調理実習と自宅料理の差異について
「兄さん!簡単な料理を教えてくださいっ!」
結羽人が夕食を作っている時、佑那がそんなお願いをしてきた。
「友紀に聞け」
フライパンから目を離さず、たった一言。
「友紀兄さんだと賢者に僧侶の基礎回復魔法を聞くようなものだよっ!」
「料理人に料理を聞く感じで良いじゃないか」
プレーンオムレツを一つ作り上げる。
「…それより前の段階だって知っているでしょ!?」
卵を掴み、親指でスッと殻を掻き切ると器用に開け、ボウルに落とす。
「お前…まさかまだ卵をまともに割れないのか?」
「調理実習の時はできます!」
「ならばそれをやれば良いだろ」
「卵の殻を超高速で斬るんだよ!?一般的ではないよね!?」
「分かっているのならやるなよ…」
「兄さんのそのやり方を伝授してください!」
泣きそうな顔で頼み込んでくる佑那に結羽人はため息交じりで説明を始める。
「人差し指と薬指、小指で卵を軽く握り込み、親指の爪で掻き切り、小指を少し強く握り混む。そうすることで卵が開き、中が下へと落ちる」
手早くプレーンオムレツを作り上げる。
「ほら、自分の分、卵を割ってみろ」
そう言って卵を2個渡す。
佑那は卵を受け取り───グシャッ
「お前は力加減を学んでいないアンドロイドか何かかな?」
呆れたように言う結羽人に祐奈は半泣きでボウルを見つめる。
「ほら、少し貸せ」
結羽人はボウルを取り、虚空にひっくり返す。
卵の殻と中身が虚空に留まり、その下にボウルを移動させると卵黄、卵白だけが落ちてきた。
「ほら、あと一つもやってみろ。卵を添える三本は頸動脈を添え押さえる感じだ」
「───ああ、成る程」
ペキッ、カッ
「出来ました!」
満面の笑みで結羽人を見る佑那だったが、
「きれいに割れた…だと!?」
「どういう意味!?」
険しい顔の結羽人に思わず吼える。
「いやお前、親指で中心点に圧も何も掛けてなかったよな?」
「…ですね」
「偶然の可能性もある。卵の大きさで握り混む位置や力の具合を変えれば良い」
「えっ?もう一回?卵、多くない?」
「少し厚めにすればいい。ふわとろ半熟オムライスにしよう」
結羽人は冷蔵庫からバターと牛乳を取り出す。
「では…」
ペキッ、カコッ
「…出来て、る?」
「出来ているな。よし。そのまま料理を作るか?」
「それは…ちょっとハードルが高いかなぁって…」
「卵焼きすらハードルが高いと申すか…」
結羽人の呆れたような声に唇を尖らせてふて腐れる佑那。
「ぜったいに焦がすもん!」
だだをこねる佑那に結羽人はため息を吐く。
「いつかは学ばなければならないぞ?」
「その時はその時!時間は掛かるかも知れないけど、修行と思って全力でやる!」
「───そうやって中途半端に気を抜いていると後で痛い目に遭うぞ」
「外では気を抜きませーん」
「家で出来ないのならば外ではその出来ない部分が滲み出てしまうぞ?」
「う゛っ…」
「それと、通じると思って足りない言い方をしているといつか大きな勘違いを起こす。少なくともそこから直せ」
「兄さんはお母さんか!」
「親代わりでもあるつもりだ」
「う゛~~~~~っ!」
ぐずる佑那を横に佑那特製オムレツを作りあげ、そのまま渡す。
「ほら、お前のだ。夕飯にするから友紀を呼んでくれ」
「おにーちゃーん!ゆーはーん!」
「だから言葉が足らんと言っただろうが…」
先に作っておいたオニオンスープをカップに注ぎながら今日何度目かのため息を吐く結羽人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます