第18話 嚙《バイト》姉弟

 「ただいま〜。ふぅ、疲れたぜ...」買い物に行っていたスケイルズが帰ってきた。

「随分と遅かったねぇ、何かトラブルでもあったのかい?」蠅はスケイルズに笑みを浮かべながら言った。

「別に、何でもないさ。」そうスケイルズは言った。彼の手には一枚の紙があったが、僕は特に気にも止めてなかった。


 「...あっ!な、なぁなぁ、今日って26日だよな?」何かを思い出し、青ざめていたレオンが僕に聞いてきた。そうだと言うと、レオンは更に青ざめた顔をした。

「マジかよ...アイツ等が帰ってくる日じゃねぇか...悪い、ちょっと顔変えてくる。」そう言うと、レオンは手に男性の服を持って更衣室に入った。僕は、誰が来るのか何も聞かされていなかった。


 そうして十数分後、部屋から出てきたレオンはボサボサヘアの普通の男性に変身していた。あまりの警戒具合が流石に気になった僕は、レオンに尋ねてみた。

「あの、なんで姿を変える必要があるんですか?誰か来るって言ってましたけど...」

「ん?あぁ、お前はまだ聞かされてないんだっけか、『バイト姉弟』の事。」

「ば...嚙姉弟?」そう困惑している丁度その時、入り口のドアが強く蹴破られた。すると、そこには僕と同じ位の男と、少し年上ぐらいのマスクを付けた美人な女性がいた。


 「もうダイルったら、駄目でしょ?そんな事したら皆が困るじゃない。」

「そ、そうだね姉さん、もうやらないよ...」その二人の会話はただの仲のいい姉弟のもののようだった。

「おいおい、蹴破って入ってくんなよ。扉修理すんの大変なんだぞ?」スケイルズがそう言うと、ダイルと言う男は声を荒らげて怒った。

「なんだと!?俺に指図すんな!俺に指図していいのは姉さんだけだぞ!」


 「あぁそうかい。...おい煉瓦、この二人が『嚙姉弟』のクロコとダイルだ。最近は出張していていなかったんだが、今日帰ってきたらしい。覚えておけよ、一応仲間だ。かなりの問題児姉弟だがな。」そうスケイルズが言うと、クロコという女性が僕に歩いてきて言った。

「あら、新しい子?いいわね、組織が随分とにぎやかになってきたじゃないの。それに、弟と同じ位の子かしら。坊や、いくつ?」

「あ...さ...咲田煉瓦って言います。えっと、16歳です。」

「あら、やっぱり私の弟と同い年!それじゃ、私の事はおねぇさんって言ってもいいわよ?」

「えっ、い、いいんですか?あ...ありがとうございます///」僕は照れながら言った。後ろにいたダイルは、自分の姉さんに知らない男が優しくされているのをみて、とても悔しそうにしていた。


 「ちょーっと待った!煉瓦、落ち着け。気持ちは分かるぞ...俺も男だからな。だがコイツは本当に止めたほうが良い。この女はマジもんの悪魔だぞ。」レオンが僕の肩を掴んで言った。僕は、レオンを見て真剣に言った。

「レオンさん、よ〜く考えて下さい。仲間にあの名画のモナ・リザのような美人が居て、しかも僕に優しいんですよ。これはもう男...いや、『漢』として行くしかないでしょ!!」

「アホかお前は。あのマスクの裏側に何があるのか知らねぇだろ...いい加減目を覚ませ、あいつはヤバいんだ!」レオンは両手で僕の体を揺さぶって言った。

「そうだよ煉瓦君、この人は俗に言う、『マスク美人』って奴なんだ。本当の素顔を知ったら最後、その考えも消え失せるよ。」蠅も僕にそう言った。


 「た、例え素顔が少し醜くても、僕はその人の性格が良ければそれでいいんです!」僕は念を押して言った。するとスケイルズは、クスクス笑って言った。

「そうかいそうかい、それなら一回、コイツと一緒に行動してみるか?丁度今日の夜、世界政府の議会の上階議員とマフィアとの裏取引があるんだ。その取引に行ってきて欲しいんだが、そこの姉弟と一緒にやるか?」

「勿論、やらせてもらいますよ。良いところ見せてアピールしちゃいますからね!」僕は自信満々で答えた。聞いていたクロコさんも僕との行動に承諾した。

「うふふ!嬉しいわ、いつも単独か弟としか行ってないからにぎやかね!」

「ね、姉さん!こんなへっぽこな奴いらないでしょ!お...俺の方が何だって出来るから!」ダイルはクロコさんに必死に訴えていた。


 そうして僕らが出発した後、蠅はスケイルズに言った。

「本当に大丈夫かな、煉瓦君。あの人はこの組織でもかなりイカれた部類の半人族ですよ?」

「まぁ平気だろ。弟のダイルもいるから、あの『残虐非道の口裂け女』も暴走はしないって。」

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