第6話

 買い出しから戻った俺たちを待っていたのは、何故か倒れている刀司と慌てた様子の琥珀先輩だった。

 当然だが刀司に外傷はなく、どう見てもふざけているだけだ。


「…何してんだよ2人とも…」

「見て分からないか悠くん!刀司くんが何者かに襲われたんだよ!」

「ウワーモウダメダー」

「ピンピンしてんじゃん…というかこの状況で犯人とか1人しか居ないでしょう…なぁ瀬奈」

「大丈夫ですか刀司さん!?」

「嘘だろコイツ…!? 」


 瀬奈は倒れた刀司に慌てて駆け寄り、心配そうに身体を探っている。間違いねぇ…コイツ本気で心配してやがる…!?


「そんなの演技に決まってんだろ!」

「でももし本当に怪我してたら…」

「ウワーイタイヨー」

「ほら痛がってる!手当しなきゃ!悠ちゃん救急バック持ってきて!」

「何故その棒読みで騙される!?」


 瀬奈の様子は演技にノッている訳ではなく、本気で心配している。大丈夫なのかコイツ…将来詐欺とかに簡単に引っかかるんじゃ…

 ほら被害者役の刀司すらちょっと困った顔してんじゃん。いや俺の方を見るな。お前が始めたことだろうが。


「ふふっ…刀司くんを…ふっ…!襲ったはんっ!…犯人はメッセージを残して…ははっ!」

「先輩、笑い漏れてますよ」

「こほんっ!とにかく!この室内に謎が仕掛けられた!全部解けたら2人の勝ちってゲーム!」


 琥珀先輩が強引に話を進める。要するに謎解きゲームだ。俺と瀬奈を買い出しに行かせたのは、この準備をするためだろう。


「そういうゲームですか。おい瀬奈、さっさとクリアしちまおうぜ」

「でも…」

「まだ何かあんのかよ」

「刀司さんがお腹痛いって…」

「すまん、昼飯を食べ過ぎた」

「さっさとトイレ行ってこいやぁ!!」




 ∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵─∵



 刀司をトイレに放り投げ、ようやく謎解きゲームがスタートする。


「さて、何から探るか」

「見て悠ちゃん。刀司さんか倒れてた場所に何かあるよ」


 ちょうど刀司の下に隠れていた紙を瀬奈が見つける。これが多分先輩の言っていた謎だろう。


「何が書いてある?」

「〈代入とかけて舞台と解く。その心はどちらも○○が必要でしょう〉って書いてあるよ」

「うわダル。ガチのヤツじゃん」

「トーゼン!歓迎パーティの余興なんだから本気でやるよ〜♪」


 琥珀先輩が嬉しそうに笑っている。多分これは手加減抜きの謎解き…というよりクイズゲームなのだろう。

 先輩は賢くは無いが、発想力は柔軟な人だ。短期間で作ったとしても難易度は甘くないだろう。


「これって謎かけだよね?」

「だろうな。先輩、他にもあります?」

「無いよ!時間が無くて1問しか用意できなくてね!それが解けたら勝ちだよ!」

「さいですか…」


 謎かけか…俺は苦手分野だな。

 そもそも知恵比べは得意じゃない。こう言うのは刀司とかの方が専門分野だ。


「悠ちゃんは答え分かった?」

「なーんにも?代入とイルミネーションとかカスりもしてねーじゃんって思ってる」

「だよね…こう言う時は出題者の考えを推理した方が早いんだけど…」

「シンキングターイム!いえーい!」

「…アレを察しろって方が無理があるぜ…」

「うーん…」


 状況は完全に手詰まり。俺はほとんど諦め、瀬奈は必死に問題文を読み返していた。

 数分ほど瀬奈が問題文を読み込んでいると、突然ハッとしたような顔をした。


「悠ちゃん!分かったかも!」

「お、マジ?」

「うん!これもしかして〈しょうめい〉が答えじゃないかな?」

「そりゃまた何でだ?」

「代入って数学で使う物でしょ?だから問題を解くためには〈証明〉が必要で、舞台には照らすために〈照明〉が必要になる…だから答えは〈しょうめい〉になるんじゃないかなって!」

「確かに…どうですか先輩!」

「ふっふっふっ…その回答は…!」

「「ゴクリ…!」」

「ピンポーン!大正解!」

「「やった!!」」


 何とあっさり瀬奈が問題を解いてしまった。

 俺と瀬奈は思わずハイタッチをした。


「いやーあっさり解かれるとは!煽る用のセリフ考えておいたのに無駄になっちったぜ!」

「そんなセリフ考えなくて良いですから」

「さてさて!問題を解いた瀬奈ちゃんにはご褒美です!このスイッチ押してみて」

「これですか?」


 琥珀先輩が瀬奈に何かのスイッチを渡す。見たことの無い形をしてるけど、アレは何だ?


「えいっ!」


 瀬奈がスイッチを押すと室内の照明が全て消える。次の瞬間、天井に格納されていたプロジェクター用のスクリーンが降りてくる音がした。

 暗くなった室内でスクリーンに光が灯る。色とりどりの色彩と共にスクリーンに『ようこそディベルシオンへ!!』と映し出された。


「おおぉ…!」

「じゃーん!新メンバーが入ったら使おうと思って作っておいたんだ!改めて…ようこそ瀬奈ちゃん。我らが〈ディベルシオン〉へ」

「ありがとうございます!こんな綺麗に歓迎して貰えるなんて…!」


 瀬奈は歓迎のメッセージに目を輝かせている。

 先輩がこんなものを用意していたなんて、俺は全く気付きもしなかったぞ。

 歓迎メッセージの表示が消えると、再び室内に明かりが戻った。


「さて瀬奈ちゃん!悠くん!歓迎パーティを始めよーか!」

「もう始まってると思ってましたよ」

「何を言うか!楽しい時間はこれからだぞ!」


 買ってきたツマミを机の上に広げ、簡易的なパーティを始める。途中で戻ってきた刀司も加えて、その日の喧騒は夜が更けるまで続いた…

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