第12話 『最強で最悪のタッグ』

 〜今から9年前、俺が18歳になった年だ。当時、俺は世界最難関とも言われる資格試験『法司官資格試験』に点数トップで合格。その後の法司官教育専門学校も首席で難なく卒業した。そうして一年目の新人として新たに活動していたある日、1人の先輩の法司官にこんな事を言われた。

「君、なんかいつも一人過ぎて見てて寂しいから、誰かとバディを組んでみるのはどうかな?きっとこの生活も面白くなるよ!」

「バディですか?まぁ...良いですけど...」正直そんなものはいらないと思っていたが、先輩の提案で俺は半ば強制的にバディを組むことになった。


 「...ん?はぁ...おい、お前。何だよこの物品証拠書類、ここの説明とかこの内容とか、全く書かれてないじゃねぇかよ。」俺は隣で居眠りをしていた奴を、文字通り叩き起こして言った。そいつは閉じていた目をこすり、大きくあくびをしながら俺に言った。

「んぇ?いや、書いてあんじゃんか。そんなに細かく書かなくたっていいじゃんかよ〜。ふぁ〜...ただの事件とは関係ない事かもなんだぜ、相棒?」この男の名前はフラッシュ。資格試験、専門学校をともにビリで滑り込みセーフするという異次元の神業(笑)をした男だ。その実績にそぐわず、コイツは資料の整理や捜査などをいつも押し付けてきては、俺に礼もなしにぐぅぐぅと寝るような奴だった。...なんでこんなお荷物と俺をバディにしたんだよ、あの先輩...。


 すると、そこへ例の憎き先輩がやってきた。

「やぁやぁ!元気にやってるかい二人とも〜。おや?スケイルズ君、なんか元気なさそうだね〜、何か体調でも悪いのかい?アハハハー!」正直朝からうるさくてイラッときたが、『この人は一応先輩なんだ、年功序列の色濃い職場なので仕方ないか。』そう心の中で自分をなだめた。

「おはようございます。まぁこいつに比べれば元気ないかもしれないですがね。」

「そうなのか相棒?なんで元気ねぇんだ?寝不足か?」...コイツ、本当に法司官として使える人間なのか?俺はそいつの頭と過去の不正を静かに疑った。


 「元気だね〜。それじゃあ早速なんだけど、昨日D地区の漁港で銃撃事件が起こったらしいんだ。君たち二人で現場調査に行ってきてくれないか?君らならなんとかなるっしょ?」先輩がそう言うと、フラッシュは机から勢いよく飛び起きた。

「マジっすか!?よっしゃ〜、腕がなるぜ!行くぞ相棒!時間と犯人と現場は、一秒も待ってくれないんだー!!」そう言うと、やつは目にも止まらないスピードで外に走っていった。

「ちょ、待てよお前!資料とか調査キットとか、少しは持っていけって!」俺も荷物を整理した後、急いであいつを追った。


 そうしてなんとか漁港についた時、俺はもうヘトヘトだった。だが呑気なアホはその分体力があるからか、全然ピンピンしていた。

「よ〜し!ここが現場か?早速現場調査にかかるぞ、相棒!」

「はぁ...はぁ...マジでコイツ、人の形した化け物だろ...」そうして現場の調査を順調に進めていると、そこへ不審な一人の男が歩いてきた。

「あっ、すいませんね。今事件現場の調査をしてるんですけど...」フラッシュがそう言うが、その男は不敵な笑みを浮かべて止まらない。俺はその男に違和感を感じた。

「...ん?何か変だぞそいつ。もしかしたらヤッてる奴かもしれねぇ、気を付けろ。」俺がそう言うと、その男はポケットから拳銃を抜いて突然撃ってきた。その銃弾を、フラッシュは全て紙一重で躱す。

「うおっ!危ねぇなこの野郎!!」フラッシュは怒り、その男に瞬きをする一瞬で近づき、音速を超える速度の蹴りを男の腹に入れた。その男はくの字に曲がりながら、奥のパイプ管の山に埋もれた。このフラッシュは『逆光一閃フラッシュバック』と言う光の能力を扱える。その能力があまりにも使い勝手がいいため、コイツはなんとか法司官になれたんだ。ただ、使う本人が馬鹿過ぎるっていう欠点があるが...


 男をふっとばしたら、今度は奥から何人もの銃火器を持った男たちがズラズラと現れた。

「ケケケッ!運がないなお前ら。この『シー・シャークス』に関わった奴らは、どんな奴でも死ぬって決まってるんだよ!」と、奴らの親玉っぽいやつが俺等に言ってきた。フラッシュは首を傾げてこっちに聞いてきた。

「『シー・シャークス』?相棒、聞いたことあるか?」

「いや、聞いたこともないな。...もしかしてスポーツクラブの方ですか?まさか...漁業組合の方とか?」

「いや、どっからどう見てもマフィアだろうが!なんだお前ら、頭おかしいだろ...」どうやらこのマフィアの人たちが、この事件の犯人らしい。それならやるべき事は、犯人という超重要証拠の確保だ。


 「おん?銃持ってんじゃん。もしかして、ここで俺等をやる気か、お前?」しかしフラッシュは持っていた銃を見て本能で戦闘態勢に入った。このままじゃこの現場が荒らされると思った俺は、奴らが戦う前に胸元から緑の革表紙の本を出した。

「頼むそのままでいてくれ、『法使者の規律ライアー・ルール』。」この能力は自分と範囲内にいる相手に既存のルール、もしくは新たに作ったルールを共有する能力。それに違反したときはその罰したルールに応じて、自身があらかじめ決めた罰を与えることができるのだ。


 刑法471条、「事件現場調査に本件と関係のない人の工作、調査の妨害は出来ない」に違反したマフィアたちは、その場に銃を落として静止した。

「な、何だよこれ!う...動けない...!」奴らは勿論、何が起こったのか分かっていなかった。

「ふぅ、警備隊に連絡するか。フラッシュ、ちょっと待ってろ...」そうして携帯を出している時、不意に親玉が能力の範囲から出てしまった。

「っ?...な、何か知らねぇが、とりあえずお前は先に殺してやる!」そう言って落としたライフルを拾って構えた。が、それを見逃さなかったフラッシュが光速で走り出した。

「させるかよ!『閃光キック』!」その蹴りを食らった親玉は後ろの荷物に吹っ飛び、そのままめり込んで気絶していた。


 ...何故か自分の能力の技に名前を付けていたが、結果的にあいつに助けられてしまった。気に食わないが、俺はお礼を言った。

「お...おぉ、ありがとなフラッシュ。おかげで助かったよ。」

「何いってんだよ相棒、俺らはバディじゃねえか。助け合うのは当たり前だぜ?」

そうして終わったこの事件は、俺らのバディが『最強で最悪のタッグ』として有名になる出来事の一つになった...



 

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