第13話


 目の前にいる少女が「誰」かを、知るつもりはなかった。


 当時はまだ、外の世界のことが何もわからなくて、何があるんだろうってワクワクしていた。


 たまたま鉢合わせた彼女に、どんな言葉をぶつければいいのかさえわからなかった。



 “外界との接触は、大人になってから”



 博士が口癖のように言っていた言葉。


 外に出ることも、誰かと接触することも、悪いことだとは思っていた。


 そう教えられていたから。




 「あなたは、誰?」




 アカネはそう尋ねた。


 自分と瓜二つの人間が目の前にいる。


 その“異常さ”を、子供ながらに察知していたのだろう。


 私が「誰」か。


 彼女に言われて、その時初めて思った。


 もちろん、自分が何者であるかを研究室の中で考えていた時間はある。


 人間でも動物でも、昆虫でもない。


 「生物」ですらない可能性がある。


 そう考えてきた傍ら、ずっと思っていた。


 「自分」とは何なのかを。

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スライムですが? 平木明日香 @4963251

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