岩崎家長男(セカンドミッション)


 あれは二度目の召喚事件のあとだったか…ほぼ日課だった友紀の見舞いを終えて当時小学校低学年だった佑那の手を引き家に帰る途中だった。

「にーに、あれ!」

「んっ?」

 佑那の指さす方を見ると男性2人が車の側で周りを警戒しながらも談笑しているといういかにもな光景だった。

「にーに、成敗するの?」

「怪しいと言うだけで何も悪い事はしてないだろ?それに何もしていないのに武力を使うとこちらが悪い事になるんだぞ?」

「え…?」

 意外だったのか佑那は驚いた顔で俺を見る。

「ちゃんと相手が悪いって証拠がないと。ドラマでもそうだっただろ?」

「ん!しゅーせーえんとう!」

 妹よ、それは判決結果だ。

 しかしあの二人は少し怪しいな…この近くなら香椎の爺様の道場があるか。

「佑那。少し香椎の爺様の所に行こうか」

「うん!火付盗賊改見る!」

「……何故そこはスラスラ言えるのか、爺様と拳で語り合わねばならないか」

 そう思いながら一度その場を後にした。



「ほう?この付近でなぁ…富裕層と言えば中条と塔問だが、両方とも子供の送り迎えは車のはずだ。しかし少し物騒な話だな」

 香椎の翁は腕を組み小さく唸る。

「ジジ!火付盗賊改!」

「おお、おお見るか見るか!」

 ───こいつを合法的に斬り捨てる方法はないか?

「その前に警察に巡回の電話して欲しいのですが?」

「お前さん、ガチの殺気はやめてもらえんか?流石に心臓に悪い」

「未熟者の殺気なんぞ達人らしく受け流してください」

「お前が未熟なら儂も未熟じゃぞ?…分かった分かった。電話してくる」

 翁はため息を吐きながら電話へと向かった。

 そして二言三言会話をし、すぐに戻ってくる。

「周辺警邏を強化するようだ。どうも先月資産家の子が誘拐未遂事件があったようでな、組織犯の可能性があるようだ」

「日本の治安も悪くなっているようですね」

 世界の治安悪化に比べると格段どころかトップクラスに良いようだが…それでも事故や犯罪件数は増加傾向にある。


 職業を得た成人がダンジョン関係適合職であろうと無かろうと日本という国は個人の職業選択の自由を侵害しないと宣言した。

 そう、「国は」だ。

 その後国としては職業選択の自由を侵害しないが、地方自治体や民間に関しては国は関与していないため口を出すべきでは無い。と、はじめからこう言うために予防線張ったんだろうと言うレベルの発言をしている。

 尚、その発言をした時の木林喜一郎総理のお膝元では総理の後援団体が戦闘職を大量に囲いダンジョン発掘作業を強要。しかもそれが総理からの指示だということで政党支持率が一桁まで落ちて大騒ぎになった。

 ……その数ヶ月後に心臓発作で急死したが。

 ふと佑那を見ると翁と一緒に時代劇を見ている。

 同心2人が蕎麦について話をしながら啜るシーンを興味深く見ている。

 時代的にあの頃のそばつゆは垂れ味噌だったか、醤油と酒などを合わせたつゆだったか…江戸時代の蕎麦が食べたいと言われた時用に昔造りの日本酒も探しておこう。

 そんな事を考えていると電話が鳴った。

 翁は小さく舌打ちをして電話口へと向かう。

 そして、

「おいおい…連中パトカーに向かって発砲したらしいぞ」

 とんでもない台詞が聞こえた。

「何とか1人は取り押さえたらしいが、2名は逃走中とのことだ。更に言うとうちの方向に向かっているらしい」

「……はぁ、顔を知っているので、見つけ次第取り押さえます」

「頼んだぞ」

 翁のイイ笑顔に若干イラッとしながらも香椎の屋敷から外に出た。



 で、1分経たずに接敵した。

 ご丁寧に銃を片手に走ってくる。

「退けっ!」

 男が声を荒げる。

 俺は慌てて避けるフリをして銃を持つ男の顎下の頸動脈から顎関節、耳朶辺りに掛けて拳を走らせた。

「!?」

 男はガクリとその場で倒れ、もう一人が何事かと足を止めた。

 こういった状態で足を止めるのは悪手だ。

 なにせ敵の攻撃範囲で無防備を晒すわけだから。

 一歩踏み込み相手のバランスを崩し、手を取り引き倒して相手の腕をロックする。

 そして最初に倒した男の上に被せるように乗せて…よし、完成。

 銃はハンカチでくるむように取り、こちらで保管しておく。

 あ、最初に倒した人が吐いてる…まあ、目眩を起こしているんだろうな…知るか。

 暫く待っていると警察官が4名走ってきた。

「ああ、ご苦労様です。まずは本物の警察官かの証明をお願いします」

「えっ!?あっ、は、はい…」

 警察官は驚きながらも警察手帳を開いて提示してきた。

「───はい。確かに。では二人を引き渡しますが…済みません、一番上の人物の拳銃はまだ回収していないので細心の注意を払ってください」

「ゥえ!?はい、分かりました!」

「あの、下の人間は吐いているんだが…」

「銃を相手に過剰防衛も何もないと思いますが…調べていただいても構いませんが、外傷は見られますか?」

「……いや、うん。ご協力感謝します」

「あと、これが拳銃です。指紋等付かないようにしてありますのでこの人物以外の指紋は全て関係者かと思われます」

「……重ね重ね、ご協力感謝します」

 犯人を引き渡し、名前等を聞かれたので「通報をした香椎道場関係者です」とだけ伝えその場を後にした。


 それから1週間後、俺は何故か男5人に囲まれて居た。

「おい、本当にコイツか?」

「はい。警察の知人の情報と特徴から間違いないかと思います」

「…まあいい。違ったら違ったらだな」

 そう言って銃を取り出す。

 ───うん。馬鹿だろこの人。

 二足幅の所で銃を取り出すなんて…奪えと言っているようなものだよな?

 瞬時に距離を詰め、手首を極めて銃をハンカチ越しで奪う。

 そして男の背後に回り首をロックする。

「ぐっ!?」

「セーフティーも解除してあるな…さて、何の用だ?」

『!?』

 ボスらしき人物を人質に取られ、囲みからも突破されているため男達はオロオロしている。

「円陣を組んで頭を下に向けろ」

 銃を向けると全員が大人しく従う。

 首をロックしている男を締め落とし、スマートフォンを取り出す。

 そして素早く現在地と誘拐犯罪者達の人数を記載してメッセージを送る。

「誘拐組織なのかそれとも自由利益集団なのか…」

 そう呟きながら男のジャケットを途中まで外し、後ろ手にまとめて縛り上げる。

 と、背後に気配を感じ横に跳び退くと銃声が響き渡った。

 後ろ手に縛った男が被弾したらしく悲鳴を上げる。

 それを耳にしながらも振り向きながら再度フェイントを掛け発砲者の元の方へと近付く。

 タァンッ、タァンッ

 俺目掛けて連続して発砲する相手に肉薄し、銃を持つ手首を握り投げ飛ばした。

「っ!…なんで当たらないんだ…」

 地面に突っ伏させて手早くジャケットを使い拘束していると離れた所からサイレンが鳴り響いた。

 円陣を組ませていた男達が動こうとしていたが「動くな」と力を籠めて言い、そのまま待機している。

 複数人数の足音がし、警察官達がなだれ込んできた。

「───また君か!」

 警察官の1人がそう声を上げる。が、

「警察から情報が漏れたらしく、俺が殺され掛けたんですが?」

「えっ!?」

「警察の知人が俺のことを教えたそうですよ?」

「……マジか」

 その警官はそう呟き連行されていく男達を見つめる。

 すると警官の1人と男の1人が小さく目配せをした。

「「…………」」

 俺と隣に立っていた警官はその様子を黙ってみていた。

「今の、見ましたね?」

「…ああ。調べてみる」

 警官は小さく頷く。

 それとこれを。

 その警官に銃を手渡す。

「おい?」

「流石に2人に突きつけられるなんて得難い経験をしました」

 俺はそれだけ言い、その場を後にした。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る