第2話 達者でな
長い年月を経て木はいつしか、御神木とまで言われるようになる。
それは他の木々とは異なる姿形をしており、
巨大で、荘厳で本当に神が宿っているかのような気さえする。
そのような神木がそびえ立っている。
風によって枝葉が揺れるのではなく、
まるでこの神木自体が風を起こしているかのようだ。
寄り添うように何者かの墓が建てられている。
墓には、「勇者の父ここに眠る」と刻まれている。
一人の青年が、その墓に百合の花を添える。
「行ってくるよ、父さん。」
「アレス!そろそろ時間だ。」
「わかった。今行く。」
アレスの背中を押すように風が吹いた。
気がした。
***
馬車の中、アレスと魔王は向かい合わせで座っている。
「アレス一応聞くが、本当に王国に行くんだな。」
「ああ。」
「そうか・・・。くれぐれも力を出し過ぎるなよ。」
「わかってる。」
「お前の力は、もうすでに人間の域を超えている。特に魔法の部分に関してはな。」
「何せ、魔王様直々に鍛えてもらったからな。」
アレスは、魔王の領地内で拾われた。
アレスは人間の子でありながら、魔王に育てられたのだ。
「剣術に関しては、正直俺たちよりも人間の方が上だ。ある程度は教えたが、さらに上のレベルに行くにはお前を師事する人間が必要だな。」
「ヨダ以上の人間がいるのか?」
ヨダは、アレスに剣術を叩き込んだ魔王軍一の剣豪だ。
「いる。『剣聖』と呼ばれる人間には、ヨダでも太刀打ちできないだろう。」
「『剣聖』・・・。なんだそれ?」
「さあな、俺もそいつの周りの人間がそう呼んでいたからそう呼んでいるだけだ。」
「そう呼んでいた・・・、親父はその『剣聖』ってやつと戦ったことあるのか?」
「ああ、まあその時は引き分けで終わったがな。後にも先にも剣一つで俺の攻撃を受け止めた人間はそいつだけだった。ザックなんとかって言ってたな確か。」
魔王は、過去に人間と何度も戦ってきた。
『剣聖』をはじめ、人間側の最高戦力とも戦い勝ってきた。
そしていつしか、戦いは無くなった。
人間側が魔王を触れてはいけない「不可侵」の存在だとしたのだ。
「そう言えば、お前の背中の紋様に似た紋様をした人間とも戦ったことがあるな。」
「その人はどうだったんだ?」
「強かった、あの時は死を覚悟したよ。お前と同じ名前の人間だ。」
魔王は、生涯出会った中で最も強かった人間の名を子供に授けた。
奇しくもそれは、過去の『勇者』の名前だった。
「さあ、そろそろ領域を抜ける俺はここまでだ。」
そう言い魔王は馬車から出る。
「親父・・・、ありがとな。ここまで。」
そう言いアレスは、馬を走らせた。
遠ざかるアレスを見送りながら、アレストの日々を反芻していた。
「ありがとな。」か・・・、
「アレス。達者でな。」
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