4-5
もしかすると、領内をコソコソ動き回るには最適の場所なのかもしれない。もう取り壊した方が良いのではないかしら……? などと、自分のことを棚に上げて考えもする。
あの後、一応の裏取りはしたけれど、暗殺事件の全貌は掴み切れていない(ちなみに、嫌がるベニーチカを説き伏せて、もう一度、街へ偵察に出て貰った)。領内で不審な死が増えているのは、どうやら事実。被害者には、
嫌な想像だけれど。もし仮に、
ほとりで湖面を
「こんないいところ、どうして使ってないんですか?」
「場所が
そういえば私の小さい頃は、よく
「あと、すぐ近くが水辺なせいで、この季節になると虫が大量に出ますの。カエルも……」
「ウワーッ!! 大きいトンボ‼」
言ったそばから、巨大な
「本当に……昔は、よく遊びに来たものですけれど」
今思い返せば。一番仲が良かったのが、婚約を巡って争った件のアッシェフェルトの令嬢だった。彼女とは、思えば本当に色々とあったけれど。あの頃は……
「どんなことをして遊んでいたんですか?」
なんとか巨大蜻蛉を追い払ったベニーチカの問いかけから、目を逸らすように。
「もう、忘れてしまいましたわ」
別荘の中にはあちらこちらに、ごく最近誰かが滞在した痕跡があった。ただ汚れている、というのではなく、むしろ掃除が行き届いている。不自然な程に。
そして……屋敷の中にあった、一番の収穫。そこにあったのは、
少なくとも暗殺に関わる人間が、ここを使っていたのは確か。けれど、
「……これ、あからさまな罠ではありませんこと?」
思わず、
「処分し忘れとか……」
「……それか、誘いのためにわざと残したのかもしれませんわね……」
「……それって……わたし達を?」
「いえ……」
まるで、「犯人に辿り着かれても構わない」と言わんばかりの証拠の残しぶり。といっても、これが
そもそもの問題、大貴族の悪事を裁くのは難しい。何故なら最悪の場合、内紛になるから。だから、多少の証拠には頓着しないのかもしれない。
そして仮に
「まずは見てみないことには……」
そうして、計画と犠牲者の全容を知った時。
これはもうあからさまに、侯爵家自体を狙いすました攻撃だ。
そもそも、どうして
なら仮に、
「お……お嬢様、大丈夫ですか……?」
もう無い筈の臓腑から、吐き気がこみあげてくる。
「……やられましたわ。
……少なくとも、暗殺に関わる人間が、ここを使っていたのは確かのよう。
リストはもう、粗方埋まってしまっている。そして、その最後に残された名前は……ヴァイスブルク侯爵。
「……お父様」
もう、疑いようもない。この暗殺事件の
さて、問題なのはここからだ。もしも……このリストを私達ではなく、ヴァイスブルクの人間が見つけていたら?
当然、激怒では済まないだろう。怒り狂って暗殺事件を告発するし、陰謀の全容が明るみに出れば、まともに行けばアッシェフェルトは取り潰し。けれど、まともに行くとは限らないのが貴族の間の常。アッシェフェルトが嫌疑を認めなければ、ヴァイスブルクとアッシェフェルトは直接矛を交えることになりかねない。戦争が起きる。
では、侯爵……お父様が暗殺されればどうなるか。ただでさえ多くの人間を亡くした侯爵家は、最後の
リストを見返し、
「……陰湿にも程がありますわ」
敵の目的はまだ判然としない部分があるけれど。この国で大きな混乱を起こすことが狙いだと仮定すれば、それなりの辻褄は合う。
そして……この陰謀が成功しても、失敗し露見しても、その時点で
「先に暗殺を食い止めて、全部をなかったことにするしかない……」
「えええ……」
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