第5話 真実の裁判
あの面接室での出来事を、僕は夜中にも考えていた。正直なんであの時に泣いてしまったのか、上手く思い出せない。でも、あの秤という男の言葉には、根拠のない確信めいたものがあった。それにあの姿...いや、もういい。どうやらずっとこんな所で一人でいたから混乱していたのだろう。とりあえず今日は寝て、明日の判決に備えよう。
「...裁判、怖いな。」
数日後、ついに判決の日になった。拘置所から移動する時に、僕は付けていた腕輪を別のものに交換された。一見ただの石製の古いもので変哲もないものだが、なにか理由でもあるのかと僕は少し思った。そのまま複数人の警備官と一緒に護送車に乗って、僕はB地区の地域裁判所に向かった。
この世界の裁判は原則として、5人の
そうして裁判所についた僕は、既にいた弁護士の秤さんと合流した。「いいか、裁判中は自分の気持ちに正直に答えるんだぞ?知ってるとは思うが、証言台には真実か嘘かを見分ける『真実の天秤』というものがあって、話した内容が嘘だと速攻でばれるからな。」と念を押して言ってきた。
12時35分...次の36分になった。ついに、僕の裁判が始まったのだ。法司官の席には5人の白い制服を着た法司官がいて、その一段上には黒い制服の法司官長が座っていた。すると早速、一人の丸渕の眼鏡を掛けた女性が質問を始めた。
「質問をさせていただきます。今回の高校生惨殺事件は、あなたが犯したものですか?」僕は背筋を伸ばし、自身を持って「はい」と答えた。次に隣の男の人が、その次は別の人が...と順調に答えていった。このままのペースで、この裁判は順調に終わると僕は安堵していた。
しかし危機は突然訪れた。それは最後の質問のことだ。
「今回の事件は、個人のいじめによるものだという証拠がありましたが、その他で何か関わっている事、または人物などはありますか?」僕は焦った。ここで彼女の名前を出すと、今までのことが全て無駄になる。彼女に迷惑をかけてしまうのだ。それだけはいけないと思った僕は「いいえ」と答えようとした。すると、証言台の上にある真実の天秤の皿に黒い液体がジワジワと滲み上がってきた。まさか、これが嘘だと見抜く方法なのか?目の前の法司官の目が、鋭い目つきに変わっていった。
その時、隣りにいた秤さんが僕に小さい声で言ってきた。
「...さっき俺が話したことを思い出せ」僕は真っ白になる頭の中で必死に思い出した。がむしゃらに考えた末に出た言葉は『自分の気持ちに正直に答える』これだ。...ごめん、凪ちゃん。そう僕は心の中であの子に謝罪し、話し始めた。
「はい...一人います。僕には幼馴染の女の子がいるのですが、その子は彼らによって酷い性被害を受けました。そのせいでその子は、いつもの元気と、これからの未来を生きる活力を全て失ったんです。...彼女は、精神的に奴らに殺されました。」そして目に涙をにじませながら、僕は話を続けた。
「法司官さん、僕は確かに彼らをこの手で殺しました。でも、彼らも一人の女の子を無惨に殺したんです。同じ殺人なのに、なんで彼らは無罪で、僕は死刑なんですか...?」気付けば証言台の上の真実の天秤の皿にあった黒い液体は綺麗になくなっていた。
すると、上の段に座っていた法司官長が初めて口を開いた。
「ふむ...なんとも悲しい話だ。確かに君の言う通り、彼らも罪を犯している。...だが、彼らのその幼馴染への罪の償いは、被告人の君が執行してしまった。それは一般人である君の役目ではない。その役目は執行官の勤めだ。...咲田煉瓦君、もう二度と、このような惨劇が繰り返す事をしないと約束しよう。」というと、官長は手を上げた。
「被告人。咲田煉瓦を、執行官の射殺による死刑とする。」僕の後ろには、既に執行官が数人こちらに銃を向けていた。そして官長の手が降りるのと同時に、複数の発砲音が裁判所に響いた。
「その判決、ちょっと待った!」
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