第6話 判決の回避
「その判決、ちょっと待った!」
僕に向けられた銃口は、その声に反応するように天井を指していた。
「...ん?どうした、何故少年を撃たない!?もう判決は出たぞ。」と官長は困惑したように言った。僕も、突然の出来事に理解が追いついていなかった。
「その判決とやら、どうやら予め決まっていたそうじゃないですか。炭野金融から賄賂をもらって死刑にしようとしていたんでしょ?予め決まっていた判決は正式に裁判をしていないと同義、それは正しい判決とは言いませんよ。」と秤さんは資料を手に取りながら話していた。それはいつもの秤さんの時とは違う、「誰か」のようだった。
「な、何を言ってるのやら...秤弁護士、失言が過ぎるぞ!」と官長は明らかに焦った口調で言った。
「そうか、こう言うのは得策じゃないよな。まぁいいや、そっちがその気ならこっちも強行突破だ!」と秤さんが言うと、執行官が僕の手錠を外して僕を担ぎ上げた。まさか、このままここから逃げる気なのか!?
「なっ!そうはさせないわ!」さっきの法司官の眼鏡の女性がそう言うと、手に木槌を構えた。その他の法司官も阻止しようと魔法を構えたが、それを見た秤さんは「おいおい、知らないのか後輩法司官たち。裁判所内で魔法、及び能力を使えるのは弁護士と執行官だけって法律で決まってるんだぜ。」と言って一冊の本を取り出した。その瞬間、魔法を構えていた法司官全員が動けなくなってしまった。木槌を構えていた女性も動けなくなっていた。
「っ!?こ...この能力は、まさか...」女性がそう言っていると秤さんは振り返って「出口のトラックに乗り込むぞ、急げ!」と言いダッシュで逃げた。
出口には手配していたのか、一台のトラックがエンジンをつけたまま止まっていて、僕はトラックの荷台に投げ込まれるように入れられた。全員が乗ったのを確認したら、トラックは一目散に逃げていった。その後法司官と警備隊が来る頃には跡形もなくなっていった。すると法司官長が警備隊の人に頼み事をしていた。
「被告人が逃げた、逃走防止用の装置を起動してくれ。」それを見る眼鏡の女性の手には、賄賂の件についての資料があった。
トラックの荷台にいるときも、何が起こったのか分からなかった。何故か頭がボーッとする。執行官の人達は皆顔や体に毛がびっしりと生えているような感じでぼんやりと見えた。すると秤さんは「...ん?どうした、せっかく脱走できたんだ。もっと喜べよ。」と言って手を出した。
「あ...ありがとうござい...」と手を出そうとした瞬間、体から力が一気に抜けて倒れてしまった。右腕の感覚がない、意識が遠のいていく。遠くで秤さんが話しているのが聞こえる。
「おい...しっかりしろ!今から......に行くから頑張れ!がん..れ...!」そのまま僕は意識を失った。トラックは土埃を上げて、「裏町」の中を走っていく...
一方、法司官の事務所では異様な空気が流れていた。逃走事件が起こった事もあるのだが、それ以外の事についてだ。あの弁護士が持っていた資料は、賄賂を裏付けるには十分すぎるほどの証拠があり、これが世に出てしまうと法司官の権威が危ぶまれる。法事官長は急いで資料をシュレッダーにかけようとした。すると、一人のコートの男が部屋の扉を勢いよく開けた。
「官長、都合の悪い証拠を消すのはれっきとした犯罪です。やったことは受け入れてください。」と言うと、何人もの警備隊が現れて、法事官長は取り押さえられ、外に連行された。
「ま、待ってくれ!!やめろ、離せ、離せー!!」...後にこの法事官長は賄賂罪によって逮捕され解任されたという。
その後例の資料を見ていた男に、眼鏡のあの女性が尋ねてきた。
「フラッシュ先輩、あの...もしかしてなんですけど、その資料を作った人って...」と聞くと、フラッシュというコートの男は笑って答えた。
「間違いない、こんなに緻密な証拠資料を作るやつは”相棒”しか居ない。ついに姿を見せたか、五年ぶりだな。これは忙しくなるぞ。」そう嬉しそうに言って、フラッシュは急ぎ足で部屋を出ていった。
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