から、礼拝の終わりに

「私たちは神の子である。教会を一歩でたら、この世に派遣されていくが、神の子としての使命を果たすべきである」と言われている。

 僕は思わず手を組んで祈った。

「天にまします我らの父よ。

 今日は尚香ちゃんとその知り合い竹内さんにめぐり合わせて下さったことを、感謝します。

 この出会いが、神の栄光を現すようになりますように」

 

 尚香が感心したように言った。

「そういえば、私、清竹君に久しぶりに会ったとき、なんだか神がかったようなものを感じたの。だから、思わず私は心に封印しておいた悩みを、打ち明けてしまったの」

 イエスキリストはいつも社会的弱者の味方だった。

 僕も、イエスキリストに似た者になりつつあるのだろうか?

 竹内が言った。

「そういえば僕も、初対面ながら君になら、世間体など飾り立てることもなく、素の自分を出せそうな気がした。

 心をさらけ出すことができそうで、なんだかほっとした気分だった」

 僕は「あらゆる出会いはすべて神様からのメッセージ」という言葉を思い出した。


 僕は思わず、尚香の先輩の言葉を思い出した。

「ありがとう。不倫の顛末とはこんなものよ。人生の先輩として、私みたいにならないようにね。

 不倫って真夏のように燃え上がるときは、風鈴のリンという涼しい音色をたてるけど、秋になると必要がなくなり、押し入れのなかにしまわれると錆び始め、冬になるといつの間にか錆びついて、もう必要がなくなってしまう。

 わたしたちがまさにそう。辛い顛末よ」

 不倫もホストも、元はといえば男性の甘言がことの発端である。

 愛もどきを求めて、女性は迷路に陥ったあげくの果て、不幸な結末となる。

 金銭で愛をつなぎとめようと思えば思うほど、借金は膨らんでいく。


 まあ、僕の場合はイエスキリストという救い主がいるから、これからの人生、なにがあっても生きていける。

 現在は牧師である父も、アウトロー時代は殺されかかったが、今こうやって神を述べ伝え、麻薬などに苦しんでいる青少年とその家族を救うことができるのも、イエスキリストのおかげである。

 まあ、父の場合は家族がクリスチャンで、日曜日は教会に通い、幼児洗礼を受けた。

 父は強さにあこがれ、暴走族からアウトローになったが、これも神が父の自由をお許しになったのだろう。

 神は人を自分の命令通りに動くロボットとしてつくられたのではなく、自由意志をもった人間として創造された。

「すべてのことは、イエスキリストに働いて益となる」(聖書)


 竹内が口を開いた。

「コロナ渦に見舞われたおかげで、予定が狂い、こんな筈じゃあなかったと困惑している人は多い。まあ、僕もその一人だけどね。

 LGBTは僕には理解できないが、これからの世の中、どうなっていくのかな」

 尚香は答えるように言った。

「まあ、私はレズだけは理解できるような気がする。

 レズというのは、性被害にあった人が慰め合うという部分があるからね。

 しかし、男性の甘言にだけはひっかからないつもりよ。

 そのためには、イエスキリストとやらを信じる必要がありそうね」


 僕は思わず、手を組んで祈った。

「天にまします我らの父よ。どうか尚香さんと竹内さんが、神を信じ神と共に生きることができますように。

 試練もありますが、神と共に生きることが、正解の道だと確信しています。

 神様は人にそれぞれ、ちょうどいい重さの重荷を背負わせて下さいます。

 僕は神なしでは、生きていくことができません。

 これからも、僕をお守り下さい。アーメン」

 竹内は言った。

「君は、なんだか神がかっているよ。君になら、心の悩みを打ち明けられそう」

 尚香はだまって、頷いていた。

「私も、キリスト教会に行ってみようかな。来週の十時半だったら、開いてるわ。

 本格的なゴスペルも聞きたいしね」

 僕は嬉しかった。

「待ってるよ。神様、感謝します。ハレルヤ」

 竹内は手を組みながらアーメンと言った。


 やはり僕は、神から遣わされこの世に派遣された者だったのだ。

 そしてこの出会いも、神からのメッセージだと確信した。

 これから、僕は神を伝道する運命にあるが、神様、どうか僕をお守り下さい。


 ハレルヤ


(完結)



 


 


 

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不倫の正体は錆びた風鈴 すどう零 @kisamatuma

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