第34話 空を切る運命の弾丸《デスティニー・バレット》

 一方、煉瓦達がアントワネットと対峙していた同時期、『嚙姉弟』のクロコとダイルはA地区の街に出歩いていた。警察組織と絶賛バチバチの争いをしているのにも関わらず、姉のクロコがあまりにも無防備だったので、ダイルはしびれを切らし、彼女に忠告をした。

「姉さん、流石に『SPEC』に対しての警戒はしておいた方が良いんじゃないかな?もっとこう...周囲を見渡すとか...腰に拳銃を忍ばせるとかさ?」そう言うと、クロコは余裕そうに弟に言った。

「大丈夫よダイル。もし今『SPEC彼ら』が来たら、その時は私が、命を賭けてあなたを守るわ。」

「ね、姉さん///あはは...そ、それなら平気かな。」ダイルは彼女の事を、この世の誰よりも愛しているが故に、彼女の言う事には逆らえなかった。そうして二人が街を闊歩している中、遠くの駐車場には2つのレンズの反射光が二人を覗いていた。


 「...ん?魔力の量が多い人間が二人。一人は、半人族かな...?」彼らから数百メートル離れた立体駐車場の3階から、『SPEC』の一人、ローズが魔力を可視化出来る双眼鏡を使って覗いていた。ここずっと張り込みを続けていた彼女にとって、初めての獲物であった。

「ココ数年で見た半人族の中だったら、一位二位を争う位強そうだね。...ここで仕留める。出てきな、『運命の弾丸デスティニー・バレット』彼女はそう言うと、手元に重厚なスナイパーライフルを瞬時に出現させた。ローズは自身の能力で、過去に自分が触ったことのある銃を瞬時に生み出せて、かつその銃の状態、パーツやアタッチメント、込める弾の種類までをお好みでカスタムすることが出来るのだ。かつて遠くの地域にあった軍事国家の戦闘特殊部隊に幼少期から所属していた事により、銃や戦いの知識を十二分に得ていたローズにとって、まさに鬼に金棒の能力だった。


 「さて、まずはあの男の子の方をヤろうかな〜?(人間の女性の方は特に魔力の反応もなかったし、武装しているようにも見えない。あれだった別になんとかなるし...後ででいいかな)...フゥ〜...。...っ!」そう言って、ローズはダイルに銃の標準を揃え、息を止め、銃の引き金を引いた。


バァアン...!!!


 ローズの狙撃銃は、周囲に雷鳴のようなけたたましい重低音を響かせた。撃った弾の薬莢は白煙をあげながら、「カラン...」と音を立てて下に落ちた。


 「っ!?(この音、スナイパーライフル!)ダイル、危ない!」音を聞いたクロコは瞬時に敵からの攻撃を察知し、発生させた水を自分にかけ、装甲のように固い鱗を発生させてダイルに覆いかぶさった。その瞬間、遠くから撃たれた弾丸は彼女の体に当たり、金属音のような硬い音と火花を散らして弾かれた。

「な、何だいきなり、近くで大きな音がしたぞ!!」周りにいた人たちは、聞いたこともない轟音に大パニックになり、一斉に周囲へ蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。クロコはその逃げる人にぶつかり、蹴られながらも、必死に弟のダイルの事を守り続けていた。

「っ!?マジ...!?(このままじゃ陰に逃げられる、足を取らないと...!)」予想外の出来事に驚きながらも、ローズは瞬時にマガジンの中の二発の弾丸を別の物に変えて、すかさず銃のコッキングレバーを引いた。


「ね、姉さん!?な、何が起きてるの!?」ダイルは何が起きているのか分かっていなかった。するとクロコは激しい剣幕でダイルに言った。

「ダイル、今すぐ建物の陰に逃げて!!敵の攻撃よ!!」その声の後、続けてさっき同じような銃声が二回聞こえ、今度は二発の弾丸が飛んできた。が、その弾丸はさっきとは異なり、固い鱗を貫通してクロコの腕と足を撃ち抜いたのだ。

「いっ!?(な、あの一瞬で銃弾がさっきの弾から徹甲弾に変わってる!?このスナイパー、確実に何らかの能力者...きっと『SPEC』の仕業だわ...)」傷の焦熱感をくしくも味わいつつ、クロコは撃ち抜かれた腕と足を引きずりながらもダイルと共に建物の陰に逃げ込んだ。


 「いやいや、流石に驚いた!あの女性も半人族だったか!まさかこの双眼鏡で探知出来ないなんて...これはかなりの曲者の予感...。やだ、ゾクゾクしちゃうわ!」スコープで二人の事を見ていたローズは、今までにない、初の出来事に驚いていた。しかし彼女は元軍人である。数々の死線をくぐり抜けてきた彼女は、想定外の事が起きた時程、交戦意欲と魔力が増すのだ。双眼鏡を持つ手には、自然と力が入ってしまう。

「半人族の姉弟...間違いなく『D.o.G』のバイト姉弟だね。これは嬉しい...!あの姉弟も、組織の中で中々の実力者だと聞くからねぇ。さぁ、イレギュラーな彼らも、戦いにおける先手必勝のメカニズムに持ち込めるかしら...?」ローズはニヤニヤと笑いながら駐車場を出た。そして携帯でマップを出して、冷静に彼らの行動先を考えた。

「(あの建物の裏には大通りがあるのか。あの怪我なら、いくら半人族でも下手には動けないはず。そして相手である私の位置も把握できていない。それなら...大通りのところにある建築中のビルに行って様子見が安牌かしらね。)」そうして止めていた大型バイクに乗り込み、エンジンをフルで吹かし、夕方になって吹き始めたそよ風を切って目的地のビルへと走り出した。


 「姉さん、だ、大丈夫?」腕と足からかなりの量の出血をしている姉の事を心配するダイルに、クロコは額に汗を滲ませながらも何とか笑顔で答えてみせた。

「だ、大丈夫よ。あなたは...平気?どこか、怪我してない?」その問いに、ダイルは首を振って答えた。

「うん、姉さんが僕を守ってくれたからね。...それにしても、あの狙撃手のやつ、俺の姉さんにこんな事しやがって...絶対に許せない、今すぐ殺してやる!!」そう言ってダイルは裏の大通りに行こうとした。

「待って!相手は能力者だわ。それに加えて凄腕のスナイパー、迂闊に広いところへ行くのは、的になりに行くのと同義...どう考えても危険だわ。」クロコはダイルに訴え、必死に彼をセーブした。


「でも、あいつを殺さないと...姉さんがこんなにされて、弟である僕が平気でいられる訳ないでしょ!」ダイルは焦った表情をしてクロコに訴えかけた。自分の姉を心配し、反撃をしようとするダイルの気持ちに気付いたクロコは、息を荒くしながらダイルに尋ねた。

「ハァ...ハァ...ダイル、こういう絶体絶命の時に使うって昔約束した、今持ってる?」

「えっ?も、勿論持ってるけど...ま、まさか姉さん、今ここで使うの!?」ダイルがそう言って驚くと、クロコは真剣な眼差しでダイルに言った。

「うん、今使うしか、さっきの狙撃手を倒すには、もうこれしか有効な方法ないの!遠距離タイプの相手には短期決戦が一番有効的なのよ。大丈夫、お姉ちゃんが言うんだもの、100%保証するわ。」


 「...ね、姉さんがそこまで言うなら...」と言うと、ダイルはカバンから白いパックを取り出し、中にある赤い錠剤を取り出した。その錠剤は『RED赤い_INSTINCT本能』と言われる薬で、半人族の動物要素の能力を極限まで底上げし、身体能力を飛躍的に向上させる効果があるのだが、副作用で感情や理性がコントロールできなくなり、体にもかなりの負担がかかっててしまうのだ。そのため、現在は使用する半人族は殆どおらず、所持する事そもそもが既に法律で禁止されている、命がけの危険な違法薬物なのだ。


 「...う、ねぇ、やっぱり他の方法はないの?これを使ったら、もう今のような生活はできなくなっちゃうんだよ?や...やっぱり怖いよ...」劇薬を使う事に怯えている弟の顔を見て、クロコは姉の優しい口調で励ました。

「...ふふ、大丈夫よダイル。そんなに暗い顔をしないで?きっとすぐに終わるわ。任せて。どんな時でも、お姉ちゃんはあなたと一緒だから。」その言葉に、ダイルは息を呑んだ。

「う...うん、それじゃ、行くよ?」そう言って二人は、一錠の赤い錠剤を飲んだ。


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