第21話 重ね合わせ

 僕は次の日、一人で街中に出歩いていた。今までと変わらないそのお昼時の町並みも、革命軍のメンバーとの今までの出来事を考えると少し暗く見えた。僕は河川敷の公園へ着くと、スケイルズと語りあったあの時のベンチを懐かしく感じ、じっと眺めた。すると、頭の中でカルマが話しかけてきた。

「何をしに来たんだ貴様は?ここであの時に誓いをしてしまった事を悔やんでいるのか?」

「そんな訳無いだろ。昨日頑張るって決意したんだ、そんなコロコロ変わるかよ。」何故だか分からないが、カルマと話すときは自分と話しているようで敬語が出ない。


 そうしてると、一人の高校の制服を着た女子高生がやってきた。僕は、その制服を見てすぐに気付いた。

「あの人、近くのオズガルド高校の人だな。あの青いラインの入った制服は間違いなくそうだ、僕の中学校の同級生の友達もそこに何人か行ってるんだよね。(あれ...それにしても、今は15時前だから六限の授業中じゃないのか?)」公園の錆びて茶色くなった時計を見ながらそう気にしていると、カルマが突然こんな事を口にした。

「あの娘、これから川で溺れて自害するつもりだぞ。」

「はっ!?何いってんだよ突然、そんな訳...あっ」僕はつい一人でびっくりしてしまった。すると、彼女が僕の事に気がついた。少し気まずい空気になったが、すぐに彼女は目線をそらし、川の方へスタスタと歩いていった。彼女の目元には酷い隈があり、かなり疲れているように見えた。


 「ねぇカルマ...何でそんな事が分かるんだ?」僕は小声で尋ねた。カルマは得意げに話しだした。

「貴様も見えたろう?あの娘の目の隈を。あの娘は、相当の苦しみを背負っている。我は貴様のような無能と違って、人の感情をある程度感じる事が出来るのだ。あの娘、きっとそこの川に入水する気だぞ?」そうしていると、彼女はカルマの予言通り、川にズブズブと足を入れて進んでいった。ここの川は水深が川の真ん中で3メートルとかなり深く、それに加えて流れも急なので、昔から泳ぐのは危険だと言われていた。そのまま彼女は川の流れによって下流へと流され始めた。


 「どうする?このままあの娘が溺れる様を見届けるか...?まぁそれも宵の一興だがな、ウハハ!!」カルマはそう言って笑った。絶対にそんな事はしない、必ず助けるとその時は思っていたのだが、僕の足は凍りついたように固まって動かなかった。

「(くっそ...なんで動かないんだよ...こんな時に怯えちゃ駄目だろ...!!)」そう思った刹那、僕の頭の中に凪の事が浮かんだ。ここであの女の子を助けなかったら、僕は凪に二度と顔向け出来ない。そんなのは、嫌だ...!そう思った瞬間、僕の足の氷は一気に溶け、僕は川に勢いよく飛び込んだ。そのまま僕は泳げないにも関わらず、溺れている彼女まで必死に泳ぎ、少し流されながらも僕は彼女を抱えて岸に戻った。


 「ゲホッゲホッ!はぁ...はぁ...君!なんで自殺なんかしようと思ったんだよ...」僕はびしょびしょになってむせながらも、彼女に質問した。彼女は、薄く涙目になりながら僕に答えた。

「だって...だって...もう、私に生きる必要なんてないんです...誰にも愛されない私なんて、一人で孤独に死んだほうがマシよ!!」その時、僕の心の声の関所が破れた。僕は自身の思いの全てを彼女に吐いた。

「生きる必要がないとか、誰にも愛されないとか...そんなの、君が死んでいい動機になんてなるわけないじゃないか!!一人で悩んで死のうとするな!君には家族がいて、学びに行ける学校があって...そうやって自分の未来を掴むチャンスが今、ここにあるじゃないか!それを裏切るなよ。一人で死んだほうがマシ?何言ってるんだよ、そんな訳ないだろ!!誰でもいい、誰かに相談するんだ。僕でも良い。」すると、彼女は僕の圧に押されたのか、少し沈黙が続いた。すると彼女は、僕に思っている悩みを打ち明けてくれた。


 「...私、学校での居場所がなくて...いつもクラスメイトにいじめられてるんです。先生に言っても、何も言わずにスルーしていじめを無視するんです。もうどうしようもなくて...ほんとにごめんなさい。」その時、僕は彼女が学校でいじめられている事を痛烈に知った。左の手首には今までに自殺を図ったのか、リストカットの切り傷のあざが何本か見えて、涙を拭う手には針で複数回刺されたような傷もあって、持っていたカバンには、「さっさと死んで社会貢献しなよw」、「消えろ、ブス女。学校に来んな」などの悪口が書かれた紙がぐしゃぐしゃになって何個も入っていた。


「なんであなたが謝るんですか?あなたは何も悪くないじゃないですか。悪いのは、あなたをいじめる生徒と、それを見て見ぬ振りをしている先生と他の生徒ですよ。」僕は彼女にそう言って慰めた。その時、僕はカルマに心のなかで尋ねた。

「カルマ、があれば、お前の力を開放できるんだよね?」

「左様、貴様の決意が強ければ強い程、我の力は強く顕わになる。」すると、僕の右腕が少し大きくなった。

「...お聞きしたいんですが、お名前はなんですか?」

「き...桐山春奈きりやまはるなです...」

「春奈さん。僕に、あなたへのいじめを解決させてくれませんか?」

「えっ...か、解決...?」一瞬戸惑っていたが、春奈さんはすぐに答えた。

「...分かりました、お願いしても、いいですか?」

「任して下さい。少し時間をいただければ、すぐにそのイジメっ子達と先生を倒します。春奈さんはいつもの様に、明日は学校に行って下さい。」すると、春奈さんの表情が少し曇った。おそらく、今までのいじめられた時の記憶がフラッシュバックしたのだろう。

「...大丈夫です。もしいじめられても、ずっと前を向いていて下さい。例えどんな事があっても、あなたが死ぬ必要はないんです。」

「分かりました...あ、ありがとうございます。」すると、春奈さんは僕に深々と頭を下げて礼を言った。


 そのまま僕は夕日に照らされる中、少しずつ暗くなる裏町へと帰っていった。彼女は僕を見送った後、カバンを持って家に帰った。彼女の表情には、最初にはなかったが微かにあった。

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