第9話
激しい雨の音を聞いて、私は目を覚ました。
「うぅん…あれ…?」
目覚めた場所は家。確か私は昨日、悠ちゃんたちと合コンに出てたはず…
思い出そうとした瞬間、ズキリと頭が痛んだ。病気とは違う、もっと芯に響くような痛みだ。
「…どうやって帰ったんだっけ…」
痛む頭で昨晩の記憶を辿る。朧気な記憶の中で私は、悠ちゃんに頬擦りしていたような…
「嘘…もしかして私…すっごい恥ずかしいことしてたんじゃ…!」
「おー起きたか。おはようさん」
「ゆ、悠ちゃん!」
台所からエプロン姿の悠ちゃんがひょっこりと顔を出す。珍しく料理をしていたのか、朝ご飯をテーブルに並べようとしていた。
「朝飯できてんぞ。さっさと食べようぜ」
「き、昨日の夜はごめんね!色々と…」
「気にすんなよ。酔ってただけだ」
「でも私!…悠ちゃんに迷惑かけて…」
「特に迷惑らしいことも無かったよ」
悠ちゃんは本当に気にしていないのか、何も問い詰めないまま食卓に座っている。
釈然としない気持ちを抱えながらも、私は悠ちゃんを待たせまいと席に座った。
「「いただきます」」
2人で朝ご飯を食べる。いつもと同じ習慣。
違うのは料理を作ったのが、私じゃなくて悠ちゃんだってことくらい。
「…少し塩入れ過ぎたか…」
「私は美味しいと思うよ!」
「マズくはねぇが…瀬奈の方が美味いな」
「あ、ありがとう…」
それからしばらく黙ってご飯を食べた。沈黙に耐えられなくなったのは、当然私の方だった。
「そ、そういえば今日大学は?」
「今日日曜だぞ?大学は休みだ」
「そっか…じ、じゃあサークルは…」
「刀司は二日酔いだって連絡があった。琥珀先輩はそもそもバイトだ」
「そうなんだ…じゃあ…暇だね…」
「だな。久しぶりにダラダラするかな」
何とか話題を繋ぎたかったけど、そこでまた途切れてしまった。
せっかく悠ちゃんが作ってくれたご飯も落ち込んだ気分のままでは、上手く喉を通らない。
何か話題は無いかと探っていると、今度は悠ちゃんの方から話しかけてきた。
「そういえばお前、昨日の合コンの時に気になる奴とか居たのか?」
「へっ?…い、いや!居ないよ!全然!」
嘘、1人いた。
今も目の前にいる人だけど。
「ど、どうしてそんな事を気にするの…?」
「合コンなんてお前らしくないと思ってな。好きな人でも居たなら話は別だが」
なんだろう。今日の悠ちゃん、いつもより歯切れが悪い気がする。
ご飯を食べる悠ちゃんをよく見てみると、首元に赤い痕があった。あれってまさか…!
「…ねぇ悠ちゃん、私って昨日どうやって帰ってきたの?」
「俺が背負って連れて帰ったよ」
「その時の私って起きてた?」
「あぁ、酔ってたけどな」
「じゃあその時に…悠ちゃんの首にその…き、キスとか…した…?」
「………………」
「ねぇ!私やっぱりしたよね!?その首の痕はき、きき、キスマーク…」
「思い出させるな!人が必死に考えないようにしてるのに!!」
悠ちゃんの顔が一気に赤くなった。やっぱり!
私ってば酔った勢いで悠ちゃんの首元にキスしちゃってたみたい…
「ご、ごめんね…本当に…」
「…いやいいって…俺も嫌じゃなかったし…」
「あ、ありがとう…」
それ以上、私たちが会話することは無かった。
ただ黙ったまま、真っ赤になった顔を合わせないようにするので必死だった…
∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵
食後、私はリビングでテレビを見ていた。
食器は洗うと言ったのに、悠ちゃんに押し切られて渋々ソファの上で縮こまっていた。
「あれ?琥珀先輩からLINEだ」
悠ちゃんのスマホと同時に、私の方にも通知が来た。どうやらグループLINEに来たようだ。
「『明日の5時にサークル部屋に集合!重大発表もあるよ!』って…相変わらず突然だな」
「重大発表って何かな」
「さぁな。ただ1つ言えることは…あの人は楽しいことしかしないって事だ」
きっと先輩の言う重大発表っていうのも、何か新しい遊びでもするのだろう。
そう確信していた悠ちゃんの顔は、今まで見たこともないような笑顔が咲いていた。
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