第12話

 琥珀先輩の車で移動すること約4時間。

 俺たちはのどかな平原が広がるキャンプ場へとやって来た。

 広々とした草原が目の前には広がり、すぐ近くにはバーベキュー等が行える広場もある。


「いい所だな。空気が美味しい」

「さ、テント張るからみんな手伝ってー!」

「「はーい!」」

「…うす」


 いつもより2割り増しでテンションが高いメンバーの後ろを、俺はやや悶々とした表情で着いて歩いた。

 原因は当然、瀬奈だ。

 ついこの前までは幼なじみでしか無かった彼女が、今になって俺の好みに合致していると気付き…そして困惑した。


「どうしたの悠ちゃん?」

「…ん?あ、あぁ!ちょっと車酔いしただけだから!心配すんなよ!」

「大丈夫?私酔い止め用の飴持ってるから、これ舐めて!」

「さ、サンキュな…」


 レモン味の飴を渡され、口の中に放り込む。うん、甘くて美味しい。

 悩みは消えないが、今は無視するとするか!せっかくのキャンプなのに、こんなんじゃ皆も楽しめねぇだろうし。


「おい悠、お前もテント張るの手伝え」

「わかった!任せろ!」


 刀司と一緒にテントの骨組みを組み立てる。予め作り方を確認しておいたおかげで、1つ目のテントはすぐに完成したのだが─


「あれ?先輩、テントの部品が1つ分しか無いんですけど」

「うん?テントは1つだよ?」

「はぁ!?じゃあこのテント1つで…4人泊まるってことですか!?」

「そだよ!どうせなら皆で寝たいじゃん!」


 先輩はさも当然だと言わん様子で、組み立てたばかりのテントに荷物を入れた。

 マジか…こういうのって普通男女で分けるものじゃないのか?


「あ、でも嫌なら今からテント借りて来るよ。どうする?」

「わ、私は大丈夫です!」

「僕もだな」

「俺は…いや、大丈夫ですね」


 冷静に考えてみれば、いつも瀬奈と一緒に暮らしているんだ。今更テントで1晩を明かすくらい、なんてことは無い。


「全員賛成で可決!よしっ!者共!バーベキューの準備を始めるぞ!」

「よし来たァ!今回のメインイベントだぜ!」


 ここで刀司と琥珀先輩が1度車に戻り、全員分の寝袋を取りに行った。その間に俺と瀬奈は、キャンプ場の備品販売所から薪を買いに行った。


「悠ちゃんもすっかり元気になったね!」

「たりめぇよ!いつまでも弱ってたんじゃ勿体ねぇさ!」


 心配そうにしていた瀬奈も、俺を見て安心したように笑っている。その笑顔が、俺の胸になあったモヤモヤを打ち消していく。

 ダメだなこりゃ。完全に惚れてるわ。

 他愛ない話をしながら販売所で薪を買い、テントへの帰路に着く。


「わ、私だって…!このくらい…!あっ!」

「あははっ!何やってんだよ!こういうのは俺に任せとけって」

「むぅ…!」


 瀬奈は見栄を張って沢山の薪を持っていこうとしたが、バランスを崩して薪を全て落としてしまった。一生懸命に運ぼうとするの関心だが、苦手なことまでやる必要は無い。

 俺は瀬奈に変わって薪を両脇に抱えた。


「悠ちゃん凄いね。力持ちだ」

「ふっ!鍛え方が違うからな!」

「家ではゴロゴロしてばっかりなのに?」

「やめろ瀬奈、本当の事を言うんじゃない!」

「それに…薪を持ってたらイタズラされ放題だもんね!」

「あ、おい瀬奈!やめ…あはははは!」


 瀬奈が脇をくすぐってくる。両手が塞がっている俺は抵抗もできないまま大声で笑った。

 笑った拍子に力が抜け、持っていた薪をまた落としてしまった。


「やめろって!進めないだろうが!」

「ごめんね!あんまりにも隙だらけだったからつい…」

「つい、じゃねぇって!…全く…ふふっ」


 思わず笑みが零れる。俺が先に笑い、釣られて瀬奈も笑った。

 ただジャれているだけなのに、この時間が物凄く楽しかった。




 ∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵




「さぁどんどん焼くよ!」


 先輩たちと合流し、いよいよバーベキューが始まった。持ってきた肉や野菜を鉄網の上に乗せ、直火で焼いていく。

 調理と呼ぶにはあまりに豪快な焼き方なのに、香る匂いは食欲を強く刺激する。


「はい悠ちゃん!お肉焼けたよ!」

「おう、ありがとな」


 焼けたそばから瀬奈が肉を俺の皿に載せてくる。キャンプに来ても、やっぱり瀬奈は瀬奈だ。


「じゃあアタシからも肉上げるね!(黒焦げ)」

「嫌がらせですか先輩?」

「なら僕からもプレゼントだ(焦げたキャベツ)」

「お前は確信犯だよな!?」

「じ、じゃあ…私も!(生のニンジン)」

「瀬奈!お前もか!?」


 さっきまで美味しそうな肉が並んでいた皿の上には、いつの間にかおかしなモノばかりが鎮座していた。

 これ食べなきゃ行けないの…?


「ええい!食べてやるさ!」

「お、いいぞ。そのまま廃材処理に徹してくれ」

「モグモグ…(誰がこれ以上食べるか!)」

「悠ちゃん逆になってるよ!」


 ドっと笑いが響く。楽しいバーベキューの喧騒は、持ってきた食材を全て平らげるまで続いた。全てを食べ終わる頃には、太陽は西の方に傾き始めていた。

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