第20話 自分の『業《カルマ》』

 村に帰ってきた僕は、住んでいる少しボロい宿で夜空を見ていた。空には薄い雲があって、小さな星が上手く見えなかった。


 「どうした、そんなに落ち込む事か?初めて会ったんだから、あいつの本当の姿が鰐の少し特殊なタイプの半人族だって分からなくて当然だろ。まぁ、あそこまで浮かれてた奴は初めてだったがな。」鼻で笑ったレオンは僕に言った。僕は、はるか遠くまで広がる暗い空を眺めながらレオンに尋ねた。

「...あの二人はあんなに強かった。敵を見る見るうちに倒していく姿はまさに狩りだったよ。でも...僕はなんにも出来なかった。強くもない、足手まといな僕はこの組織で何の役割が出来るんだろう...。」すると、隣に歩いてきたレオンは言った。

「そんなの知らねぇよ。お前が自分の意思で組織にやってきたんだろ?役割なんてのは、そいつが出来る最大限の活躍ってだけだ。元々決まってるもんじゃねぇよ。...まぁそう気を落とすなよ。高校生のお前は、まだまだこれからだ。」そう言って、家を出ていった。


 正直、革命軍の仕事をして気付いた事がある。僕はこの組織に必要ない奴だという事だ。組織の連中は皆、何かしらの能力や個性があって、それを最大限に発揮して活躍している。革命軍としての『役割』があるんだ。だけど、僕はそれを見ているだけの足手まといの傍観者である事を除いて、なんの『役割』も果たせていない。いや、出来ることがないんだ。


 そう考えていると、ふとポケットにクロコさんからもらった拳銃があることに気付いた。元の普通の高校生として生きていた世界からは見放され、この組織でも何も出来ない僕がもし今、この拳銃で自殺をしたら、一体何人の人が悲しむのだろうか...凪は泣いてくれるかな?スケイルズとかレオンとかも悲しんでくれるのかな?一人の高校生の心の中は、今まで気付くことがなかった残酷な弱肉強食の世界での劣等感という、抑えようもない大嵐で荒らされ、気持ちが荒んでいた。


 そして拳銃を手に持った僕は、銃の安全装置をゆっくりと外した。そして、自分のこめかみに銃口を当ててトリガーを引こうとした。その瞬間、銃を持っていた右腕が勝手に動いて、銃を床へ勢いよく投げたのだ。

「はっ...!?(なっ...今、僕が投げたのか?一体、どうなって...)」そう思って銃を拾おうとすると、突然誰かの声がした。

「ウハハハ、哀れな小僧よ。自分で自らの命を絶とうとは、なんと笑止!われも流石に呆れしか出ん...」

「うわっ!だ...誰だ!」その声に驚いてすぐに落ちていた銃を構えると、また右腕が勝手に動き出して、今度は僕の事を殴ってきた。

「痛っ!!え...えぇ?」

「何と、たわけ者が!我が貴様の右腕なんかになっていなければ、即刻我が貴様を殺しているというのに...」

「は...右腕?ま、まさか...お前、僕の右腕なのか!?」

「左様、本来は既に死んでいる筈なのだがな。我の分裂した魂が入ったこの腕が貴様に付けられたからか、お主とこうして心の中で会話ができるのだ。」状況が上手く飲み込めない僕をよそに、右腕の魂は僕に語りかけてきた。


 「にしても貴様、我の右腕を使っておきながら何というひ弱な男なのだ!我の力があれば、あの連中なんぞ比にならん程の強さだというのに。何故か貴様の弱い心が我の力に抗うせいでコントロールが出来ん...」

「ど...どういう事?」

「詰まる所、貴様の心が強いを持たぬ限り、我の力を発揮することは出来んのだ。」その言葉に僕は続けて尋ねた。

「そのって、一体どういうものなんだ?」

「簡単な事、強い感情を感じることだ。殺意、怒り、悲しみ、憎しみ、愛、喜び、希望...そんな感情を貴様が抱いたその時が、我の力の開放につながるのだ。」


 その時、僕は思い出した。僕には、誰にも負けないところが一つある。それは、目標に向かって、決意を抱いて必死に抗う事だ。僕は最近の出来事で忘れていた、凪が僕にいつも教えてくれた事...決意を持って巨大なものに抗う事の重要さを!


 その時、僕の右腕が急に木の幹のように大きくなった。そして右腕の魂も僕に言った。

「そうだ、その高ぶる強い感情だ。貴様、なかなか単純な男だな?まぁ、我としても好都合。無感情よりは幾分マシだ。」

「ありがとう、お前の言葉で気づいたよ、僕の『役割』を。」そうして僕は右腕の魂に尋ねた。


 「ところで、お前の名前ってなんなんだ?右腕の魂...とかじゃ呼びづらいよ。」

「ふむ、ならば貴様に教えてやろう。我の名は『カルマ』だ。覚えておけ、咲田煉瓦。」こうして僕は夜の中、1つの個性と役割を手に入れた。

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