第11話 「元」法司官の男
ある雨の日の夜、法司官事務所の近くにある呑み屋「かっちゃん屋」のカウンター席には、一人の眼鏡をかけた女性が座っていた。するとそこに、びしょ濡れになった男がジャケットを脱ぎながら申し訳無さそうに歩いてきた。
「ガベル先輩、すいません。少し遅れました...」ガベルというその女性は、メニューを見ながらその男に言った。
「別に大したことないわ、ロウ君。さ、早く頼んじゃいましょ。大将、シードルとハイボール、チーズちくわ4本と...1つ、もつ煮お願い。」
彼ら二人は付近の法司官事務所に所属している法司官で、ガベルが6年目、ロウが2年目の先輩後輩関係だった。出された、具がたっぷりのもつ煮を食べて温まっていたロウが、先に会話を切り出した。
「...それにしても、あの事件は大変でしたね。まさか法律を逆手に、我々法司官が被告人を逃したのは流石にビビりましたよ。そういえば、ガベル先輩ってあの時の弁護士の人の事知ってるんすよね?誰なんですかあの人?」ガベルは、グラスに入った度数5%のシードルを飲んで言った。彼女はお酒を飲むと、顔が林檎のように赤くなってしまう。
「プハァ...っ、あの人はスケイルズ。私の4つ上の代の先輩で、フラッシュ先輩とかつてバディを組んでいた人よ。あの二人は世界の法司官の中でもトップレベルの実力者で、法司官内では『最強で最悪のタッグ』なんて言われてたわ。」ロウは、もつ煮をあつそうに食べながら言った。
「パクッ...アッツ!そ、そんなにすごい人だったんすか。でもそんな人が、なんで今は法司官を辞めて半人族の革命軍に加担してるんすか?」
「詳しいことは私も知らないわ。ただ...今なら少し、分かるかもしれない。」そう言って、グラスに残っていたシードルをクイッと飲み干した。
その頃、事務所では一人、フラッシュが席に座って調べものをしていた。机には革命軍『D.o.G』について調べた資料が山のように置いてあった。
「...ふぅ、疲れるなぁ。...この作業も、このコーヒーを淹れるのも、昔はあいつが全部やってくれたのにな...」そう言ってマグカップのコーヒーを飲み、休むまもなく作業を再開した。
「なんかつまんねぇな...お前の顔変えて遊んでいい?」退屈に痺れを切らしているレオンが、唐突に僕に言ってきた。
「いいわけ無いでしょう、それぐらい。暇つぶしに人の顔を変えて遊ぶとか、勘弁してくださいよ。」当たり前の回答に、レオンはまたも退屈そうな顔をした。今この地下室の広間にいるのは僕とレオン、ヒキの三人しか居ない。まぁヒキに関してはノーカウントでもいいが...そんな中で、僕は1つの疑問をレオンに言った。
「...そういえば。スケイルズって元は法司官だったんですよね。」
「まぁ...どうやらそうらしいな。」
「じゃあなんでこの革命軍に入ったんだろうな?」レオンはそれに言った。
「なんでってそりゃ、あいつがこの組織の創設者だし当たり前だろ。...まぁ、きっとよっぽどの事があったんだろうな。ここの村にいる連中は皆、あいつが施設から脱走させたんだし、俺らも皆あいつに出会ってここに入ったんだぜ?」確かに、ただ復讐するだけなら僕のように無鉄砲で実行するのが手っ取り早いのに、こんなに数を揃えているのも変か...?
そう思っていると、丁度スケイルズが外から帰ってきた。
「ただいま、ちょっとテディの闇病院に行ってたんで遅れちまった。いや〜やっぱマフィアとの戦いは疲れるぜ。」後ろには、誰かの返り血を浴びて黒くなった一角がブツブツ言いながら歩いてきた。
「...弱い、もっと強いと思っていたが...」なんというか、今語りかけるのはやめたほうが良さそうだというのを直感で感じた。
その後、シャワーを浴びてスッキリし、広間で本を読んでいたスケイルズに僕は尋ねてみた。
「あの...1つ質問していいですか?」彼は読んでいた本を閉じ、眼鏡を外して言った。
「どうした?そんなに改まって...まさか、恋愛の相談事か?」
「いや、そんなの微塵もないです。ただ1つ...なんでスケイルズさんは法司官を辞めてこの組織を作ったんですか?前の紹介の時に聞いてなくって...」すると、彼は一瞬ピクッと眉を動かした。そしてしばらくした後、彼は口を開いた。
「...まぁ、そりゃ流石に気になるよな。後で何か言われそうだし、今言っておくか。」そう言って、彼は自分の過去を事細かに語り始めた。明るく儚い、そんな彼の過去を...
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