第40話 過去の因縁

 「こりゃマズイ...に、逃げろ、お前ら!!」ケープさんが仲間たちそう言うと、革命軍のメンバーは一斉に踵を返して裏町の方へと走り出した。だが僕とミケは、先のヴォイドとの戦いで力を使い果たし、体がピクリとも動かなかった。それを見たキールは、ふらふらと千鳥足気味な感じで歩み寄ってきた。

「まずは君たちからか〜?なんか残念だよ〜...いくら相手と言っても、君らのような未来ある若者を、そう嬉々として殺したくはないからね〜...まぁこれも、社会の運命ってやつかな?」そう言うと、キールは刀に手を触れた。その瞬間、周りの空気が暑くなるような強烈な熱気を纏う魔力をその身で感じた。

「っ...(ま、まずい、殺される...!)」僕は肌身で感じた魔力の圧と気迫でそう思った。だがその瞬間、キールは背後からする冷気を帯びた刺すような殺気に気がついた。


 「ん?誰だお前...その手に持っている長い刀を見るに...とりあえずは剣士だな?」

「左様...久しいな、キール。吾はお主に会いたかったぞ。」キールの後ろには、長刀を抜いて、今まで以上の鋭い殺気を放つ一角さんが仁王立ちで立っていた。

「キール・インフェルディア、お主との再戦を心に決めて早三十年。長く、そして面白い事の連続する道のりであった...そして今、吾はお主にこうして会えた。再び戦う、因縁の相手としてな!」

「う〜んと...悪い、お前本当に誰?どこかであったような気がするんだが〜...ふぁ〜...ごめん、全く覚えてないや。」キールはそう言いながら大きくあくびをした。それを聞いて一角さんは静かに笑った。

「ふふっ、そうか、覚えてないか?ならば今、吾がお主の記憶に残る最後の男になってやろうじゃないか。一生忘れない、屈辱の敗北者としてな!」一角さんはそう言うと、持っていた長刀を構えた。すると、キールという男はそれを見て、急に雰囲気を変えて言った。


 「お前今、俺に刀を構えたな?その時点でお前は、俺との戦いに自分の命を賭けたって言う事だが、それでもいいのか?半端な覚悟じゃ、火傷するぜ?」そう言うと、キールは腰に差していた刀をスーッと抜いた。その刃の鋼は、炎をそのまま刀身にしたかのような、燃える真紅の赤い色をしていた。蜃気楼でボヤけるそれを見た一角さんは、いつもの細目をカッと見開いて言った。

「その刀、『妖刀:朱雀』。お主の魔力をその刃にまとめ、消えない不死の炎に変えて繰り出せるという『妖魔宝刀』の一つ。その刀だ...吾が三十年探したお主の刀は!!」そう言うと、一角さんは地面を勢いよく蹴って、一気にキールに近づいていった。そして突進しながら片腕で長身の刀の横薙ぎをしてみせた。その横薙ぎを、キールはいとも容易くいなした。


 「そんなもんか?随分と俺に博識じゃないか。そんなファンボーイのお前には、この技をプレゼントしてやるよ...」そう言うと、キールは自分の膨大な魔力を刀身に込めた。そして、白く光る剣先を一角さんに向けて言い放った。

「吠えろ、『龍之息吹ドラゴ・ブレス』。」その瞬間、紅く燃える剣の先からは火山の大噴火のような量の炎が、とぐろを巻く龍のように渦巻きながら一角さんに向かっていった。すると一角さんは、義手の短刀を蛇のように小刻みに動かし、その炎の攻撃の間をスルスルと避けた。その攻防を、僕は目をパチパチさせながら、息を呑んで見ていた。

「ほぉ、今のを凌ぐか!ハハハッ...面白い奴だなお前!コイツはちゃんと覚えておかなくちゃ。」キールはヘラヘラとしながら話していた。

「そんな減らず口を叩いている暇は、もうないんじゃないか?ふん!」その間にも、一角さんは今の一瞬で攻撃を避けながらキールの懐まで迫っていた。そして長い刀を縦に素早く切り上げた。近くにいた僕に風圧が届くぐらいの素早い攻撃は、ヘラヘラとしていたキールに微かな切り傷を付けた。


 「おぉ...!!(早いな...外見的に老いぼれに見えたが、この男...普通に強いな...)」

「この三十年で、吾は腕を上げたのだ。お主の対策も既に考えている...これがその対策だ!はぁ!!」そう言うと、一角さんは義手の刀をキールの持っていた緋刀の根本に引っ掛け、そのまま腕を返し、遠くへ刀を飛ばしたのだ。流石に想定外だったのか、キールの表情にもついに焦りが出始めた。

「うおっ!マジか!?(これは、ちょっと面倒だな...)」一角さんが考えてきた対策というのは、実はこの刀を飛ばす行動だったのだ。

「(ふふっ、お主は刀がない時は魔力を殆ど使わないと聞いた。その理由は単純明快...あまりにも多すぎる自身の魔力をコントロールするためには、あの『妖刀:朱雀』の緻密で正確な魔力制御がなければ成立し得ないからだ。そしてその刀がなくなった今...魔力も使えなくなったお主は丸腰の人間も同然!お主にとって、刀を使えない事は、普通の剣士よりも致命的なのだ!)」一角さんは彼の弱点や対策を、今までの三十年間、こうしてずっと考えていたのだ。


 「勝てる!うおぉ〜!!」そうして片手で持っていた長刀をキールの首元に刺そうとした瞬間、一角さんの頭の中に1つの疑問がよぎった。

「(何か...何かおかしい。この男にとって、あの刀は命同然の代物。なのに何故、こうもあっさり取れたんだ...?ただ想定外だっただけなのか...?それとも...)」その疑問を、一角さんは首をふって振り切った。

「(いや、今はこの男を倒すことが最優先だ。これでトドメを...!)ッ!?」そう思った時、一角さんはキールが不敵な笑みを浮かべている事に気がついた。


「っ!?なっ...?」

「ヘヘッ!今お前、『勝ち』を確信したな?いいか...勝利を相手の前で直感的に感じ、それを鵜呑みにする奴はな、その戦いで必ず負けるんだ。なぜなら...そいつは既に、相手の策にズッポリとハマっているからだ!」そう言うキールは、既に手元に自身の大量の魔力を溜めていたのだ。

「(っ!し、しまった...!例えどれだけ魔力のコントロールが出来なくても、この短い距離ならどうであれ当たる...まさか、これを見越して刀をわざと取らせたのか!?)」一角はそう思考を巡らせて悟ったのだが、キールの魔力の溜めはその時には既に完了していた。

「喰らえ、『焔龍之咆哮フレドラ・キャノン』!!」

「くっ...!!」

次の瞬間、一角さんの目の前の視界は真っ白になった。


ドガーン...!!

「い...一角さ〜ん!!」僕の叫び声が、焼け野原になったB地区の住宅街に空々と響く...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る