第3話 洋梨
「魔王の領地」から出てここ三日ほど馬を走らせているが、
全然街らしきものがみえない。
元々魔王の領地には人が住んでいて、かなり発展していたそうだ。
だがとある理由で人が住めなくなり、そこに今の魔王が住み着いている。
元々一つの大きな国でその周囲には村や街などがあった。
1日もすればそれなりの街にたどり着けると思っていたが、
なぜかそれらしきものに出会うことなくひたすら馬を走らせている。
水も食料もそろそろ切れかけてきた。
本当に王国につけるのか、道合ってんのか?と不安に思っていたが
それは杞憂に終わった。
街らしきものが見えてきた、
低い建物が、無造作に敷き詰められただだっ広いだけの街だ。
「やっとか・・・、でも王国にしては廃れていないか?」
入り口の門の看板には『Birne』と書かれている。
「ビーネ?ここの名前か?なんて意味だ?」
「兄ちゃん見ない顔だね、ヒッく。」
酒瓶を片手に、茹蛸のような顔で小さな老人が物珍しそうな顔で言ってきた。
「ああ、ここは初めてだ。この街はビーネっていうのか?」
「ビーネ?あーこの町はビルネってんだ、ほら。」
おっさんが、何か果物らしきものを俺に投げた。
「それがビルネだ。」
「これが?梨っぽいけど。」
「なし?それは知らんけど、食ってみな?飛ぶぞ。」
恐る恐る、ビルネをかじると、糖度の高い果汁が溢れ出てきた。
それを飲み込むと一瞬本当に意識が飛びかけた。
「うめえ・・・。」
「そうだろ、腐りかけのビルネが一番うまいんだよ。」
「は?これ腐ってんのかよ。」
「腐ってんじゃねえよ、熟しすぎてるだけだよ。」
「ほぼ一緒じゃねえか。まあうまいからいいけど、じいさんありがとよ。」
「兄ちゃんも国から追い出された口かい?」
「いや俺は今から国に向かうところなんだが。追い出されたってどういう意味だ?」
「なんだ、なんも知らずにここにきたのかい?」
爺さんがいうには、この『Birne』という街は、
国を追い出された人間、元犯罪者たちなど行き場を失った人間が最終的に集まる無法地帯らしい。通りで、やけにでかい割には廃れているなと思った。
爺さんからもらったビルネを食べながら街を歩いた。
街の人間のほとんどがアル中か薬中だ。
ほとんどがボロい平屋だが、何軒かそれなりに立派な建物も立っている。
ボロボロになった男が酒場から二人の男に抱えられながら出てきた。
中からは笑い声が聞こえる。
まあ、王国に知っているやつ一人くらいいるだろう。
俺はその酒場に入った。
酒場に入って思ったのは、アングラ独特の異様な空気で、その中にいる人間も
普通とは違った雰囲気を醸し出している。
抜身のナイフのようで、扱い方を間違える怪我をするようなそんな気がした。
だがそんな場所に似つかわしくない立派な剣が壁に立てかけられていた。
俺は思わずその剣を手に取った。
「こいつはいい剣だ、一体誰のだ。」
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