第4話 夫に殺される為……。

優太朗が部屋を出て行く。

私は、を変えたいから戻ってきたと最初は思っていた。

だけど、違う。

それをハッキリと実感したのは、優太朗の言葉だった。


を変えて所で優太朗は


幸せそうに笑うのは、で……。

私は、優太朗に捨てられてを生きるだけ……。


だったら、未来を変える必要なんてない!!!

私の望みは、優太朗のに残り続ける事。

優しい優太朗は、私を殺してしまえばを感じるだろう。

そして、をずっと考え続ける。

私が欲しいものは、


あの女の元に優太朗の肉体からだが行ったって、だけは私の

それが、私の


彼女は、優太朗の全てを手に入れられない事を嘆き、絶望すればいい。

残念だけどを越えれる人間などいない。


私は、スマホを開く。

もしも、優太朗が私を殺してくれたとしてもに入ってしまえば何のにもならない事はわかっている。

だから、優太朗の罪は自殺幇助じさつほうじょぐらいにしておかないといけない。

スマホに入っている生理の記録をつけているカレンダーアプリを開く。

ここにを入れて置く。

遡って3ヶ月前辺りからにしておこう。


【最近、生きている事に絶望を感じる日が増えた。いっそ、いなくなれたら楽になれるのに……】

【夫は、優しくしてくれるのに私は素直にそれを喜べない。消えたい、死にたい】

【二人で生きていくのに絶望しか感じない。どうしたら、楽になれるだろうか?】


私は、メモに嘘を入力し続ける。

嘘であっても、にしていると本当に自分がそう思っているのではないかとしてくるから不思議なものだ。

きっと物を書く人間は、こういう気持ちになりやすいのだろうと思った。

私は、3ヶ月分のメモを書き終える。

このに見つけてもらう為に明日、手紙を書いておく。

スマホになってからは、文章を書く事はなかったけれど……。

夫の為に、手紙は必要なものだと思うから書くしかない。


「京花。大丈夫?」


夫の声に私は、また寝たふりをする。


「お腹すかない?大丈夫?」

「う、うーーん」

「ごめん、起こしちゃった?」

「大丈夫だよ」

「熱計る?」

「あっ、うん」


優太朗は、体温計を渡してくれる。

私は、優太朗の横顔を見ていた。

どうしょうもなく優太朗が好き。

優太朗を失う事なんて考えられない。


「大丈夫?まだ、しんどいよな」


優太朗は、ティッシュをとって私の頬に当てる。

どうやら、泣いていたようだ。


「大丈夫。まだ、頭がちょっと痛いだけだから……」


ピピピピっ……。

私は、体温計を取る。

36.4℃。

熱なんかあるわけがない。


「下がったんだな。よかった、よかった」

「何で、優太朗が泣くのよ」

「ごめん、ごめん。京花に何かあったらと思うと心配で心配で」



心配か……。

あの日も、もしかしてそう思ってくれてたりしたのかな?


「大丈夫だよ。何も心配する事なんてないよ」

「本当に?」

「うん、大丈夫だから」


優太朗は、嬉しそうに笑いながら私の髪を優しく撫でてくれる。

こういう所が、大好き、愛してる。

私は、優太朗の腕を優しく握りしめた。


「今日は、手を繋いで寝ようか」

「うん……」


優太朗が、ベッドに横になり私も横になった。

どうして、優太朗は浮気したのだろうか……?

どうして、あの人を選んだのだろうか?

私は、を覚えていない。

だから、あの日の終わりがわからない。

覚えているのは、優太朗が最後に抱き締めてくれただけ……。



「京花……。京花……。死なないでくれ。お願いだから、目を開けてくれよ」


ポタポタと私の頬を濡らすのは、涙と真っ赤な


【優太朗、血が出てるんじゃない?大丈夫?】


足が固まっていくのを感じる。

だけど、何故か私はを見つめていた。

この場所に、私はもうしていなかった筈じゃない?


「黙れーー。黙れーー。何で、私を見ないのよ!!何で、その女を庇うのよ……」

「渚……。俺をそれなら、それで……」

「待って、待って。優太朗。今、救急車を呼んであげるから……」



血眼の目で、優太朗に何かをしていたくせに……。

優太朗が何かを言おうとした途端に顔色が変わった。

彼女は、焦りながら、スマホで救急車を呼んでいる。

よかった、優太朗は助かるんだ。


「優太朗……。どうして、の方が大切みたいに言うのよ!!そんな言い方しなかったら、私だってこんな風に優太朗に酷いことをしなかったのよ」

「はぁ、はぁ。渚……。俺、間違ってた。渚には、本当に申し訳ない事をしたと思ってる……。はぁ、はぁ。だから、ちゃんとするから……。だけど、俺は……き」

「優太朗、それ以上喋るのはよくないわよ。出血してるわけだから」

「ちゃんと聞いてくれ……」

「駄目よ。優太朗……」


ピーポー、ピーポー。


「救急車が来たわ!優太朗」

「渚……。ちゃんと聞いてくれ……」


ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン……。


「ついたわよ。インターホンが鳴ってるから開けにいかなくちゃ!」


彼女は、急いで玄関に行く。


「京花……。守れなくてごめんな。次は、ちゃんと……」



「はぁ、はぁ……」


動悸と大量の汗で目を覚ました。

口の中がやけに乾いているのを感じる。

私は、まだ優太朗と手を握りあっていた……。

今のは、優太朗の記憶……?


さっきと違い。

優太朗の手にも、私の手にもきちんとがあるのがわかる。


よかった、生きてる。

私は、優太朗の眠っている唇に触れる。

どうして……。

あの時、優太朗はあんな事をしたの?

額の辺りに滲んでいた赤はない。

起こさないようにしながら、優太朗の手をギュッーっと握りしめる。


優太朗……。

どうか、生きて……。

優太朗は、死なないで。


祈りを込めるように、優太朗の手をさらに握りしめる。

無意識の中で、優太朗は手を握り返してくれる。


「優太朗……。次は、あなたの手で私を殺して。じゃなきゃ、私。成仏出来ないよ」


頬を涙の雫が濡らしていく。

優太朗を愛しているから……。

まだ、一緒にいたい気持ちが溢れてくる。

この先の、人生も優太朗と生きていきたかった。

だけど……。

やるしかない。

私は、私のを変えなくちゃ……。

に殺されるを……。


優太朗の手を握りしめて頬に当てる。

愛しさと幸せが溢れてくる。


優太朗……。

信じてる。

あなたが、私を……。





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