第4話 初会

「あぁ...退屈だ。」


 逮捕されてから何日経っただろうか。6日...いや、7日か?この拘置所にずっと一人だ。暇を潰すのにできることは、これから自分がどうなるのかを考えるのとただ上の天井と窓にいる蜘蛛を見ることしかない。


 犯行計画をするときに、ついでに色々刑罰とかも調べた。確か、「悪質な計画的な犯行」と「3人以上の殺害」、「犯行が猟奇的であること」の3つは刑罰が重くなる理由になると言われている。

「...つまり、僕は3アウトチェンジって事か。はは、ほぼ死刑確定だな。」そう、他人事のように考えていた。死ぬということに、具体的な想像がわかなかったからだ。そうしてまた、窓にいる蜘蛛を見る。そこには、力がない蝶々が巣に引っかかっていた。


 「おい、番号438番、咲田煉瓦。弁護士との面会だ。手を扉の格子から出せ。」

感情のない看守の声に体を起こされた僕は、言われたように手を出した。そして手錠を付けたあと、そのままその看守につられて歩き出した。

「(弁護士って...一体何を話し合うんだろうな。どうせ死刑になるんだろうし...何やっても変わらないでしょ。)」そう思うと、僕は面会に乗り気にはなれなかった。


 そうして僕は、鉄扉で遮断された狭い面会室に入った。厚いガラスを挟んだ向こうには、ボサボサの白髪が少し混じった髪の男が突っ伏して寝ていた。すると、僕が入ってきたのに気付いたのか、男はあくびをしながら起き上がって挨拶をしてきた。

「ふぁ〜...あーどうも。えぇ〜っと、咲田煉瓦くんで間違いないね。はじめまして、あなたの弁護をさせていただきます。秤と言います。」僕は、なるべく早く済ませようと無言でうなずいた。秤というその男の手には、いろんな資料がいくつか小分けされてあった。

「えぇ〜っと、『加害者の咲田煉瓦は、同級生の炭野、広谷、細川を三人惨殺。凶器は家にあったグランピングの時の狩猟用ナイフ...家には、犯行を計画するメモが見つかった。』と...ここまでで何か違うことはあるかい?」秤は頭をかきながら尋ねてきた。僕は何も言わずに下を見た。どうやら、僕の作戦は成功したらしい。そうして彼との応答は特に何も無く続いた。


 そうして時間が経ってぼーっとしてきた時、それは突然だった。

「『動機はいじめられていたため逆上したから。』なるほどね...うん、いい偽装方法だ。事実を使ったから裏は取れてるし、世間はちゃんと騙されてるよ。これなら君の幼馴染はお咎めなしだろうね〜。」彼は面会時間が残り五分の時に、唐突に言い出した。僕はボーっとしていたため、一瞬何を言われたのか理解ができず、思わず聞き返してしまった。

「えっ...!?い、今なんて言いましたか?」すると秤は笑みを浮かべて答えた。

「ふふっ、びっくりしたかい?大丈夫さ、この事件の真相は俺が個人で勝手に調べた。本当の動機も知っているさ。ただ安心してくれ、まだ俺以外の誰にも気づかれていないよ。」そう言われて、僕は少し安堵した。すると彼は急に仕切りのガラスに顔を近づけ、声を小さくして話し続けた。

「被害者の炭野金融の会長は、お前を死刑にしようと法司官長に金を渡してる。このままじゃ、100%確実に死刑だぜ。お前、本当に死ぬ気であの三人を殺したのか?このまま死んでもいいのか?」そう聞かれた僕は、今までのように何も言えなかった。

 

 「死ぬ」っていうことを、自分は何も考えていなかった。ただ、凪が僕をいつも助けてくれたように、僕は彼女を助ける「ヒーロー」になりたかっただけだ。死ぬ気は微塵もない。いや、死にたくない...!


 気が付くと、僕の目からは涙が溢れていた。手も体も震えている。すると、それに気付いた秤さんが言った。

「...ほら、やっぱり怖いよな。想像もできないぐらいの体験なんだ、考えるだけで怖いはずだ。」そう聞いた僕は、泣きながら声を振り絞った。

「弁護士さん、僕...生きたいです...!もう一度あの子にあって、何気ない話がしたいです...。」そう言うと同時に面会終了の合図のブザーが鳴った。そして秤さんは部屋を出る時、僕にこういった。


 「分かったよ、君の気持ちは十分に伝わった。...任せておけ、俺が君を生かしてやる。絶対にだ。」そう言うと、彼は部屋を出ていった。その後ろ姿は、最初の男とは違って羽ばたいた大きい蝶々のように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る