第一章 令嬢の章

1-1 ある令嬢の結末

 物語はじていく。わたくしは歩いていく。破滅につながる階段を。死へ繋がる大路おおじを。


「マーリア・ヴァイスブルク様。さすがは侯爵家のご令嬢」


 わたくしの、なまえ。生まれたおいえ


「やがては王子殿下と夫婦めおとになり、この国の王妃となられるお方」


 わたくしの王子様。愛すべき婚約者。


「撫子の君、いつもおうるわしい」


 皆にそう呼ばれていた。誇らしかった。わたくしは、家の誇りを背負っているから。それなのに。


「婚約を破棄してほしい」


 あの人は、いつも、気まぐれで、突然で。でも、優しくて。そこが嫌いになれなくて。


「ほかに好きな人ができた」


 どうして。


「君の家には謀反の疑いが……」


 ちがう。お父様が、そんなことをなさるはずはない。


「禁忌魔術の研究に手を染めるなど……侯爵令嬢のなさることか」


 ちがう。そんなことはしていない。おいえの恥となるようなこと。


「おぞましい」

「昔から怪しいと思っておりましたの」


 どうして。あんなに、みんなたたえてくれていたはずなのに。


「魔女め」


 ちがう。ちがうのに。どうしてわたくしが悪役になってしまったの。

 十三の階段を上って。わたくしはそこでようやく、自分の先にあるものを見た。

 れる人々との視線と敵意。怒号と歓声で舗装された道の先には、重苦しい処刑ギロ器具チンが待ち構えている。

 広場の中央へえられたそれに、首を嵌められ。辺りを見回すと。

 新しい婚約者と一緒に微笑む王子様が見えた。

 あぁ、よかった。この嵐の中でも。あの人だけは、「私」を見てくれている。

 だから私は最期に、安心して微笑んだのだ。



 こうして、悪役となった令嬢は断頭台の露と消えました。

 物語はおしまい。めでたし、めでたし。

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