第19話 残虐なマスク美人

 街灯や建物の明かりで夜なのに明るいA地区の都会の街をトラックで走っていた僕らは、上階議員が取引をする高層ビルを目指していた。レオンが運転をするトラックの中で、僕はひしひしと緊張を感じていた。あの時はノリで言ったが、正直マフィアとの戦いを経験0の魔力もろくに使えない普通の高校生が出来る訳ない。そうして一人でモジモジしていると、隣に座っていたダイルが僕の事を見て言った。

「...お前、足だけは引っ張んなよ。今回のマフィアはかなり手練れの奴が多い。俺と姉さんなら平気だが、お前はただの高校生だろ?死にたくなかった、すぐに逃げるんだ。いいな?」それに僕は反論出来なかった。ダイルが言っていた事は正しい。僕はこの二人にすればただの足手まといだから...


 そうしてビルに着いた僕らは、地下の駐車場に行った。そこにはターゲットの議員の牛飼金吉うしかいかねきち議員とマフィアのボスがいて、軍から横流しした武器の裏取引をしていた。横に居たダイルは入り口近くの柱に待機し、僕とクロコさんは正面の壁に隠れた。隠れながら取引を見て、クロコさんは敵を分析し始めた。

「敵は十数人、しかもボス以外全員が最新式のライフルまで持ってる。...煉瓦君、あなた、ナイフしか持ってないわよね?これ渡しておくね、私からの御守り。」そう言って腰に付けていた拳銃を僕に渡した。本物の銃を渡されて、僕はついびっくりしてしまった。

「えっ!?で、でも...僕に渡したら、銃を持ってないクロコさんはどうするんですか?相手はライフルを持ってるんですよ?」そう尋ねると、クロコさんは笑顔で答えた。

「任せて...私、銃よりも接近戦の方が好きなのよ。」


 そう言ったクロコさんは、付けていたマスクを外しながらマフィア達に歩いていった。口が耳の近くまで裂けて、大きな牙があるその恐ろしい顔を見た時、僕は背筋を超え、全身がゾワッと凍る感覚を覚えた。接近に気付いた一人のマフィアの構成員が彼女に銃を向けた。その時、クロコさんは一瞬の隙に構成員の後ろに移動していた。

「はっ...?」

「っふ、そんなんで私を殺せると思ってるのかしら。全く、何も入ってない頭なのね。」そう言うと、クロコさんはその構成員の頭を素手で跳ね飛ばした。その出来事に、議員とマフィア、僕も驚いた。


 「な、何だお前...ってその顔、まさかあの『嚙姉弟』の!?」そう言ったマフィアのボスは、構成員に発砲の指示をした。その指示を聞いた構成員が一斉に銃を撃とうとした瞬間、なんとクロコさんは手から魔力生成した水を大量に出した。その水に、マフィアの構成員は流されていった。

 普通魔力を使える人の大半は魔力で身体能力をサポートする。出来ても魔力の属性に則する小さな物体を作り出せる程度だが、クロコさんが出した水はまるで大雨の時の濁流のようで、駐車場は膝下まで水が浸っていた。


 「ち...奴はどこだ!早く殺せ!もしこの取引が他の奴らにバレたら...!」

「『俺の立場が危うい』ですか?そんなのは知らないわ...あなたは今、ここで死ぬべきなのよ。」一瞬で背後を取ったクロコさんは、議員の首元にカブりついた。そして議員の首の動脈ごと、首の肉を抉り取った。

「う〜ん、美味しくないわね。でも安心して、不味くても私のおもちゃとして活用してあげるから。」そう言うクロコさんの腕や足には、まるで鰐のような鱗と爪がついていた。

「何だお前...こ、この化け物がぁー!!」そう言って構成員はライフルを乱射した。が、鱗に覆われた腕や足には全くダメージが入っていなかった。そうしてみるみるうちに構成員の数が一人、また一人と減っていく様子を見て、ボスは急いで逃げた。

「(う...何なんだコイツは、強すぎる。化け物か...!?に、逃げないと...!)」そうして入り口に走っていくと、入り口の柱で待機していたダイルが横から勢いよく飛び出した。

「うおりゃー!くらいやがれ、クソ野郎がー!」そうして倒れたボスの喉と腹に正確に長く伸びた爪を突き刺した。


 そうして現場にいたマフィアと議員の全員は、赤く染まった水の中で死んで浮かんでいた。その中で死体を貪っていたクロコさんは、当に怪物のようだった。

「ハハハッ!!クズを殺すのはやっぱり楽しいわ!生き残りは居ないかなぁ...?もっともっと、殺してやりたいわ!」すると、ダイルがクロコさんに言った。

「姉さん、もう居ないよ!ホラ、早くこの薬飲んでマスクつけて。」そう言ってダイルが渡した青い薬を飲んだら、クロコさんの腕や足の鱗や爪がすぅっと消えていった。

「あら...ごめんねダイル。またお姉ちゃん、何かしちゃったかしら?」

「大丈夫だよ、あいつはあそこで隠れてるから。さ、早く終わったんだしもう帰ろうよ。」

「それもそうね。ほら煉瓦君、一緒に帰るよ。」そう言ってクロコさんは僕に手を差し出した。その手は、死んだ彼らの血で赤く染まっていた。

「あ...は、はい...ありがとうございます。」そうしてこの取引を阻止することができた。だが、僕は二人の強さを前に何も出来なかった。

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