第四章 狩人の章
4-1
「なんかもう、お約束みたいになりかけてますけど……予備ボディも壊されたので、しばらくは安静ですからね?」
拠点に戻ってくるなり、ベニーチカにそう釘を刺されてしまった。
「それで、今回はどれくらいで治りそうですの?」
「えーと……あちこちに高圧電流を流し込まれてるので、システムチェックに時間がかかるのと……あとは、あの
「気持ちは嬉しいのですけれど、遠慮いたしますわ。けれど、意外と軽傷ですのね」
勇者の剣の名前、間違っている気がするけれど。
「普通に重症ですけど、部品のストックがあるので……でも、鎖を電気の
「ええ……」
思いついた? 本当に、思いついたのだろうか? 雷のことなんて、
「……
「……なに寝言言ってるんですか。そんなものがあるなら、もうちょっと身体を大事に扱ってください。スカートからのアースが取れてなかったら、真っ二つの上に内側から溶けてグチャグチャになってましたよ。そうなったら、直せないかもしれなかったんですから」
ぞっとしない話だ。確かに、雷が流れたスカート部分は表面が溶けて歪んでしまっている。あれが身体の内側に起こったらと思うと……
……あとベニーチカ、最近は
「それはそうと、今回は無駄骨でしたね、お嬢様」
「無駄骨……?」
「だって、あの勇者……王子様の野望とは関係なかったのでは?」
「……そうでもございませんわ」
察するに、雷霆勇者は
そして、結果、潰し合いになってしまったけれど……あの時の敵の最善手は、弱ったところで私と勇者の両方、或いは片方側を倒すこと。今のところ、勇者が討たれたという話も聞かない。
周辺の人払いを済ませる程の力がありながら、王城という国の中枢、お膝元でそれをしなかった、或いはできなかった、ということは……
「……敵の戦力は、
例えば、ある程度の権力は握っていても、国の貴族すべてを手中に納めるまでには至っていないとか。もしくは、実際に直接動かせる戦力は
向こうにも、隠れ潜むだけの理由があるのか。それとも、王子様が敵の中枢に居る、という前提が違っているのか。
「それでも、拠点を移す準備だけは、しておいた方が良いかもしれませんけれど」
「えっ……」
「王都の戦いで、
「せっかく、予備パーツ作りが楽しくなってきたのに……」
今の
しばらくは再起不能だろうけれど、果たして雷霆勇者があのまま大人しくしているのか、という問題もある。
「段取りだけでも進めませんと。何か移動や荷運びの手段はございませんの?」
建物は見た目と内側で随分と様子は違うけれど、中にある荷物は結構な量のはず。
「移動は歩きか、ウルリケに掴まるしか……あとは、
まさかの
「片付けながら考えるしかありませんわね。
そして、整理を始めてわかったこと。どうやら案の定というべきか、ベニーチカは物を捨てられないタイプらしい。
部屋の中にあるのは、よくわからないガラクタや謎の機械が大半。
「じゃあ、説明していくので、いる・いらないの判断をお願いします……捨てるかどうか決めるの、一番疲れるので……」
「それで片付けが捗るなら……」
というわけで、ベニーチカが片付けたい物を、
「服……」
最初に彼女が持ってきたのは、お洋服が数着くらい。いつも彼女が羽織っている白衣(と呼ぶらしい)に質素な服。貴族の基準からすると、部屋着にすら事欠きそうなくらい。庶民にしても……少ないのではないかしら?
「あら、もう随分処分したんですのね。偉いですわ」
「も、元からこれしかないんです……」
「……後で買いに行きましょうね……」
いきなり出鼻をくじかれた気がする。
「最悪、家の中なら裸でもいいかなって……」
「どうしてそういうところは思い切りがいいんですの⁉」
どうやら彼女は、「物を捨てられない」に加えて「興味のないものは最低限しか揃えない」性質らしい。いや、前者の性質があるから必然そうなるのか。先が思いやられる。
「次、お嬢様の壊れたパーツ……」
「それ、何かに使えるんですの?」
「えへへ、どうして壊れたか調べて、性能を上げるのに使えるけど……それはもう終わったし、使える部品はだいたい抜いた後だから、ただの記念……」
「捨てましょう」
「お墓作りますね……」
「
そんな風に言われると、捨てろとも言い辛くなってきた。
こんなこともありつつ、
などと考えていたところで、ベニーチカが台所から「大物」を持ってきた。
「あと、この紅茶マシンは……」
出ましたわね。例のタンクとパイプの塊。
「置いていきなさいな」
「うう……けっこう力作なのに……」
「また作れば良いのではなくて? そうすれば、次はもっと良いものができるでしょう?」
「うぅ、正論が痛い……」
そう言いながらも、ベニーチカは渋々装置を片付け始めた。
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