4-3
「お嬢様!!」
目の前には、鬼気迫る形相のベニーチカ。油まみれになりながら、何かの工具で懸命に
「ああ……ベニーチカ。
「よ、よかった、すぐ意識が戻って……
どうやら、意識を失っていたのは僅かな時間のようだ。でも、「次」の攻撃でベニーチカが狙われるかもしれない以上、じっとしては居られない。すぐにでも、敵を探して、やり返さないと。気持ちが
でも、と。同時に、「もう限界だ」と言っている
「はぁ……はぁ……万一のときは、侯爵家を頼ってくださいまし」
一瞬の
「しっかりしてください!! わたしだけじゃ……!」
「……これを見せて
あなたは、賢くて、勇気も持っている。だから、あとはそれに自分で気付けさえすれば、きっと大丈夫だと。そう口にしようとしたところで、
◇ ◇ ◇
お嬢様が意識を失った後。わたしは、途方に暮れていた。
急に「あとは侯爵家を頼れ」なんて放り出されて、
例の髪飾りと、拠点を守っていた認識阻害結界の
いや、こうして振り返ってみると、わたし滅茶苦茶頑張っているのでは……? 褒められていいのでは……?
えらい、一叶、えらいぞ、と自分で自分を褒めて落ち着いたところで、状況を確認。
お嬢様の容態は芳しくない。しばらく
きちんとした拠点と部品の在庫があれば、すぐにでも直してあげられるのに。王都を追われたことが響いている。追い詰められているのを感じる。
「ふふ……これで、二度目」
こんな逆境は、あのクソ勇者に山を追われた時以来。でも、紅 一叶はへこたれない。いや、やっぱり頻繁にへこたれはするけど、これで折れたりはしない。
何をするにもまずは、街に出ないと。
「でも、街って、人がいっぱいいるんだよね……街だし……」
勇気を出す。今のわたし達は逃亡者。お嬢様が動けない今、わたしだけでも、しっかりしないと。
……そうして外に行こう行こう、と考えているうちに、夕方になってしまった。でも、少し薄暗く肌寒くなって、人通りが目減りしたところで、どうにか外出には成功した。
石畳の上を、おっかなびっくり歩く。ここは、侯爵領の中心地……だと思う。お城があるし。栄えている街の中特有の、居心地の悪さを感じる。朝のうちは人通りが少なくて気付かなかったけれど、この辺りは歓楽街なのか、宿屋とかお酒とか出してるっぽい店も結構あるし。むしろ、活気という点では、王都よりあるかもしれない……いや、やっぱり、日のあるうちに王都を歩き回ったこと、よく考えると殆どなかったから比べられなかった。でも、暗いのは落ち着く。
あの便利結界はお嬢様とウルリケを隠すのに使っているので、目立たないよう、静かに進む。人の大きな話し声が聞こえて、一瞬びくっとする。店先でお酒を飲んでいる第一村人(街人?)と第二村人が、噂話をしていた。
よかった、わたしに話しかけたわけじゃなかった……と思いつつ、聞き耳を立てる。
「だからさー、大きな声じゃ言えねぇが、このところお偉いさんが次々と亡くなってるんだってさ」
「……大きな声じゃ言えねぇが、いい気味だ。処刑されたご令嬢の無念が呪いでもかけてるんじゃないか?」
ちなみに酔っ払いなので、けっこう大きな声で言っている。ので、わたしにもバッチリ聞こえている。この人たち、なんか後で
「ひでぇ話だよ。食い物も値上がりしてるのにさ。今年は豊作って話じゃなかったのかよ」
「近々、パレードだの何だのをやるからなんだとか」
「変わっちまったなぁ、侯爵様も」
「まぁ、娘が処刑されれば、おかしくもなるか……あんなにかわいがって、銅像まで立ててたってのに」
「そういや墓参りに行った爺さんが、首のないご令嬢がうろついてるのを見た、とか言ってたなぁ……」
「それは流石にボケが始まってるだろ……大体なんで首が無いのに、ご令嬢だってわかるんだよ」
「そりゃそうか……」
とまぁ、要らない部分を省いて要約すると、酔っ払いがこんな不穏な会話をしていた。
処刑されたご令嬢、というのは、もしかしなくてもお嬢様のことだろう。というか、嫌な予感がしてふと通りを見ると、なんだかすごく見覚えのある顔をした銅像が立っていた。こっちの世界の文化はよく知らないけど、これって親バカっていうヤツなんじゃ……?
そういえば、お嬢様の生身の首から下って、あんまり見たことなかったかもしれない。銅像とはいえ、何かの参考になるかも、と興味本位であちこちいろんな角度から覗き込んでいると……
「なんだい、娘っ子がこんな時間に」
「早くおうちに帰りな。近頃は物騒だからな」
さっき盗み聞きしていた酔っ払いズに見つかった。しまった、銅像の方に気を取られていたせいで、注意が……!
「さ、さよなラーーッ!」
「あっ、おい!」
なんだかそわそわして、落ち着かなくて、一刻も早く、お嬢様に聞いたことを報せないと。そう思って、宿へと全速力で戻った。
……別に、酔っ払いに話しかけるのが怖かったわけじゃない。でも、ここからわたしの活躍が……きっと始まる……!
と、決意を新たに部屋に帰ると、お嬢様が意識を取り戻していた。
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