第11話 岩崎家ある朝の一幕

 午前3時に帰ってきた兄さんが朝6時から庭で套路?型?わからないけど、それをやっている。

 すごくゆっくりとした感じで手足を動かしながら時には立ち位置を入れ替え、次第に動きを早くしていく。

 30分ほどそれをやって家の中に入ってきた。

「ああ、友紀。おはよう、朝食済まんな」

[兄さんおはよう。あまり寝てないでしょ…食べたら1〜2時間は寝て]

「前向きに検討しよう」

[それ絶対に実行しないやつぅ]

「朝食は何だ?」

[もうっ、ハムエッグサンドとクリームスープ、ヨーグルトだよ]

「…クリームスープって、そんなに早くできたか?」

[時短次第かな。で?兄さんが朝からあんなことするって、どうしたの?]

 兄さんはお茶を飲み、一息吐く。

「昨晩の採掘はちょっと厄介ごとに巻き込まれたせいもあってな…」

 少し渋い顔。

 兄さんがそんな顔をするなんて、よほど最悪の状態だったのかなぁ…

「おはよー」

 寝癖がついた状態でのそのそと佑那がやって来た。

「おはよう佑那」

[おはよう佑那。朝食できてるから顔洗ってシャキッとしてきて?]

「ぅあー…兄さんが洗ってー」

「たわしが良いか?」

「それ金たわしだからね!?」

 悲鳴を上げながら佑那は洗面所へと駆け込んだ。

 もう、いつまで経っても甘えん坊なんだから…もうちょっとシャキッとしてくれないかなぁ。


 朝食を食べ終えたところで兄さんは僕たちを見る。

「2人とも、今後ダンジョンに潜る場合、気を付けて欲しい事がある」

 兄さんはそう切り出す。

 僕はみんなの分のコーヒーを注いで席に着く。

「何かあったの?」

 佑那も真剣な顔で兄さんを見る。

「何が原因かは知らんが、一時的に職業及びスキルがキャンセルされる事態に陥ったんだ」

「いやそれ致命傷だよね!?」

[兄さん怪我ない!?大丈夫!?]

 焦る僕らに兄さんはコーヒーを一口飲む。

 いやいや待って!何でそんなに余裕なの!?

「スキルは想定していたが、職までキャンセルされるとは思わなかったから地味に焦ったな…まあ、鬼と小鬼数体だったから問題はなかったが」

「[ぇえ……?]」

 僕と佑那は絶対同じ事を思った。

 ───何言ってんの?この兄者は…と。

「それでもこれまで培ってきた戦闘の経験や感覚は裏切らない。あと佑那、前に教えたヤツは確実にモノにしておけ」

「いやマジで兄さんしかできないからね!?まさか鬼も拳一つで倒したの!?」

「当たり前だろ。一切合切使えないんだから」

「ポーションも?」

「武器はそもそも持っていないし、アイテムもロックが掛かって取り出せなかった」

 アイテムが取り出せない?バックパック使えない?何そのトンデモ空間…殺意しかないじゃないか。

「小鬼は技能だけで倒せるが、鬼となると気を練って4〜50分戦闘してようやくだった…やりながら色々新しい戦い方を編み出せたから良かったが、せめてポーション類はバッグに入れておこうと思ったよ」

「そう言うレベルの問題じゃないと思うんだけどなぁ…」

「あと、本物の鬼と違ってダンジョン内で湧き出てくる鬼に内臓破壊系の技…浸透勁…衝撃のみのヤツはほぼ効かない。気籠めをしないと即カウンターを受ける」

「兄さん攻撃受けたの!?」

「もちろん受けたぞ。まあ、受け流したと言うのが正しいが」

[ええ…]

 受け流せるものなの?前に香椎のお爺ちゃんに妖魔との闘いについて聞いたら「腕が一瞬で使い物にならなくなるぞ」って言ってたのに…

「で、だ。そうなった時には全力で逃げられるよう佑那は走り込みを強化するように。足に気を籠めて初動で一気に離れる練習であれば間合いを詰める修行にもなって良いだろ」

「私だけ難易度凄くない!?友紀兄さん……は、ゴメン」

 うん。ええんやで?

 ニッコリと微笑んでみせる。

[走ると転ぶような僕に何を求めるんですかねぇ?]

 そもそもダンジョンには入らないと決めているのに…


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