4-4
「あら、ベニーチカ……戻ったんですのね」
「が、頑丈……!」
「……街は、どうでした?」
異邦人の彼女が、あの状況で意を決して
「人がいっぱいいました……」
……まぁ、こんなものですわよね……。
「…………なにか、変わった様子……は、わかりませんわよね……見聞きしたこと、噂話とか、違和感を覚えたこととか、何かございませんの」
少し頭を抱えながら、なんとか言葉を絞り出す。意識が戻ったとはいえ、
「……何も……侯爵令嬢の呪いで人が死んでる、なんて噂が流れてるくらいで」
「なんですのそれ」
なんですのそれ。
「さあ……?」
「まぁ、よくある噂話でしょう。不吉なことがあると、なんでもそのせいにしたがるのは人の
「あの……本当に呪いなんです?」
「そんなわけは無いでしょう」
少しムッとした様子で、
「いえ、えーと……そういうことではなくて……ええと、確かに首無しの令嬢が徘徊しているとか、そんな噂まで流れてますけど」
「
「そうじゃなくて……本当に人が死んでるのに、呪いじゃなかったら……」
……彼女の言いたいことが、ようやくわかった。
「……そういうことですの。仮に、連続殺人犯が居るとして。
こくこくと頷くベニーチカ。もしかすると、何らかの魔法の使い手や召喚者、童話怪人の仕業なのかもしない、と。彼女はそう言いたいのだろう。
「けれど、
王子様の婚約者だった立場上、国内の召喚者の
知っていれば警戒していた。手掛かりすらないとすれば、逆に可能性は絞られる。
「あの……」
何より、召喚者の隠匿は、国に対する謀反も同然。平民なら死罪、貴族でも一発で爵位と領地を奪われかねない。今まで誰にもろくに知られていなかったベニーチカは例外としても。誰の息もかかっていない召喚者が、そうそう
「その、あの……」
この力の異質さは……童話怪人かもしれない。
「えっと……いいですか? あの、お嬢様の身体を調べて、気付いたんですけど……」
そこまで考えを進めて、ベニーチカに声を掛けられていることにようやく気がついた。
「……何かございますの?」
「その壊れ方、よく見たら、見覚えが……あって。わたしが森を追われた時、ウルリケが受けたのとそっくり……威力は、ぜんぜん違いますけど……」
「……鋼鉄魔狼事件の時と? なら、まさか勇者がまた……」
「勇者じゃないと思います……あの時、勇者と一緒に行動していたのが、もう一人いて……ウルリケはそっちに
「
「多分、この壊れ方。銃っていう、わたしの世界の武器です。いえ、もうこの大きさだと砲のほうかもしれませんけど……あ、ダジャレじゃなくて……」
銃。そういうものを扱う召喚者がいる、いた、というのは
「確かに、
「はい、あの
異世界の武器を扱う狩人。いや……今は狩人の童話怪人、ということになるのだろうか。
仮に召喚者でないなら、どこかの庇護を受けている? だとすれば、どこかの国か、かなりの大貴族。少しの引っ掛かりを切っ掛けにして、頭の中で
「……ベニーチカ。貴女の潜伏していた村……確か、もっと北の方……でしたわね?」
前に、何かの折に聞いた情報を反芻する。
「はい……多分、そうだと思いますけど……行きは、この辺り通ってませんし……でも、それがなにか」
そもそもの発端、鋼鉄魔狼事件の起こった場所。
「王都より北の国境近くは、アッシェフェルトの領地。
「あ……」
拠点を襲った、雪華の紋章の兵達。北方貴族の騎士が王都に居るのは如何にも不自然だった。しかも、まるで
「尻尾を出しましたわね」
とうとう、「敵」が姿を見せた、のかもしれない。もしかすると、あの雷霆勇者の件もアッシェフェルトの差し金があったのかもしれない。
「あの……前も聞きましたけど、アッシェフェルトって、どういう貴族なんですか?」
「ヴァイスブルクと概ね同格の侯爵家ですのよ。ただ……」
あの家とヴァイスブルクは、昔から色々と因縁もある。そして、ごくごく直近の因縁は……
あの家には、
「ま……まままさか……今の陰謀って、痴情のもつれでこんなことに……?」
「いい? ベニーチカ。貴族の結婚は家と家のこと。もつれる痴情も何もございませんわ」
あるとすれば、それは純然たる権力闘争だろう。
もしも色恋だけで配偶者を選ぶ貴族・王族が居たとすれば、暗君の
「そもそも、それなら婚約者の後釜に座るのはアッシェフェルトの娘でなければおかしいでしょう」
「……違うんですか?」
「王子様が選んだのは、どこぞの馬の骨ですわ。婚約は
断頭台の果て。人間だった
だから
『この国がもうすぐ
「……貴族のことは、わたしにはよくわかりませんけど……これからアッシェフェルトさんのお
「いいえ……いずれ、けりはつけねばなりません。けれど、今はまだ」
本当に、少しばかり厄介になった、と
アッシェフェルト侯爵家。通称、
陰謀の黒幕としては申し分ないだろう。婚約者の件で、
有力貴族同士が正面から衝突すれば、大きな被害が出る。国の外からの干渉も受けるかもしれない。もし仮に
「……なら、どうするんですか」
状況を共有した後、ベニーチカはそう絞り出す。
「……やることそのものは変わりませんわ。
そう。今のところ、決定的な証拠はない。領内の不穏な動きには大貴族が関与しているかもしれない。
ベニーチカの件は、勇者の派遣こそあれ、自領内の問題だから対処は当然の義務。アッシェフェルトが全ての元凶とは必ずしも言い切れない。
そして、万一仮に「そう」だとしても、あの家の中で具体的に何を敵とするかは、慎重に選ばなければならないのだから。
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